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第二章 絞首刑台上で絶体絶命 <第1話>

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  <第二章 第1話>
 司令官が、笑い転げた。
 「逆襲だと? どうやってだ? 両手には手錠をかけられ、首にはロープをかけられて、絞首刑台の上で」
 笑いながら、右手でルビー・クールの髪の毛を、再びつかんだ。顔面を殴ろうと、左手をあげた。
 次の瞬間には、ルビー・クールの右拳みぎこぶしが、司令官の首の頸動脈けいどうみゃくに、叩き込まれていた。
 右の拳を引くと、細い血しぶきが、噴水のように噴出した。
 ルビー・クールの右拳の人差し指と中指の間からは、先端が針のように鋭く加工された釘が、突き出していた。
 その直後、ルビー・クールは、再び右拳を叩き込んだ。首の頸動脈に。こぶし一個分ほど下だ。
 二本目の細い噴水が吹き出した。
 司令官は、見る見るうちに顔面蒼白となり、後方に倒れた。切り倒された枯れ木のように。
 絶叫した。無産者革命党の党員たちが。
 副司令官が、怒鳴った。
 「なぜ、手錠がはずれているんだ!」
 手錠は、時間がかかったが、なんとか外せた。時間稼ぎが、成功した。
 副司令官が、叫んだ。
 「絞首刑、執行! 執行!」
 死刑執行人が、大型レバーをおろした。
 ルビー・クールの足下の床が、二つに割れて下に開いた。
 ルビー・クールの両足が、宙に浮いた。
 だが、ルビー・クールの身体は、落下しなかった。
 両手で、頭上のロープを握りしめたからだ。両手の握力で、身体の落下を止めていた。
 それを見た副司令官が怒鳴った。
 「あのビッチの足を引っ張れ! 体重をかけて、あのビッチを首吊りにしろ!」
 数名の無産者革命党の党員が、絞首刑台に向かって駆けだした。
 まずい、まずい、まずい。しがみつかれて体重をかけられたら、握力が持たない。首吊りになってしまう。
 あわてて、首吊りロープを、両手の力だけでのぼり始めた。
 だが、すぐに党員たちが、絞首刑台に駆けあがってきた。
 最初に絞首刑台にあがった党員が、ルビー・クールの足をつかもうとした。
 思い切り、蹴り飛ばした。顔面を。右足で。
 二番目の党員が、足をつかもうとした。
 蹴り飛ばした。今度は左足で。
 三番目の党員が、足首をつかもうとした。右足で蹴ろうとしたが、あたらなかった。相手の頭より上を蹴ったためだ。
 両手の力で、さらにロープを登った。
 三番目の党員が、跳び上がってルビー・クールの足をつかもうとしたが、両足を上にあげて、かわした。
 そのままスイスイと首吊りロープを両手の握力だけで登った。自分の体重くらいなら、両手の握力で充分に持ち上げられる。今年の六月から筋トレを始めて、もう六ヶ月になる。その成果だ。
 首吊りロープは、三メートルほどの高さの位置にあるはりから、吊されている。ルビー・クールはロープを登り終わると、梁に右足をかけて、梁の上にあがった。首から、首吊りロープをはずした。
 副司令官が、怒鳴った。
 「あの赤毛のビッチを、引きずりおろせ!」
 数名の党員が、絞首刑用の梁を渡している左右の柱を、よじ登り始めた。
 まずい、まずい、まずい。これでは、左右から挟撃きょうげきされてしまう。
 しかも、この梁の幅は、二十センチメートルくらいしかない。気をつけないと、足を踏み外し、三メートル下に転落してしまう。
 どこへ逃げる?
 いや、逃げ場はない。
 戦うしかない。
 だが、どう戦う?
 転落の危険性は高い。
 絶体絶命の窮地か?
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