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<第二章 第3話>
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<第二章 第3話>
両腕に、強い衝撃が走った。
だがなんとか、両腕で梁を押さえた。押さえたというより、梁に両腕を絡めた、というべきか。
とりあえず、転落は阻止した。
副司令官が叫んだ。
「あの赤毛ビッチの足をつかんで引きずりおろせ!」
バラバラと、絞首刑台上の男たちが近づき、跳び上がってルビー・クールの足をつかもうとした。
ルビー・クールは、両膝を上にあげ、足を縮めて、男たちの手をかわした。
すばやく、梁の上に這いあがった。
一人の男が、絞首刑用ロープを登り始めた。
まずい、まずい、まずい。
これでは、左右と下方の三方向から同時攻撃を受けてしまう。
左袖に刺していた釘を右手で抜いた。司令官を殺害した釘だ。梁の上にあがったあと、制服の左袖の外側に、刺していた。先端が顔を出すように。乱闘で落ちたかと思っていたが、まだあった。
ロープを這いあがってくる男に、声をかけた。その釘を、見せつけた。そのうえで、魔法詠唱を行い、釘を投げつけた。
本物の釘は外れたが、魔法の釘は、男の右目に突き刺さった。
男は絶叫し、ロープを思わず放し、転落した。
左右から、再び男たちが接近してきた。
その距離は、すでに三メートルを切っている。
手早く絞首刑用ロープを、梁の上に引きあげた。誰も登ってこれないように。
ルビー・クールは、右手を、制服の上着の右ポケットに入れた。
右手を出した。釘が三本現れた。人差し指から小指までの四本の指の間に、三本の釘をはさんでいた。先端が上を向くように。
まず、右手から接近してくる男たちに、釘を見せつけた。右手を顔の前にかかげて。
次に、振り返り、左手から接近する男たちに、釘を見せつけた。
男たちの距離が、二メートルまで縮まった。
ルビー・クールは魔法詠唱しながら、右手の男たちに、釘を投げつけた。
いや、正確には、本物の釘は投げず、投げたふりをしただけだったが。
先頭の男が、姿勢をかがめて、釘を避けようとした。
だが、絶叫をあげた。
先頭の男と、その後ろの男が。
魔法の釘は、先頭の男とその後ろの男の右目に刺さった。
その二人の男は、足を踏み外し、絶叫しながら転落した。
次の瞬間、ルビー・クールは振り返り、魔法の釘を投げつけた。
二人の男が、悲鳴をあげて転落した。
ルビー・クールは魔法詠唱しながら、次々に魔法の釘を投げつけた。左右から接近してくる男たちにたいして。
副司令官が、怒鳴っていた。
彼のいる位置からでは、距離的に、なにが起きているのか、見えていないはずだ。
副司令官は、絞首刑台の左ななめ前にいる。百人ほどの部下と共に。ルビー・クールとの距離は、十メートル以上ある。十二メートルか十三メートルほどか。
広場の群衆のどよめきや歓声は、凄まじい音量だ。そのため副司令官には、ルビー・クールの魔法詠唱は聞こえていないはずだ。
魔法は、音声が聞こえなければ、幻覚も見えないし、幻痛も感じない。
そのため副司令官には、魔法の釘が見えていないはずだ。ゆえに、なぜ部下たちが、次々に梁から転落するのかが、わからない。
梁の上から、男たちがいなくなった。
転落させた数は、十名以上だ。
もう、梁の上に登ってくる者は、いなくなった。
梁の上に登った男たちは、もともと身軽で、高所になれている者たちだったのだろう。そうした男たちは、全員転落し、足首などを負傷した。
残りの男たちは、高所に自信がない者たちだろう。だから、もう、登ってこない。
広場の群衆が、怒声をあげた。「早く引きずり下ろせ」と。
広場の群衆は、単なる観客と化していた。梁の上のルビー・クールの大立ち回りを見て、歓声をあげていた。無産者革命党の党員が転落するのを見ても、歓声をあげていた。彼らにとって、サーカスを見ているような感覚なのだろう。
すでにルビー・クールは、気づいていた。
この広場にいる男たちは、二種類いることを。
一種類目は、左腕に赤い腕章をつけている男たちだ。彼らは、無産者革命党の正規の党員だろう。人数は、千名ほどだ。
二種類目は、広場にいる大部分の男たちで、左胸に、赤い缶バッジをつけている。彼らは、党友のようだ。党員と党友の違いは不明だが、少なくともこの広場にいる党友は、サーカスの見物客のように、ヤジを飛ばしながら、見ているだけだ。
副司令官が、怒鳴った。
「石だ! 石を投げてぶつけて、あのビッチを落とせ!」
誰かが、空き瓶を投げた。ビールの小瓶だ。
あたらなかったが、ルビー・クールの近くをかすめた。
まずい、まずい、まずい。
投げた物があたったら、それだけでバランスを崩して転落してしまう。
かと言って、梁の下におりれば、数百人の党員たちに一斉に襲われてしまう。そうなれば、あっという間に両腕をつかまれ、羽交い締めにされて拘束されてしまう。
だがこのままでは、いずれ空き瓶などがあたり、転落してしまう。
まずい、まずい、まずいすぎる。なんとかしなければ。
