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<エピローグ 第7話>

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   <エピローグ 第7話>
 リリアとミラの姉妹を、ルビー・クールは、交互に見つめた。
 静かに、口を開いた。
 「バレリー村出身のマリア・シュミットって、あなたたちの親戚かしら?」
 リリアが、驚いた表情をした。
 「はい。一番上の姉です。二年前に帝都に働きに行って、それ以来、音信不通です。帝都に着いたら、手紙を書くと言ってたのに……」
 真剣な眼差しを向けながら、ルビー・クールは、ゆっくりと話した。
 「マリア・シュミットは、帝都で、病気で亡くなったわ」
 衝撃を受けた顔をした。リリアも、ミラも。
 涙を、流し始めた。ミラが。
 リリアは、うつむいたまま、言葉を絞り出した。
 「生きているなら、手紙を出すはずですから、覚悟は、していました……」
 涙をぬぐいながら、リリアが顔を上げた。
 「なぜルビー様が、マリアお姉ちゃんを、姉のことを、ご存じなのですか?」
 「あたしたちの慈善団体は、最近になってから、新しい活動を始めたの。地方出身者で、帝都で亡くなった女性について、地方の遺族に知らせ、集めた見舞金を贈る活動よ。昨年十二月の帝都大乱のときに、たくさんの人が亡くなったのを機に。帝都大乱の前に亡くなった人も含めて、ね」
 「いつ頃、亡くなったのですか?」
 「一昨年の秋頃だと、聞いたわ」
 「帝都に行って、それほど経たないうちに……」
 「多いのよ。環境が変わると、体調を崩す人が。それに、帝都などの大都会は、感染症の流行が多いし。都会人は感染症になれているから、若ければ、めったに病死しない。だけど農村出身者は、感染症になれてないから、若くても亡くなる人が、毎年、けっこういるそうよ」
 ミラが、口を開いた。涙を流しながら。
 「最後の状況を、教えてください」
 「同僚のメイドたちから聞いた話では、前の日から咳風邪せきかぜを、ひいていたそうよ。夜になって咳がひどくなったので、朝になったら医者に診せようと、メイドたちは話していたそうなんだけど……」
 そこで、いったん、言葉を切った。
 「朝になったら、冷たくなっていたそうよ。ベッドの中で」
 しばらくの間、沈黙が流れた。
 リリアもミラも、涙の量が、増えた。
 涙を拭いながら、リリアが尋ねた。
 「姉のマリアは、メイドをしていたのですね」
 「ええ。南二区のお金持ちの屋敷で。ほかのメイドたちは、マリアが、フロスハーフェン市近郊のバレリー村出身、ということは知っていたけれど、住所は知らなかった。だから、遺族に手紙を出すことが、できなかった。そこで、あたしたちがバレリー村に行って、彼女の実家を探すことにした。フロスハーフェン市で、バレリー村行きの乗り合い馬車を探していたところ、リリア、あなたに出会ったのよ」
 「天国のマリアお姉ちゃんが、引き合わせてくれたのかも。天使様に頼んで。もしあのとき、ルビー様と出会えなければ、あたしも、あの男に拉致されて、今頃、殺されていたかもしれない。ミラお姉ちゃんと一緒に……」
 かすかに、微笑ほほえんだ。ルビー・クールが。
 「そうかも、しれないわね。あたしも、リリアと出会って、あなたたち姉妹を助けることができて、良かったわ」
 本当に、そのとおりだ。ルビー・クールは内心、強く、そう思った。
 マリア・シュミットは、帝都に出てきてすぐに、ハイエナ団というマフィア組織に誘拐され、違法な奴隷オークションで性奴隷として売却された。大金持ちの男に。
 ハイエナ団は、一ヶ月と少し前、ルビー・クールたちが、全滅させた。
 ハイエナ団の顧客名簿を利用し、少女たちを購入した大金持ちたちに、制裁を加えた。
 少女たちを殺していた猟奇殺人犯は、銃殺した。ルビー・クールが。
 購入した少女たちを殺していない大金持ちからは、慰謝料を取り、少女たちを解放した。
 そうした大金持ちの中には、殺していないが、少女が病死したケースもあった。解放した少女たちからも、亡くなった状況を聞いた。
 マリア・シュミットは、たしかに、咳風邪が原因で死亡した。
 とはいえ、咳をし始めたときに、すぐに医者に診せていれば、助かったかもしれない。
 彼女の命を救えなかったことは、残念でならない。
 だが、すべての人を救うことは、できない。
 それに、一年半前の自分では、ハイエナ団の存在を知っても、なにもできなかっただろう。弱すぎて。
 しかし今回、リリアとミラは、救うことができた。幸運にも。
 マリア・シュミットの遺族と会うことができたため、これで、バレリー村に行く必要は、なくなった。
 今回の旅行の本来の目的は、これで、果たした。
 これで、帝都に帰れる。
 涙をきながら、リリアが尋ねた。
 「ルビー様は、天使様ですか?」
 敬虔なキリスト教の信者は、こう考える。本当に自分が困っているときに、見ず知らずの他人が助けてくれると、天使が人の姿をして助けに来てくれた、と。
 「違うわ」
 即答した。ルビー・クールが。優しく微笑みながらも。
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