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<第三章 第2話>
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<第三章 第2話>
副司令官が、銃口を向ける直前だった。
ルビー・クールのほうが、一瞬早く、引き金を引いた。
額を撃ち抜かれ、副司令官は絶命した。
「副司令!」
周囲の部下たちが、絶叫した。
ルビー・クールは、続けざまに三発、発砲した。石畳を剥がそうとしていた党員三名の右肩に、命中した。その三名は、のたうち回って絶叫した。
周囲の党員たちが、恐怖で立ちすくんだ。間近に三名の出血を見て、絶叫を耳にしたためだ。
右肩を銃撃したのは、意図的だ。頭部を銃撃して殺してしまうよりも、負傷させるだけのほうが、戦術的に効果的だと考えたからだ。
死体は悲鳴をあげないし、逃げ出すこともない。
だが、右肩を撃たれただけなら、負傷者は激痛で泣き叫び、自分の足で歩いて逃げ出すはずだ。数名が逃げ出し始めれば、他の党員たちも、戦意が低い者を中心に、恐怖に駆られて逃げ出すはずだ。
とっさの判断で、ルビー・クールは、そう考えた。
所持している弾丸には、限りがある。広場にいる男たちのほんの一部しか、射殺できない。ゆえに、ルビー・クールが生き残る方法は、党員・党友たちが恐怖に駆られ、逃げ出す状況をつくるしかない。
リボルバーの残弾数は、あと二発。その二発を、最大限に有効活用するには、誰を撃つべきか。
銃口を向けながら、男たち一人一人の顔に、視線を向けた。党員の中には、銃口を向けて目が合うと、怯える表情を見せる者もいた。
彼らは、銃撃の対象から外そう。彼らは、逃げ出す一歩手前の精神状態のはずだ。きっかけを作れば、逃げ出すはずだ。
一人の男が、罵声を浴びせた。ルビー・クールに。小型の手斧を振り上げ、向かってきた。
これは、まずい。手斧を投げつけられて、もしあたったら、大怪我をして三メートル下に転落してしまう。
発砲した。
その男の頭部を、撃ち抜いた。
数人の若い党員たちが、長身の中年男に視線を向けた。絶望の表情で。
「中隊長、指示を!」
どうやらこの組織は、百人で一個中隊のようだ。
長身の中隊長に、銃口を向けた。
目があった。中隊長と。彼の表情は、恐怖で歪んでいた。
どうするべきか。
一瞬、迷った。
だが、発砲した。
絶叫した。中隊長が。
右肩を、撃ち抜いたからだ。
六発全弾、撃ち尽くした。
回転弾倉を開けて下に向け、重力を使って空薬莢を排出した。
党員の一人が、それを見て叫んだ。
「弾切れだぞ!」
「まだまだ、あるわよ!」
ルビー・クールが、大声で叫んだ。
ロングスカートの右裾を、まくり上げた。右膝の十センチメートルほど上まで。
白い手製の弾丸ベルトが、現れた。十八発入りだ。
指の間に二発ずつはさんで弾丸を抜き取り、手早く回転弾倉に装填した。
十二月で寒いため、両手には、薄手の黒革の手袋をしている。革はとても薄いため、拳銃を撃つ際には、まったく支障はない。だが、素手よりも若干滑りやすいため、一度に三発抜き取るのは、やめておいた。貴重な弾丸を三メートル下に落下させたら、たいへんだからだ。
六発を装填し終わり、回転弾倉をもとに戻した。
銃口を、中隊長に向けた。
右腕をまっすぐに伸ばし、狙いをつけた。
中隊長が叫んだ。恐怖の表情で。
「副司令を病院へ運べ!」
そう叫びながら背を向け、駆け出した。左手の出入り口に向かって。
党員たちは一瞬、呆然と立ち尽くした。
あたりまえだ。副司令官は頭部を撃ち抜かれ、どう見ても死んでいる。
だが次の瞬間、数人の党員たちが、副司令の死体を持ち上げ、駆け出した。中隊長の後を追いかけた。
他の党員たち百名弱も、バラバラと駆け出した。逃げ出した中隊長のあとを追うために。
十数秒で、副司令官が率いていた一個中隊約百名は、広場から撤退した。広場の左右は、高さ五メートルの石塀に覆われている。そのため、左手の出入り口から出て行ってすぐに、彼らの姿は見えなくなった。
うまくいった。成功だ。六発の弾丸で、百人を撤退させたのだから。
そのときだった。
怒鳴り声が聞こえた。
「全員、投げろ!」
大量の空き瓶が、飛んできた。右ななめ後方からだ。司令官が率いていた中隊だ。
痛みが走った。
何発か、あたったのだ。右肩、右脇腹、右膝だ。
転落した。足を踏み外して。右膝に走った痛みのせいだ。
