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第四章 一人対一万人で絶体絶命 <第1話>
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<第四章 第1話>
ルビー・クールも、怒鳴り返した。内心を見透かされないように。銃口を向けながら。
「もし子どもを殺したら、次の瞬間には、あなたを射殺するわよ!」
ジャン=ジャックは、手近にいた女児の腕を引っ張り、自分に引き寄せた。銃口を、女児の頭に突きつけた。
「近づくな! それ以上近づいたら、このガキを殺す!」
「この距離ならもう、確実にあなたを射殺できるわ」
すでに、参謀ジャン=ジャックとの距離は、十五メートルほどだ。
ジャン=ジャックの顔には、焦りの色が濃厚に現れていた。十二月だというのに、額から汗を流している。冷や汗だろう。
大声で怒鳴った。ジャン=ジャックが。広場の左手のほうに向かって。
「第四中隊から第八中隊、全員、攻撃開始! 標的は、梁の上にいる赤毛女だ!」
規制線の向こう側にいる党員たちが、どよめいた。
攻撃といっても、どのように攻撃していいのか、わからないからだろう。拳銃を所持している者は、ほとんどいないはずだ。なぜなら無産者革命党は、極貧テロ組織だからだ。
刃物では、高さ三メートルの梁の上にいる相手には、届かない。投げるという手もあるが、充分に訓練していないと、そうはあたらない。
あとは、空き瓶を集めて投げるか、石畳を剥がして投げるかしかない。
そう思い、ルビー・クールがわずかに油断した直後だった。
中隊長らしき男が、ふところからリボルバーを取りだした。絞首刑台の正面に陣取る中隊だ。
銃口を向けた。ルビー・クールに向けて。距離は、十メートルほどしかない。
銃声が轟いた。
銃弾があたった。梁に。ルビー・クールの半メートルほど左だ。
すぐ近くだった。ルビー・クールは、恐怖で鳥肌が立つのを感じた。
だが次の瞬間には、発砲していた。ルビー・クールが。その中隊長に向かって。
頭部を撃ち抜いた。その中隊長は、即死した。
即死した中隊長の後方にいた党員たちが、悲鳴をあげた。頭部を貫通した銃弾が、後方の党員の肩などにあたったようだ。
中隊長たちが、次々にリボルバーを取りだし、銃口をルビークールに向けた。その数、四名だ。
連続で発砲した。ルビー・クールが。三発続けて。三名の中隊長に向かって。
だが、倒した中隊長の数は、二名だけだった。その二名は、ななめ右前方と、ななめ左前方の中隊で、二十メートルと少しの距離だ。
はずしたのは、一番左に陣取る中隊の隊長だ。その距離は、四十メートルはある。
その中隊長にはあたらなかったが、近くの党員にはあたったようで、絶叫が聞こえた。
その中隊長は反射的に撃ち返したが、もちろん、ルビー・クールにはあたらなかった。それどころか、銃弾は近くにさえ飛んでこなかった。
一番右に陣取る中隊の隊長との距離も、四十メートルはある。しかも、その中隊長とルビー・クールの間には、参謀ジャン=ジャックと、その部下百名がいる。彼らがじゃまになり、その中隊長は発砲できないようだ。
六発全弾撃ち尽くしたため、回転弾倉を開け、空薬莢を排出した。スカートを膝上までまくり上げ、弾薬ベルトを露出させた。
そのとき、良い考えが浮かんだ。
そうだ、徹甲弾を使おう。軍用の拳銃用徹甲弾だ。弾頭を軟鉄で覆い、貫通力を高めた弾丸だ。距離にもよるが、近距離ならば、敵が細い木の背後に隠れても、木の幹を貫通して敵を殺傷できる。
先月、いつも利用している東区の銃火器店で、拳銃用の三十二口径徹甲弾が、入荷したことを知った。
いわゆる貴族区の銃火器店では、顧客の大部分は、帝国陸軍下級将校の下級貴族男性だ。なぜなら将校は皆、自分が身につける拳銃とサーベルを、自分で購入しなければならないからだ。通常は、三十六口径の拳銃を、腰のホルスターに入れて、身につける。一部の大男は、四十五口径だ。だが、一部の下級将校は、二挺目の予備拳銃として、三十二口径の拳銃を、足首の外側にホルスターを装着し、ズボンの裾で隠して身につける。
軍用歩兵銃の弾丸は、すべて徹甲弾だ。遮蔽物の多い戦場で戦う際には、貫通力のある徹甲弾のほうが、敵を殺傷しやすいからだ。
とはいえ、下級将校が身につける拳銃は、敵を撃つためとは限らない。敵前逃亡や命令違反の味方兵士を撃つためにも使う。貫通力が高すぎると、他の味方の兵士にあたってしまう。そのため、多くの下級将校は、自分の拳銃には徹甲弾を使わない。貫通力の低い、通常の拳銃弾を使用する。
しかし一部の下級将校は、敵と白兵戦になる状況を想定し、拳銃用の徹甲弾も購入する。
たまたまその徹甲弾が、先月入荷した。
一万人の大軍に包囲される状況を、想定したわけではなかった。
だが、十月の市民ホールのときのように、百名を超えるテロリストと戦う状況は、想定した。そこで、徹甲弾も購入した。弾丸ベルトの十八発のうち、六発を徹甲弾にしておいた。太ももの裏の六発だ。
手早く、徹甲弾を六発装填した。
そのときだった。正面の中隊で、死亡した中隊長のリボルバーを取り上げる者がいた。おそらく、副隊長だろう。
その男が、銃口を向けた。ルビー・クールに。距離は、十メートルほど。命中する可能性がある距離だ。素人であっても。
