絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十七章 第2話>

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   <第十七章 第2話>
 レストランに入った。ルビー・クールが、先頭に立って。
 「ご紹介します、秘書官様。この方が、市議会議長です」
 すぐに、市議会議長に視線を向けた。
 「議長閣下、この方が、州知事閣下の秘書官様です」
 「まあ、かけたまえ」
 秘書官が、上から目線で、市議会議長に椅子を勧めた。
 だが、立ち尽くした。市議会議長が、緊張のあまり。
 緊張するのは、当然だ。
 この町には、貴族はいない。
 よって、貴族に会ったのは、初めてのはずだ。
 そのうえ相手は、州知事の秘書官だ。小さな田舎町の市議会の議長よりも、遥かに格上の存在だ。
 市議会議長は立ち尽くしたまま、なんとか声をしぼり出した。
 「このたびは、ご機嫌うるわしゅう……」
 「堅苦しい挨拶は、必要ない」
 もごもごと、口の中でなにかを言った。市議会議長が。おそらく、謝罪の言葉だろう。
 「君には、いくつか尋ねたいことがある」
 ゴクリと、ツバを飲んだ。市議会議長が。
 「君は、市議会議長として、市長親子の悪逆非道の行為を、なぜ止めなかったのかね」
 「それは、その……」
 冷や汗を、流し始めた。市議会議長が。
 自分も処断されると、思ったのだろう。
 口を、はさんだ。ルビー・クールが。
 「殺人については証拠がなかったため、議長閣下としては、対応できなかったのです」
 その言葉で、市議会議長も、話し始めた。
 「知らなかったんです。まさか、あのバカ息子が、たくさんの女性を殺していたなんて」
 「殺人以外の問題について、市議会議長として、どのような対応をしていたのかね」
 口ごもった。市議会議長が。
 「な、なにも……」
 その瞬間、ルビー・クールが口をはさんだ。
 「議長閣下は、市議会での厳正な審議によって、市長の悪政に抵抗していました。市長提案の増税も、阻止しました」
 市議会議長を弁護したのは、恩を売るためだ。
 「それでは、次の質問に移ろう。君の政治の方針は、どのようなものかね?」
 口ごもった。ふたたび。市議会議長が。
 彼は、なんと答えて良いのか分からず、戸惑っていた。
 代わりに答えた。ルビー・クールが。
 「すべての市民の幸福です」
 「うむ」
 満足そうにうなずいた。秘書官が。
 「それで、具体的な方法は?」
 また、口ごもった。市議会議長が。
 またもやビー・クールが、代わりに答えた。
 「毎年の予算審議では、市長提案の予算案を大幅に修正し、市民の福祉に努めてきました」
 市議会議長が、話をいだ。ようやく、声を絞り出して。
 「そのとおりです。市警の予算も、削減しました」
 「なんだと?」
 目をむいた。秘書官が。
 動揺した。市議会議長が。立ち尽くしたまま、身体が振るえ始めた。
 まずい。これは。
 秘書官は、市警が腐敗し、市長の私兵と化していたことを知らない。
 一方、市議会議長は、その話は、秘書官や州知事に伝わっていると思い込んでいる。ルビー・クールを通じて。
 あわててルビー・クールが、答えた。
 「貧困対策の予算を、増やすためです」
 「だが、市警の予算を削減したら、犯罪が増えるだろ」
 秘書官の表情は、不満そうだ。
 「限られた予算の中ですが、制服警官の数を最大限に増加させました。そのかわり、事務作業については、市庁舎の事務職員を派遣しました。それにより、制服警官のパトロールの回数を、増やすことができました」
 「そうか」
 一定の納得は、したようだ。秘書官は。
 「ほかに、何かご質問は、ございますか?」
 ルビー・クールが、秘書官に尋ねた。
 「うむ。それで、今後の君の施政方針は?」
 また、言葉に詰まった。市議会議長が。
 この町は、商業都市だ。市議会議長も、ほかの市議たちも、もともとは商人の家柄だ。そのため、政治理念など、考えたこともないのだ。
 一方の貴族は、理念的なことを主張するのが、大好きだ。
 代わりに、ルビー・クールが答えた。
 「誰が新市長に当選しても、新市長と協力し、市民の幸福のために尽力します」
 「うむ」
 秘書官は満足そうに、うなずいた。ルビー・クールの回答が、貴族にとっての模範解答だったからだ。
 「私の質問は、以上だ」
 ホッと、胸をなで下ろした。ルビー・クールは。
 これで、山場は越えた、と思った。
 そのときだった。
 市議会議長が、口を開いた。
 「州知事閣下のご意向は……」
 まずい。市議会議長は、確認するつもりだ。市長選挙が、本当に州知事の意向なのか否かを。
 これは、まずい。非常に。
 思わずあせった。ルビー・クールは。
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