絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>

蛇崩 通

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<第二章 第2話>

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  <第二章 第2話>
 ルビー・クールは、首吊りロープをたぐり寄せた。首にかける輪のすぐ手前部分を右手で持ち、一メートル半ほど手前を左手で持った。ロープは太くて強靱きょうじんなため、重量がある。首にかける輪の部分は、三キログラムくらいはありそうだ。
 左右の柱を登り切り、先頭の男たちがはりの上に立った。
 梁は、一度に五名を絞首刑にできるほどの長さで、十五メートルほどある。
 ルビー・クールがいる位置は、ちょうど真ん中のあたりだ。
 左右から、男たちがにじり寄ってきた。
 次々に、左右の柱を登り切り、男たちが梁の上に立った。
 だが、にじり寄ってくる男たちの動きは、左右いずれも遅い。
 それは、当然だ。
 梁の上は、風が吹いている。わずかな風だが、梁の幅が狭いため、身体のバランスをほんのわずかに崩しただけで、三メートル下に転落しかねない。男たちが慎重になるのも、当然だ。
 絞首刑台の下から、副司令官が怒鳴った。
 「さっさと、そのビッチを引きずりおろせ!」
 その一言で、左右の男たちのを進める速度が増した。
 このままこの位置にとどまっていると、左右からの同時攻撃を受けてしまう。
 それは、避けたい。
 ルビー・クールは、右側へ、一歩進んだ。
 風が吹いた。
 身体が揺れた。
 内心、ヒヤッとした。
 たいした強さの風ではないのだが、足を踏み外してしまいそうだ。三メートルも下に落下したら、たいへんだ。足から落下すれば、死ぬことはないだろうが、足の骨を折ってしまうかもしれない。少なくとも、足首を痛めて、まともに歩けなくなってしまうのは確実だ。この状況下では、それは、戦えなくなることを意味する。つまり、事実上の死だ。
 絶対に、落下は避けなければならない。
 気をつけながら、右側へ、もう一歩進んだ。
 右側から接近してきた小男が、口を開いた。
 「このビッチ、オレに会いに来たぜ。オレにホレてるぜ」
 その小男の後ろにいた男が、軽口をたたいた。
 「おまえじゃなく、オレに会いに来たんだよ」
 「どちらも不正解よ」
 ルビー・クールは冷たく言い放つのと同時に、首輪の部分を投げつけた。一人目の小男の顔面に向けて。
 ギャッと悲鳴をあげて、小男は転落した。三メートル下に。顔面には、軽くあたっただけだったが。しかし、それによりバランスを崩し、足を踏み外したのだ。
 「このアマ!」
 二人目の男が激怒し、歩を早めた。
 ルビー・クールは、左手でロープをたぐり寄せた。
 二人目の男が、一メートル強の距離まで、接近した。
 首輪の部分を、顔面に向かって投げつけた。
 だが相手は、上体を反らして、かわした。
 二人目の男が、向かってきた。
 まずい。ロープの回収は、間に合わない。もう一度、首輪の部分を、投げつけるには時間が足りない。
 二人目の男が、左手を伸ばした。左足を前に踏み込みながら。
 その瞬間、ルビー・クールは、右足で相手の左足を払った。相手の左足が着地する直前に。
 二人目の男は、左足を着地できず、転落した。悲鳴をあげながら。
 剣術で使う足払いだ。うまく、決まった。
 だが、ルビー・クールも、バランスを崩した。転落しそうになった。
 だが、なんとか、こらえた。両腕を左右に水平に伸ばし、バランスを保った。
 冷や汗を、かいた。
 背後を、振り返った。
 左手の男は、すぐ近くにまで接近していた。
 男が、手を伸ばしてきた。
 その手を、自分の左手で払った。
 お互いに、バランスを崩した。
 バランスを取り戻すのに、苦労した。お互いに。
 「突き落としてやるぜ」
 男はそう吐き捨て、一歩踏み込み、左手でルビー・クールの胸を押そうとした。
 その左手の手首を、ルビー・クールは右手でつかんで引いた。
 男が転落した。悲鳴をあげながら。
 その瞬間、ルビー・クールも悲鳴をあげた。
 転落しつつも、その男は、ルビー・クールの右足のつま先に手をかけたのだ。つかむことはできなかったが。
 だがそれだけで、ルビー・クールの右足は、梁を踏み外した。バランスを崩し、転落した。
 まずい。まずすぎる!
 一巻の終わりか?
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