総毛立った。全身の毛が。恐怖で。
銃声が轟いた。
ルビー・クールも、怒鳴り返した。内心を見透かされないように。銃口を向けながら。
「もし子どもを殺したら、次の瞬間には、あなたを射殺するわよ!」
ジャン=ジャックは、手近にいた女児の腕を引っ張り、自分に引き寄せた。銃口を、女児の頭に突きつけた。
「近づくな! それ以上近づいたら、このガキを殺す!」
「この距離ならもう、確実にあなたを射殺できるわ」
すでに、参謀ジャン=ジャックとの距離は、十五メートルほどだ。
ジャン=ジャックの顔には、焦りの色が濃厚に現れていた。十二月だというのに、額から汗を流している。冷や汗だろう。
大声で怒鳴った。ジャン=ジャックが。広場の左手のほうに向かって。
「第四中隊から第八中隊、全員、攻撃開始! 標的は、梁の上にいる赤毛女だ!」
規制線の向こう側にいる党員たちが、どよめいた。
攻撃といっても、どのように攻撃していいのか、わからないからだろう。拳銃を所持している者は、ほとんどいないはずだ。なぜなら無産者革命党は、極貧テロ組織だからだ。
刃物では、高さ三メートルの梁の上にいる相手には、届かない。投げるという手もあるが、充分に訓練していないと、そうはあたらない。
あとは、空き瓶を集めて投げるか、石畳を剥がして投げるかしかない。
そう思い、ルビー・クールがわずかに油断した直後だった。
中隊長らしき男が、ふところからリボルバーを取りだした。絞首刑台の正面に陣取る中隊だ。
銃口を向けた。ルビー・クールに向けて。距離は、十メートルほどしかない。
銃声が轟いた。
銃弾があたった。梁に。ルビー・クールの半メートルほど左だ。
すぐ近くだった。ルビー・クールは、恐怖で鳥肌が立つのを感じた。
だが次の瞬間には、発砲していた。ルビー・クールが。その中隊長に向かって。
頭部を撃ち抜いた。その中隊長は、即死した。
即死した中隊長の後方にいた党員たちが、悲鳴をあげた。頭部を貫通した銃弾が、後方の党員の肩などにあたったようだ。
中隊長たちが、次々にリボルバーを取りだし、銃口をルビークールに向けた。その数、四名だ。
連続で発砲した。ルビー・クールが。三発続けて。三名の中隊長に向かって。
だが、倒した中隊長の数は、二名だけだった。その二名は、ななめ右前方と、ななめ左前方の中隊で、二十メートルと少しの距離だ。
はずしたのは、一番左に陣取る中隊の隊長だ。その距離は、四十メートルはある。
その中隊長にはあたらなかったが、近くの党員にはあたったようで、絶叫が聞こえた。
その中隊長は反射的に撃ち返したが、もちろん、ルビー・クールにはあたらなかった。それどころか、銃弾は近くにさえ飛んでこなかった。
一番右に陣取る中隊の隊長との距離も、四十メートルはある。しかも、その中隊長とルビー・クールの間には、参謀ジャン=ジャックと、その部下百名がいる。彼らがじゃまになり、その中隊長は発砲できないようだ。
六発全弾撃ち尽くしたため、回転弾倉を開け、空薬莢を排出した。スカートを膝上までまくり上げ、弾薬ベルトを露出させた。
そのとき、良い考えが浮かんだ。
そうだ、徹甲弾を使おう。軍用の拳銃用徹甲弾だ。弾頭を軟鉄で覆い、貫通力を高めた弾丸だ。距離にもよるが、近距離ならば、敵が細い木の背後に隠れても、木の幹を貫通して敵を殺傷できる。
先月、いつも利用している東区の銃火器店で、拳銃用の三十二口径徹甲弾が、入荷したことを知った。
いわゆる貴族区の銃火器店では、顧客の大部分は、帝国陸軍下級将校の下級貴族男性だ。なぜなら将校は皆、自分が身につける拳銃とサーベルを、自分で購入しなければならないからだ。通常は、三十六口径の拳銃を、腰のホルスターに入れて、身につける。一部の大男は、四十五口径だ。だが、一部の下級将校は、二挺目の予備拳銃として、三十二口径の拳銃を、足首の外側にホルスターを装着し、ズボンの裾で隠して身につける。
軍用歩兵銃の弾丸は、すべて徹甲弾だ。遮蔽物の多い戦場で戦う際には、貫通力のある徹甲弾のほうが、敵を殺傷しやすいからだ。
とはいえ、下級将校が身につける拳銃は、敵を撃つためとは限らない。敵前逃亡や命令違反の味方兵士を撃つためにも使う。貫通力が高すぎると、他の味方の兵士にあたってしまう。そのため、多くの下級将校は、自分の拳銃には徹甲弾を使わない。貫通力の低い、通常の拳銃弾を使用する。
しかし一部の下級将校は、敵と白兵戦になる状況を想定し、拳銃用の徹甲弾も購入する。
たまたまその徹甲弾が、先月入荷した。
一万人の大軍に包囲される状況を、想定したわけではなかった。
だが、十月の市民ホールのときのように、百名を超えるテロリストと戦う状況は、想定した。そこで、徹甲弾も購入した。弾丸ベルトの十八発のうち、六発を徹甲弾にしておいた。太ももの裏の六発だ。
手早く、徹甲弾を六発装填した。
そのときだった。正面の中隊で、死亡した中隊長のリボルバーを取り上げる者がいた。おそらく、副隊長だろう。
その男が、銃口を向けた。ルビー・クールに。距離は、十メートルほど。命中する可能性がある距離だ。素人であっても。
総毛立った。全身の毛が。恐怖で。
銃声が轟いた。
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