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<第十八章 第7話>
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<第十八章 第7話>
重々しい口調で、州知事が話し始めた。
「承認状を渡す前に、言っておかねばならぬことが、ある。特に、フロスハーフェン市の新市長には。あれだけの大事件が、起きたのだからな」
説教が、始まった。州知事から、ホフマン新市長への。
いや、説教と言うより、訓示のようなものか。
ルビー・クールは、ホッと胸をなで下ろした。心の中で。表情には、いっさい出さなかったが。
その訓示は、五分間か六分間ほど続いた。
「心得たか?」
ホフマンは、硬直して無反応だった。
肘で、つついた。ルビー・クールが、ホフマンを。
「ぜ、善処します!」
少しズレた返答だ。
だが、「善処します」は、ルビー・クールが教えた返答例だ。
州知事が、合図した。不満そうな表情ながらも。
秘書官が、ホフマンに承認状を渡した。
両手で、受け取った。ホフマンが。
承認式が、終了した。
秘書官から、知事室からの退出を命じられた。
その直後、ルビー・クールが懇願した。
「写真を、お願いします! 州知事閣下と、ホフマン新市長のツーショット写真を!」
秘書官が、眉をひそめた。
「州知事閣下は、写真撮影を好まない」
食い下がった。ルビー・クールが。
「ですが、地元大手紙の一面トップになりますよ。州知事閣下が、フロスハーフェン市の新市長に訓示、と!」
新聞記者も、興奮して懇願した。
「その見出し、いいですね! 大事件が起きた市の新市長への訓示! これは一面確実です。私は、デスクではないですけど。お願いします! 州知事閣下!」
秘書官が、不愉快そうな表情で、口を開いた。
「だから、言ってるだろ。州知事閣下は……」
「まあ、良い」
州知事が、鷹揚に右手を振った。
「写真くらい、いいだろう。今回は、特別に。州民も関心を寄せる町の新市長だからな」
写真を、撮った。
構図は、秘書官が提案し、州知事が承諾した。
州知事は、執務椅子に座っている。ホフマン新市長が、大型執務机のななめ前に立ち、承認状を胸の位置で開いて両手で持っている。
そうした構図だ。
ホフマンは緊張のあまり、表情が、強張っている。
今にも、泣きそうな感じだ。
この写真は、絶対に一面トップになるな、と思った。
なぜなら、校長先生に大目玉を食らった小学生のような光景だからだ。
ホフマンは、前市長の悪事とは、まったく関係ない。
だが、新聞の読者の多くは、写真を見て思うはずだ。
悪さをした町の新市長に、州知事が、正義の鉄拳制裁をした、と。
写真撮影を終え、ルビー・クールたちは、知事室を出た。
州庁舎の前で馬車を拾い、鉄道の駅に向かった。
ホフマンは、放心していた。馬車の中で。強烈な緊張感から、解放されたからだ。
一方、新聞記者は、記事の執筆をしていた。揺れる馬車の車内で。
すぐに、鉄道の駅に着いた。
新聞記者は、鉄道駅の待合室のベンチに腰かけ、記事を書き続けた。
「もうそろそろ、改札を通るわよ」
そう声をかけると、新聞記者が答えた。興奮した面持ちで。
「できた!」
書き終えたばかりの記事の原稿を、助手に渡した。助手は、専用の革製肩掛け鞄に、原稿を入れた。それに、カメラマンから渡されたフィルムも。
助手が、駆け出した。鉄道駅の外に向かって。
駅の外で馬車を拾い、新聞社の本社に向かうためだ。
カメラマンは、カメラを二つ持っている。大型の高性能カメラで撮ったフィルムは、新聞社の本社に届ける。一方、小型のカメラでとったフィルムは、フロスハーフェン支局に持ち帰る。
後者は、今日中に現像したあと、ルビー・クールに渡される約束だ。
それを、今夜中に、印刷機を持つ広告業者に渡す。
今夜も徹夜で印刷してもらい、明日の朝には、市の広報紙の号外を無料配布する。ポールたち新聞売りを使って。
ルビー・クールが、声をかけた。放心中のホフマンに。
「さあ、帰るわよ」
午後三時発の列車に乗った。フロスハーフェン市に、帰るために。
すべての山場は、越えた。すべての関門も。
やるべき仕事は、まだ、残っているが。
