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第十七章 最後の山場で絶体絶命 <第1話>
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<第十七章 第1話>
「かしこまりました。もう正午なので、ランチにしましょう。そのランチに、市議会議長にも、来てもらいます」
投票所の出口から出て、徒歩で、グランドパレスホテルに移動した。
一階のレストランに入った。
客は、誰もいない。
あたりまえだ。
貸し切りにしておいたのだ。
席についてすぐに、シェフが飛んで来た。
秘書官に、挨拶を始めた。もみ手をしながら。
「私はこのレストランのチーフ・シェフで、若いときに州都の高級レストランで修業しまして……」
秘書官は、シェフには、まったく興味を示さなかった。
ルビー・クールが、席を立った。
「市議会議長に電話をかけて、ここに来てもらいますわ」
ホテルの一階受け付けの電話を使って、市議会議事堂に電話をかけた。
議長室に繋いでもらった。
「あたしよ。前に話したとおり、州知事閣下の秘書官様が、市長選挙の視察に来てくださったわ。彼が、あなたと話したがっているから、グランドパレスホテルのレストランに来てちょうだい」
「わかった。今、行く」
昨日、市議会議長に電話で話しておいた。州知事の秘書官が、市長選挙の視察にくる予定だ、と。
もちろん、事前に予定を知っていたわけではない。
だが、新聞の朝刊で市長選挙が報道されれば、秘書官は必ず来るだろうと、予測していた。
そこで、あたかも自分が、秘書官の予定を知っているような口ぶりで、市議会議長に連絡しておいたのだ。
十数分後、市議会議長の乗った馬車が、グランドパレスホテルの裏手の駐車場に到着した。
ホテルの裏口のすぐ近くに、馬車を停めた。
狙撃を、防ぐためだ。
市議会議長は、暗殺を恐れていた。
以前、狙撃されたことがあったからだ。
銃弾は運良く外れ、事なきを得た。
犯人は、おそらく、市長が雇った男だ。だが、捕まらなかったので、真相は闇の中だ。
ルビー・クールは昨日、市議会議長に、直接会おうとした。
どんな男か、事前に自分の目で、見ておきたいと思ったからだ。
だが、拒否された。
ルビー・クールが、自分を殺害するのではないかと、恐れているようだった。
裏口から、市議会議長が入ってきた。五名の用心棒たちに、守られながら。
痩せた初老の男だった。
だが、眼光は鋭い。年老いた狼、といった感じだ。
「あたしが、ルビーよ」
「うむ」
「州知事の秘書官は、レストランでお待ちよ」
そう言いながら、左手を前に出した。手のひらを開いて。
停まれ、の合図だ。
「用心棒は、受付前のロビーで待機よ」
用心棒のリーダーが、口を開いた。
「我々は、議長閣下を、お守りしなければならない」
「ガンベルトを巻いている男たちを、秘書官のもとに連れて行くわけには、いかないわ。ホテル内の安全は、あたしが保証するわ」
用心棒たちは腰にガンベルトを巻き、ホルスターを一挺、吊していた。
用心棒のリーダーが、冷ややかな目で、ルビー・クールを見た。
「おまえは今、銃を持ってないだろ」
「持ってるわよ」
そう言いながら、右手で、ロングスカートの太もも部分をつかみ、裾を引き上げた。
右足首が、露出した。
足首の外側には、ホルスターが装着されている。
「あなたよりも、早く抜けるわよ」
鼻で笑った。用心棒のリーダーが。
次の瞬間、握られていた。銀色のリボルバーが。ルビー・クールの右手に。銃身の短い三十二口径の六連発だ。
どよめいた。用心棒たちが。
一人の用心棒が、思わずつぶやいた。
「魔法でも使ったのか」
「これは、魔法ではないわ」
ルビー・クールは、右膝を真上に向かって蹴り上げた。それにより、拳銃がホルスターから飛び出した。真上に向かって。それを、腰の位置で、右手でつかんだ。
彼らが見えなかったのは、それだけ、スピードが速かったからだ。右膝を蹴り上げるスピードが。
今度は、ゆっくりと右膝を上に上げた。
ゆっくりと、拳銃をホルスターに戻した。
「ホテル内での安全は、保証するわ。用心棒たちは、ここで待機よ」
「狙撃対策は?」
そう、尋ねてきた。用心棒のリーダーが。
「このホテルのレストランは、あなたも知ってのとおり、窓がステンドグラスよ。屋外から、レストラン内にいる標的を狙うことは、できないわ」
市議会議長が、口を開いた。ルビー・クールを見すえて。
「よかろう。おまえを信じることにする」
第一関門は、突破した。
