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<エピローグ 第3話>

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   <エピローグ 第3話>
 ホフマンが耳にしたのは、帝都女性友愛会か、帝都南区女性友愛会だ。いずれも、大手の慈善団体だ。前者は、多数の貴族女性が集まって設立した老舗慈善団体で、後者は、大金持ちのブルジョア女性が設立した慈善団体だ。
 おそらく、ホフマンが耳にしたのは、後者のほうだ。
 なぜなら、大金持ちのブルジョア令嬢の中には、中等教育を受けた後、大手の慈善団体に入会し、慈善活動をする者が少なくない。一種の花嫁修業として。
 大手慈善団体での慈善活動歴は、花嫁としてはくがつくからだ。
 ホフマンが耳にしたのは、おそらく、知人の結婚披露宴のときだろう。花嫁の経歴の中に、帝都南区女性友愛会の名称が出てきたのだろう。
 南帝都女性友愛会は、ルビー・クールが設立した慈善団体だ。もちろん、わざと名称をさせた。大手老舗慈善団体に。
 ルビー・クールが最初に設立した慈善団体は、女性自立支援センターという名称だ。この名称だと、いかにも過激な女権拡張論者の団体のようで、他人が寄りつかない。もちろん、それが狙いだ。
 だが、その団体名では、地方では活動しにくい。警戒されすぎるのは、目に見えている。
 そこで、より穏健で、よくある名称の慈善団体を、新たに設立した。
 しかも、マリア・シュミットという偽名で。
 マリア・シュミットは、地方から帝都に出てきて、すぐに亡くなった少女だ。そのため、彼女のことを知っている者は、帝都には、ほとんどいない。
 よって、彼女の名前を使用しても、偽名だとバレることはない。
 ルビー・クールは、帝都南三区の区役所の出張所に行き、マリア・シュミットの名前で住民登録した。写真付き住民登録証を、発行してもらった。
 その住民登録証を持参して、南一区の区役所に行き、慈善団体の設立届を提出した。その慈善団体が、南帝都女性友愛会だ。
 これで誰も、ルビー・クールの正体にも、本名にも、たどり着けない。
 仮に、フロスハーフェン市の誰か、たとえば市議会議長が、南帝都女性友愛会について、調べたとする。調査方法は、部下を帝都に派遣するか、帝都で探偵を雇うしかない。
 部下もしくは探偵は、帝都女性友愛会か、帝都南区女性友愛会と誤解し、余計な時間と経費を浪費する。
 南帝都女性友愛会にたどり着くためには、南一区の区役所に行き、慈善団体の届け出を調べなければならない。
 区役所に提出された南帝都女性友愛会の情報は、わずかだ。代表者の氏名、団体の住所、郵便物の郵送先の三点だけだ。
 代表者はマリア・シュミットで、団体の住所は、とある雑居ビルだ。郵便物の郵送先は郵便局留めで、その雑居ビル近くの郵便局だ。
 もちろん、その雑居ビルには、南帝都女性友愛会の事務所など、入居していない。
 南帝都女性友愛会に手紙を送れば、ルビー・クールに届く。なぜなら、女性自立支援センターの女性専属スタッフが、郵便局で手紙を受け取るからだ。
 だが、南帝都女性友愛会やマリア・シュミットを、いくら調べても、実態も正体も、わからない。
 立ち上がった。ルビー・クールが、ソファーから。
 「ホフマンさん、火急の用件はんだし、おいとましましょう。あなたの昼食は、市長公邸に用意させてあるわ」
 「あそこで食事するんですか? たくさんの死体が発見されたところで」
 「遺体は全部、すでに霊安室に運んであるわよ」
 「ちょっと、待て」
 市議会議長が、呼び留めた。
 「まだ重要な話が、残っているだろ」
 「なにかしら?」
 「委託料の金額だ。市の予算から出すなら、市議会での可決が必要だ」
 ルビー・クールは、立ったまま答えた。
 「最初の四ヶ月間、つまり八月までは、経費はすべて、我々の慈善団体が支出するわ。新年度は九月からでしょ。市議会への予算案の提出は七月か八月で、可決は八月末くらいかしらね」
 市議会議長が、答えた。
 「予算案の提出は、七月上旬までに行うのが望ましい」
 「了解したわ」
 そう言って、ルビー・クールは言葉を続けた。
 「委託料の金額については、家賃と人件費、それに光熱水費と諸雑費から、妥当な金額が算出されるわ。人件費は、五名から、最大で十名ね。一年目は。州知事との約束なんだから、一年目は、新市長提案の予算案から、削減しないでちょうだい。もちろん、最初の一年間の実績が乏しければ、二年目以降は、市議会で予算を削減してもいいわよ」
 市議会議長は、了承した。納得した顔で。
 ルビー・クールは、ホフマンを連れて、市議会議事堂を出た。
 順調に、進んでいる。
 とはいえ、今日中に、やらねばならない仕事が、やまほどある。
 思わず、ため息をついた。心の中で。
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