絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十六章 第10話>

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   <第十六章 第10話>
 声を、張りあげた。ルビー・クールが。
 「みなさん! 州知事閣下の秘書官様が、市長選挙の視察に来てくださいました!」
 一人の女性が、拍手をしながら叫んだ。「州知事閣下、万歳!」と。
 仕込み通りだ。
 彼女は、選挙管理委員会の女性スタッフだ。
 次々に数名の女性が、拍手をしながら「州知事閣下、万歳!」と叫んだ。
 彼女たちは全員、選挙管理委員会の女性スタッフだ。
 彼女たちにつられて、投票所にいた有権者たちが、拍手を始めた。「州知事閣下、万歳!」と叫びながら。
 秘書官は、この体験を報告する。州知事に。
 その報告を聞いた州知事は、安堵あんどするはずだ。フロスハーフェン市の市民たちは、革命や体制打倒に興味がない、と。市民たちは体制派だ、と。
 市民裁判を行い市長を処刑したのは、帝国の体制に不満があるからではなく、市長が極悪非道の殺人鬼だったからだ、と。
 これで、新市長が州知事に承認される可能性が、高まった。
 ルビー・クールは、心の中で、ほくそ笑んだ。
 秘書官が、尋ねた。
 「スタッフは、女性ばかりかね?」
 「文字の読み書きができる者が、少なかったので。そこで、この町の聖職者の方々にも、協力していただいています。そこに、神父様がおられます。それに、シスターたちには、開票作業を手伝ってもらっています」
 そう言って、指し示した。
 投票箱は、五つ並んでいる。
 その奥、グランドパレスホテル前の二車線の馬車道では、テーブルをいくつも並べ、すでに満杯になった五つの投票箱の開票作業を、進めていた。
 開票作業をしているのは、シスターたちだ。その監督をしているのが、神父だ。
 さらに、その開票作業を監視しているのが、サファイア・レインだ。
 パール・スノーは、投票所の入り口内側で、待機している。何かトラブルが発生したときに、対応するためだ。
 サファイア・レインも、パール・スノーも、一見すると、銃は身につけていない。
 実際には、ルビー・クールと同様に、左右の足首の外側に装着したホルスターに、銃身の短い三十二口径リボルバーを収めている。だが、ロングスカートのため、ホルスターは見えない。
 サファイア・レインとパール・スノーは、白い日傘も、手にしている。閉じたままの日傘を。右手に。
 その日傘の骨は、鋼鉄製だ。護身用に特注したものだ。
 そのとき、秘書官が気づいた。
 「今、婦人が投票したぞ」
 投票所には、多数のカップルがいた。中高年の夫婦が多かった。
 若者たちは、朝一番に投票した者が多かったからだ。
 中高年の夫婦たちは皆、着飾っていた。
 よその自治体の選挙は、富裕層のみの制限選挙だ。そのため、普段着では投票所に入れないと誤解し、着飾ったようだ。
 ルビー・クールが答えた。平然と。秘書官に。
 「はい。投票権は、この町に住民税を払い、住民登録している人に限定したんです。その結果、女性も投票権を得ました」
 「住民税を払っているだけで投票できるならば、未成年も投票できることになるのでは?」
 「その通りです。この町では、中所得以上の人は、十五歳前後で住民登録することが多いので、十五歳前後の有権者も少なからずいます」
 「十五歳では、判断能力が、充分ではないのでは?」
 「かもしれません。ですが、投票方法は、自分で候補者の名前を書く方式ですので、読み書きのできない者は、投票できません。したがって、一定水準以上の教育を受けた一定以上の判断能力を持つ者のみが、投票しています」
 「うむ。なるほどな」
 秘書官は、納得した顔でうなずいた。
 「投票の不正防止対策は、どうなっている?」
 すらすらと答えた。ルビー・クールは。予期していたからだ。
 「同じ人物による二重投票を防ぐため、投票用紙を渡す際に、赤いインクを、左手の人差し指に、つけてもらっています」
 「なるほど」
 笑顔で尋ねた。ルビー・クールが、秘書官に。
 「ほかに何か、ご質問は、ございますか?」
 「投票用紙の不正防止は?」
 「投票用紙には、選挙管理委員会のスタンプを押しています」
 「うむ」
 「ほかには?」
 「投票所は、充分だ。次は、市議会議長に会いたい」
 ついに、きたか。
 この要求が。
 ここが、最後の山場だ。
 ルビー・クールは、気を引き締めた。

    第十七章「最後の山場で絶体絶命」に続く
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