揺れる列車の中で、ルビー・クールは、しばし放心した。表情には、出さなかったが。
エピローグに続く
重々しい口調で、州知事が話し始めた。
「承認状を渡す前に、言っておかねばならぬことが、ある。特に、フロスハーフェン市の新市長には。あれだけの大事件が、起きたのだからな」
説教が、始まった。州知事から、ホフマン新市長への。
いや、説教と言うより、訓示のようなものか。
ルビー・クールは、ホッと胸をなで下ろした。心の中で。表情には、いっさい出さなかったが。
その訓示は、五分間か六分間ほど続いた。
「心得たか?」
ホフマンは、硬直して無反応だった。
肘で、つついた。ルビー・クールが、ホフマンを。
「ぜ、善処します!」
少しズレた返答だ。
だが、「善処します」は、ルビー・クールが教えた返答例だ。
州知事が、合図した。不満そうな表情ながらも。
秘書官が、ホフマンに承認状を渡した。
両手で、受け取った。ホフマンが。
承認式が、終了した。
秘書官から、知事室からの退出を命じられた。
その直後、ルビー・クールが懇願した。
「写真を、お願いします! 州知事閣下と、ホフマン新市長のツーショット写真を!」
秘書官が、眉をひそめた。
「州知事閣下は、写真撮影を好まない」
食い下がった。ルビー・クールが。
「ですが、地元大手紙の一面トップになりますよ。州知事閣下が、フロスハーフェン市の新市長に訓示、と!」
新聞記者も、興奮して懇願した。
「その見出し、いいですね! 大事件が起きた市の新市長への訓示! これは一面確実です。私は、デスクではないですけど。お願いします! 州知事閣下!」
秘書官が、不愉快そうな表情で、口を開いた。
「だから、言ってるだろ。州知事閣下は……」
「まあ、良い」
州知事が、鷹揚に右手を振った。
「写真くらい、いいだろう。今回は、特別に。州民も関心を寄せる町の新市長だからな」
写真を、撮った。
構図は、秘書官が提案し、州知事が承諾した。
州知事は、執務椅子に座っている。ホフマン新市長が、大型執務机のななめ前に立ち、承認状を胸の位置で開いて両手で持っている。
そうした構図だ。
ホフマンは緊張のあまり、表情が、強張っている。
今にも、泣きそうな感じだ。
この写真は、絶対に一面トップになるな、と思った。
なぜなら、校長先生に大目玉を食らった小学生のような光景だからだ。
ホフマンは、前市長の悪事とは、まったく関係ない。
だが、新聞の読者の多くは、写真を見て思うはずだ。
悪さをした町の新市長に、州知事が、正義の鉄拳制裁をした、と。
写真撮影を終え、ルビー・クールたちは、知事室を出た。
州庁舎の前で馬車を拾い、鉄道の駅に向かった。
ホフマンは、放心していた。馬車の中で。強烈な緊張感から、解放されたからだ。
一方、新聞記者は、記事の執筆をしていた。揺れる馬車の車内で。
すぐに、鉄道の駅に着いた。
新聞記者は、鉄道駅の待合室のベンチに腰かけ、記事を書き続けた。
「もうそろそろ、改札を通るわよ」
そう声をかけると、新聞記者が答えた。興奮した面持ちで。
「できた!」
書き終えたばかりの記事の原稿を、助手に渡した。助手は、専用の革製肩掛け鞄に、原稿を入れた。それに、カメラマンから渡されたフィルムも。
助手が、駆け出した。鉄道駅の外に向かって。
駅の外で馬車を拾い、新聞社の本社に向かうためだ。
カメラマンは、カメラを二つ持っている。大型の高性能カメラで撮ったフィルムは、新聞社の本社に届ける。一方、小型のカメラでとったフィルムは、フロスハーフェン支局に持ち帰る。
後者は、今日中に現像したあと、ルビー・クールに渡される約束だ。
それを、今夜中に、印刷機を持つ広告業者に渡す。
今夜も徹夜で印刷してもらい、明日の朝には、市の広報紙の号外を無料配布する。ポールたち新聞売りを使って。
ルビー・クールが、声をかけた。放心中のホフマンに。
「さあ、帰るわよ」
午後三時発の列車に乗った。フロスハーフェン市に、帰るために。
すべての山場は、越えた。すべての関門も。
やるべき仕事は、まだ、残っているが。
揺れる列車の中で、ルビー・クールは、しばし放心した。表情には、出さなかったが。
エピローグに続く
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