だがここからが、山場だ。
うまく、やらなければ。
ルビー・クールは、心の中で、気合いを入れた。
「かしこまりました。もう正午なので、ランチにしましょう。そのランチに、市議会議長にも、来てもらいます」
投票所の出口から出て、徒歩で、グランドパレスホテルに移動した。
一階のレストランに入った。
客は、誰もいない。
あたりまえだ。
貸し切りにしておいたのだ。
席についてすぐに、シェフが飛んで来た。
秘書官に、挨拶を始めた。もみ手をしながら。
「私はこのレストランのチーフ・シェフで、若いときに州都の高級レストランで修業しまして……」
秘書官は、シェフには、まったく興味を示さなかった。
ルビー・クールが、席を立った。
「市議会議長に電話をかけて、ここに来てもらいますわ」
ホテルの一階受け付けの電話を使って、市議会議事堂に電話をかけた。
議長室に繋いでもらった。
「あたしよ。前に話したとおり、州知事閣下の秘書官様が、市長選挙の視察に来てくださったわ。彼が、あなたと話したがっているから、グランドパレスホテルのレストランに来てちょうだい」
「わかった。今、行く」
昨日、市議会議長に電話で話しておいた。州知事の秘書官が、市長選挙の視察にくる予定だ、と。
もちろん、事前に予定を知っていたわけではない。
だが、新聞の朝刊で市長選挙が報道されれば、秘書官は必ず来るだろうと、予測していた。
そこで、あたかも自分が、秘書官の予定を知っているような口ぶりで、市議会議長に連絡しておいたのだ。
十数分後、市議会議長の乗った馬車が、グランドパレスホテルの裏手の駐車場に到着した。
ホテルの裏口のすぐ近くに、馬車を停めた。
狙撃を、防ぐためだ。
市議会議長は、暗殺を恐れていた。
以前、狙撃されたことがあったからだ。
銃弾は運良く外れ、事なきを得た。
犯人は、おそらく、市長が雇った男だ。だが、捕まらなかったので、真相は闇の中だ。
ルビー・クールは昨日、市議会議長に、直接会おうとした。
どんな男か、事前に自分の目で、見ておきたいと思ったからだ。
だが、拒否された。
ルビー・クールが、自分を殺害するのではないかと、恐れているようだった。
裏口から、市議会議長が入ってきた。五名の用心棒たちに、守られながら。
痩せた初老の男だった。
だが、眼光は鋭い。年老いた狼、といった感じだ。
「あたしが、ルビーよ」
「うむ」
「州知事の秘書官は、レストランでお待ちよ」
そう言いながら、左手を前に出した。手のひらを開いて。
停まれ、の合図だ。
「用心棒は、受付前のロビーで待機よ」
用心棒のリーダーが、口を開いた。
「我々は、議長閣下を、お守りしなければならない」
「ガンベルトを巻いている男たちを、秘書官のもとに連れて行くわけには、いかないわ。ホテル内の安全は、あたしが保証するわ」
用心棒たちは腰にガンベルトを巻き、ホルスターを一挺、吊していた。
用心棒のリーダーが、冷ややかな目で、ルビー・クールを見た。
「おまえは今、銃を持ってないだろ」
「持ってるわよ」
そう言いながら、右手で、ロングスカートの太もも部分をつかみ、裾を引き上げた。
右足首が、露出した。
足首の外側には、ホルスターが装着されている。
「あなたよりも、早く抜けるわよ」
鼻で笑った。用心棒のリーダーが。
次の瞬間、握られていた。銀色のリボルバーが。ルビー・クールの右手に。銃身の短い三十二口径の六連発だ。
どよめいた。用心棒たちが。
一人の用心棒が、思わずつぶやいた。
「魔法でも使ったのか」
「これは、魔法ではないわ」
ルビー・クールは、右膝を真上に向かって蹴り上げた。それにより、拳銃がホルスターから飛び出した。真上に向かって。それを、腰の位置で、右手でつかんだ。
彼らが見えなかったのは、それだけ、スピードが速かったからだ。右膝を蹴り上げるスピードが。
今度は、ゆっくりと右膝を上に上げた。
ゆっくりと、拳銃をホルスターに戻した。
「ホテル内での安全は、保証するわ。用心棒たちは、ここで待機よ」
「狙撃対策は?」
そう、尋ねてきた。用心棒のリーダーが。
「このホテルのレストランは、あなたも知ってのとおり、窓がステンドグラスよ。屋外から、レストラン内にいる標的を狙うことは、できないわ」
市議会議長が、口を開いた。ルビー・クールを見すえて。
「よかろう。おまえを信じることにする」
第一関門は、突破した。
だがここからが、山場だ。
うまく、やらなければ。
ルビー・クールは、心の中で、気合いを入れた。
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