絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十八章 第6話>

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   <第十八章 第6話>
 ルビー・クールは、心の中で、問いかけた。
 この状況を乗り越えるのは、誰か?
 自分だ。
 自分しか、いない。
 本当は、ホフマン氏なのだが。
 だが、市長選挙の主催者は、自分だ。
 この市長選挙では、女性参政権も実現した。画期的な歴史的偉業だ。
 これを、ふいにしたくは、ない。
 今は、絶体絶命の窮地きゅうちか?
 いや、違う。この程度では。
 これまで、絶体絶命の窮地に、何度もおちいってきた。
 何度も、殺されかけ、死にかけた。
 それらの窮地を、すべて乗り越えてきた。
 それらに比べれば、たいしたことはない。失敗しても、この場で殺されることは、ないのだから。
 決心した。
 自分が、この状況を打開する。
 そう決意を固め、一歩、前に進み出た。毅然きぜんとした表情で。
 「多数決の結果には、神の御心みこころが現れる、と言います。ホフマン氏が新市長に選出されたのは、神の御心でしょう」
 キリスト教社会では、そのように考える。
 もちろん、多数決の結果にしたがったせいで、ひどい状況に陥ることもある。
 そうしたとき、敬虔なキリスト教徒は、こう考える。
 神が、試練を与えたのだ、と。
 キリスト教の神は、人間の信仰を試すために、しばしば試練を与える。
 だが、乗り越えることのできない試練は、与えない。
 ゆえに、神が人間に与えた理性を最大限に発揮し、全力を尽くせば、どのような試練も、乗り越えることができる。
 そう考える。
 とはいえ、近代以降、知識人は、神の名をあげて説明することを、ひかえるようになった。
 神の名を出さずに、合理的に説明することこそが科学的だと、考えるようになったためだ。
 ジロリと、にらみつけた。州知事が。ルビー・クールを。
 神の名を出したのは、知識人としては、失格だ。
 だが、秘書官の報告により、ルビー・クールのことを、田舎町の女だと思っているはずだ。ある程度の教育は受けているが、高等教育は受けていない。
 そのため、神の名を出しても、ダメ出しは、されないはずだ。
 州知事が口を開かないため、ルビー・クールが言葉を続けた。
 「規制緩和には、州知事閣下がおっしゃったように、マイナス面もあります。ですが、プラス面もあります。それは、商品の生産や売買が活発になり、職人や商人の収入が増加します。フロスハーフェン市は商業都市ですので、規制緩和により、多くの市民がうるおい、生活が豊かになるはずです」
 厳しい表情のまま、州知事がうなずいた。一定の納得は、したようだ。
 「じゃが、不良品や粗悪品の問題は、どうする?」
 「そうした問題が最小限になるように、緩和する規制を吟味し、善処します」
 「規制緩和によって、失業する者も出るが、その問題は?」
 「規制緩和は、新たな雇用も生み出すはずです。失業者は、新たな仕事に就けるように、再就職の支援をします」
 「具体的には?」
 「就職の相談窓口を新たに作り、職業訓練を支援します」
 州知事は、腕を組み直した。視線を、ホフマンに向けた。
 「それで、今後の施政方針は?」
 ひじで、つついた。ルビー・クールが、ホフマンを。
 「市民の平和を守り、市の秩序を守ります」
 声を、絞り出した。ホフマンが。緊張した面持おももちで。
 その回答は、模範解答だ。ルビー・クールが、事前に教えた。
 大きく頷いた。州知事が。
 「まあ、いいだろう。承認だ」
 身体の力が、一気にけた。ホッとしたため。
 だが、両足に力を込めて、踏ん張った。
 まだ、終わっていない。
 あと、もう少しだ。
 州知事は、机の上の書類に、サインをした。
 あらかじめ、用意してあったようだ。
 秘書官に、手渡した。
 秘書官が、ホフマン氏の前に移動した。
 そのときだった。
 「待て!」
 厳しい口調だった。州知事の口調は。
 緊張が、走った。
 その場にいた全員に。
 なにか、ミスをしたのか。自分が。
 そのミスにより、バレたのか。まずいことが。
 ルビー・クールの心臓は、早鐘はやがねを打った。
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