だが、いったいどうすれば、いいのか。
第三章に続く
両腕に、強い衝撃が走った。
だがなんとか、両腕で梁を押さえた。押さえたというより、梁に両腕を絡めた、というべきか。
とりあえず、転落は阻止した。
副司令官が叫んだ。
「あの赤毛ビッチの足をつかんで引きずりおろせ!」
バラバラと、絞首刑台上の男たちが近づき、跳び上がってルビー・クールの足をつかもうとした。
ルビー・クールは、両膝を上にあげ、足を縮めて、男たちの手をかわした。
すばやく、梁の上に這いあがった。
一人の男が、絞首刑用ロープを登り始めた。
まずい、まずい、まずい。
これでは、左右と下方の三方向から同時攻撃を受けてしまう。
左袖に刺していた釘を右手で抜いた。司令官を殺害した釘だ。梁の上にあがったあと、制服の左袖の外側に、刺していた。先端が顔を出すように。乱闘で落ちたかと思っていたが、まだあった。
ロープを這いあがってくる男に、声をかけた。その釘を、見せつけた。そのうえで、魔法詠唱を行い、釘を投げつけた。
本物の釘は外れたが、魔法の釘は、男の右目に突き刺さった。
男は絶叫し、ロープを思わず放し、転落した。
左右から、再び男たちが接近してきた。
その距離は、すでに三メートルを切っている。
手早く絞首刑用ロープを、梁の上に引きあげた。誰も登ってこれないように。
ルビー・クールは、右手を、制服の上着の右ポケットに入れた。
右手を出した。釘が三本現れた。人差し指から小指までの四本の指の間に、三本の釘をはさんでいた。先端が上を向くように。
まず、右手から接近してくる男たちに、釘を見せつけた。右手を顔の前にかかげて。
次に、振り返り、左手から接近する男たちに、釘を見せつけた。
男たちの距離が、二メートルまで縮まった。
ルビー・クールは魔法詠唱しながら、右手の男たちに、釘を投げつけた。
いや、正確には、本物の釘は投げず、投げたふりをしただけだったが。
先頭の男が、姿勢をかがめて、釘を避けようとした。
だが、絶叫をあげた。
先頭の男と、その後ろの男が。
魔法の釘は、先頭の男とその後ろの男の右目に刺さった。
その二人の男は、足を踏み外し、絶叫しながら転落した。
次の瞬間、ルビー・クールは振り返り、魔法の釘を投げつけた。
二人の男が、悲鳴をあげて転落した。
ルビー・クールは魔法詠唱しながら、次々に魔法の釘を投げつけた。左右から接近してくる男たちにたいして。
副司令官が、怒鳴っていた。
彼のいる位置からでは、距離的に、なにが起きているのか、見えていないはずだ。
副司令官は、絞首刑台の左ななめ前にいる。百人ほどの部下と共に。ルビー・クールとの距離は、十メートル以上ある。十二メートルか十三メートルほどか。
広場の群衆のどよめきや歓声は、凄まじい音量だ。そのため副司令官には、ルビー・クールの魔法詠唱は聞こえていないはずだ。
魔法は、音声が聞こえなければ、幻覚も見えないし、幻痛も感じない。
そのため副司令官には、魔法の釘が見えていないはずだ。ゆえに、なぜ部下たちが、次々に梁から転落するのかが、わからない。
梁の上から、男たちがいなくなった。
転落させた数は、十名以上だ。
もう、梁の上に登ってくる者は、いなくなった。
梁の上に登った男たちは、もともと身軽で、高所になれている者たちだったのだろう。そうした男たちは、全員転落し、足首などを負傷した。
残りの男たちは、高所に自信がない者たちだろう。だから、もう、登ってこない。
広場の群衆が、怒声をあげた。「早く引きずり下ろせ」と。
広場の群衆は、単なる観客と化していた。梁の上のルビー・クールの大立ち回りを見て、歓声をあげていた。無産者革命党の党員が転落するのを見ても、歓声をあげていた。彼らにとって、サーカスを見ているような感覚なのだろう。
すでにルビー・クールは、気づいていた。
この広場にいる男たちは、二種類いることを。
一種類目は、左腕に赤い腕章をつけている男たちだ。彼らは、無産者革命党の正規の党員だろう。人数は、千名ほどだ。
二種類目は、広場にいる大部分の男たちで、左胸に、赤い缶バッジをつけている。彼らは、党友のようだ。党員と党友の違いは不明だが、少なくともこの広場にいる党友は、サーカスの見物客のように、ヤジを飛ばしながら、見ているだけだ。
副司令官が、怒鳴った。
「石だ! 石を投げてぶつけて、あのビッチを落とせ!」
誰かが、空き瓶を投げた。ビールの小瓶だ。
あたらなかったが、ルビー・クールの近くをかすめた。
まずい、まずい、まずい。
投げた物があたったら、それだけでバランスを崩して転落してしまう。
かと言って、梁の下におりれば、数百人の党員たちに一斉に襲われてしまう。そうなれば、あっという間に両腕をつかまれ、羽交い締めにされて拘束されてしまう。
だがこのままでは、いずれ空き瓶などがあたり、転落してしまう。
まずい、まずい、まずいすぎる。なんとかしなければ。
だが、いったいどうすれば、いいのか。
第三章に続く
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