絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<エピローグ 第8話>

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   <エピローグ 第8話>
 五月の二度目の土曜日。夜。州都のオペラ劇場。
 拍手が鳴り続ける中、劇場内が、明るくなった。
 きれいに着飾った観客たちが、席を立ち始めた。
 サファイア・レインは放心したまま、ため息をついた。
 「夢が、かなったわ」
 左頬ひだりほおだけでニヤリと笑いながら、ルビー・クールが声をかけた。
 「まだ半分しか、叶ってないわよ。あなたの夢は。今日の上演種目は、オペラではなく現代物の大衆歌劇だったから。だから、まだ満足しちゃダメよ。本物のクラシック・オペラを見るまでは。モーツァルトの作品だったかしら? あなたが死ぬまでに見たいオペラは」
 パール・スノーが、口をはさんだ。
 「この作品、なかなか楽しめたわ。だけどなんでヒロインは、赤毛で、ルビーという名前なんだよ。その点が、おもしろくないぜ」
 「それは、実話を元にした小説が、原作だからよ」
 そう言ってルビー・クールは、ショルダーバッグから、薄い本を一冊、取り出した。
 ペーパーバックだ。
 「この本、『愛と正義のために』は、帝都の流行作家の本で、今年の二月に出版されたのよ。元となった実話は、昨年十月に帝都で発生した市民ホール占拠事件。事件のあと、作家自身が、人質となっていた市民たちに取材し、実話に脚色して書いたのよ」
 驚いた顔で、パール・スノーが尋ねた。
 「市民ホール占拠事件って、あんたの事件じゃん」
 「あたしが犯人のような言い方しないでよ。あたしは、犯人のテロリストたちと戦ったのよ」
 興奮した面持おももちで、パール・スノーが食いついた。
 「実話ってことは、恋したのか? イケメンの新聞記者と! 恋仲に、なったのか?」
 「それは、フィクションよ。そもそも、現場に新聞記者なんか、いなかったし」
 がっかりした表情をした。パール・スノーが。
 「恋か……。素敵ね。あたしも、してみたいわ」
 サファイア・レインが、夢見るような表情で、そう言った。
 「できるわよ。あなたも」
 「無理だろ。あたしたちには」
 パール・スノーのその言葉に、すぐさま反論した。ルビー・クールが。
 「そんなこと、ないわ。あたしのママは、パパのことを愛しているわよ。恋愛結婚じゃないけど」
 そう言いながら、ルビー・クールが立ち上がった。
 「さあ、もうそろそろ、出ましょう。夜行列車で、帝都に帰るわよ」
 パール・スノーが、イヤそうな顔をした。
 「あ~。帝都なんて、帰りたくねえ。帝都に帰ったら、カネを使えない。せっかく貧乏から解放されて、大金を手に入れたのに」
 ルビー・クールたちは、ハイエナ団を全滅させ、彼らが貯め込んでいた資金を入手した。
 だが、帝都では、贅沢ぜいたくはできない。
 下層下級貴族の家は、どこも、家計が苦しい。
 そのため、下層下級貴族の娘が、オペラ劇場などに足を運ぶのを、万一、知り合いに見られたら、不審に思われる。カネの出所でどころが、どこなのかを。
 それをきっかけに、悪い噂が立つと、まずい。
 だから帝都では、派手な消費はできない。
 そのため今回のように、知り合いが誰もいない地方都市に、慈善活動で訪れたときに、贅沢をするしかないのだ。
 笑いながらルビー・クールが、なだめた。パール・スノーを。
 「再来週の土曜日、また来るんだから。再来週も、この州都で楽しみましょう。次は、オーケストラの演奏とか」
 「いいわね。クラシック・コンサートも」
 サファイア・レインのその言葉に、パール・スノーが、文句をつけた。
 「あたし、クラシックより、流行歌手のコンサートのほうがいいわ」
 「それも、いいわね」
 ルビー・クールは、そう言いながら、言葉を続けた。
 「全部、享受しましょう。慈善活動で、地方都市を回りながら」
 笑いながら、パール・スノーが答えた。
 「ほかの町でも、今回のような殺し合いになったりして」
 「そのときは、頼りにしてるわよ。パール」
 すぐさま口をはさんだ。サファイア・レインが。
 「やめてよ。縁起でもない。殺し合いなんて、もうたくさんよ」
 彼女の顔は、本当にいやそうだった。
 思わず、笑った。ルビー・クールは。
 呼びかけた。二人に。笑顔で。
 「さあ、帰りましょう。私たちの家へ」

                                                             <炎の反逆者編>おわり
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