まずい、まずい、まずすぎる。
左手を必死に上に伸ばした。梁をつかむために。
副司令官が、銃口を向ける直前だった。
ルビー・クールのほうが、一瞬早く、引き金を引いた。
額を撃ち抜かれ、副司令官は絶命した。
「副司令!」
周囲の部下たちが、絶叫した。
ルビー・クールは、続けざまに三発、発砲した。石畳を剥がそうとしていた党員三名の右肩に、命中した。その三名は、のたうち回って絶叫した。
周囲の党員たちが、恐怖で立ちすくんだ。間近に三名の出血を見て、絶叫を耳にしたためだ。
右肩を銃撃したのは、意図的だ。頭部を銃撃して殺してしまうよりも、負傷させるだけのほうが、戦術的に効果的だと考えたからだ。
死体は悲鳴をあげないし、逃げ出すこともない。
だが、右肩を撃たれただけなら、負傷者は激痛で泣き叫び、自分の足で歩いて逃げ出すはずだ。数名が逃げ出し始めれば、他の党員たちも、戦意が低い者を中心に、恐怖に駆られて逃げ出すはずだ。
とっさの判断で、ルビー・クールは、そう考えた。
所持している弾丸には、限りがある。広場にいる男たちのほんの一部しか、射殺できない。ゆえに、ルビー・クールが生き残る方法は、党員・党友たちが恐怖に駆られ、逃げ出す状況をつくるしかない。
リボルバーの残弾数は、あと二発。その二発を、最大限に有効活用するには、誰を撃つべきか。
銃口を向けながら、男たち一人一人の顔に、視線を向けた。党員の中には、銃口を向けて目が合うと、怯える表情を見せる者もいた。
彼らは、銃撃の対象から外そう。彼らは、逃げ出す一歩手前の精神状態のはずだ。きっかけを作れば、逃げ出すはずだ。
一人の男が、罵声を浴びせた。ルビー・クールに。小型の手斧を振り上げ、向かってきた。
これは、まずい。手斧を投げつけられて、もしあたったら、大怪我をして三メートル下に転落してしまう。
発砲した。
その男の頭部を、撃ち抜いた。
数人の若い党員たちが、長身の中年男に視線を向けた。絶望の表情で。
「中隊長、指示を!」
どうやらこの組織は、百人で一個中隊のようだ。
長身の中隊長に、銃口を向けた。
目があった。中隊長と。彼の表情は、恐怖で歪んでいた。
どうするべきか。
一瞬、迷った。
だが、発砲した。
絶叫した。中隊長が。
右肩を、撃ち抜いたからだ。
六発全弾、撃ち尽くした。
回転弾倉を開けて下に向け、重力を使って空薬莢を排出した。
党員の一人が、それを見て叫んだ。
「弾切れだぞ!」
「まだまだ、あるわよ!」
ルビー・クールが、大声で叫んだ。
ロングスカートの右裾を、まくり上げた。右膝の十センチメートルほど上まで。
白い手製の弾丸ベルトが、現れた。十八発入りだ。
指の間に二発ずつはさんで弾丸を抜き取り、手早く回転弾倉に装填した。
十二月で寒いため、両手には、薄手の黒革の手袋をしている。革はとても薄いため、拳銃を撃つ際には、まったく支障はない。だが、素手よりも若干滑りやすいため、一度に三発抜き取るのは、やめておいた。貴重な弾丸を三メートル下に落下させたら、たいへんだからだ。
六発を装填し終わり、回転弾倉をもとに戻した。
銃口を、中隊長に向けた。
右腕をまっすぐに伸ばし、狙いをつけた。
中隊長が叫んだ。恐怖の表情で。
「副司令を病院へ運べ!」
そう叫びながら背を向け、駆け出した。左手の出入り口に向かって。
党員たちは一瞬、呆然と立ち尽くした。
あたりまえだ。副司令官は頭部を撃ち抜かれ、どう見ても死んでいる。
だが次の瞬間、数人の党員たちが、副司令の死体を持ち上げ、駆け出した。中隊長の後を追いかけた。
他の党員たち百名弱も、バラバラと駆け出した。逃げ出した中隊長のあとを追うために。
十数秒で、副司令官が率いていた一個中隊約百名は、広場から撤退した。広場の左右は、高さ五メートルの石塀に覆われている。そのため、左手の出入り口から出て行ってすぐに、彼らの姿は見えなくなった。
うまくいった。成功だ。六発の弾丸で、百人を撤退させたのだから。
そのときだった。
怒鳴り声が聞こえた。
「全員、投げろ!」
大量の空き瓶が、飛んできた。右ななめ後方からだ。司令官が率いていた中隊だ。
痛みが走った。
何発か、あたったのだ。右肩、右脇腹、右膝だ。
転落した。足を踏み外して。右膝に走った痛みのせいだ。
まずい、まずい、まずすぎる。
左手を必死に上に伸ばした。梁をつかむために。
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