絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十六章 第9話>

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   <第十六章 第9話>
 フロスハーフェン市の市民の多くは、すでに信じ込んでいた。
 ルビー・クールが流したにせ情報を。
 ルビー・クールら三名の少女たちは、州知事が非公式に派遣したチームだ。
 その目的は、市長親子の悪い噂が事実か否かを確認し、もし事実であるなら、適切に対処する。
 市長親子の犯罪行為と極悪ぶりが想像を遥かに超えたため、隠密裏に解決できず、激しい銃撃戦となってしまった。
 とはいえ、市長親子と、凶悪ギャングに悪徳警官たちを、すべて排除することができた。
 それに加え、市民の大部分が投票できる無制限選挙に近い市長選挙を、実施した。
 これらすべては、州知事の意向だ。非公式ではあるが。
 そう、信じ込んだ。多くの市民は。
 若者たちにつられて、中高年たちも、「州知事閣下、万歳!」と叫び始めた。
 若者たちは、嬉々として。中高年たちは、少し遠慮がちに。
 秘書官が、驚いた顔をした。
 「州知事閣下の人望は、すごいものだな」
 微笑みながら、答えた。ルビー・クールが。
 「ええ。そうですわね」
 言葉を続けた。
 「投票所の入り口に、向かいましょう」
 そう言って、進み始めた。
 すぐさま複数の制服警官が、ルビー・クールの前を進み、群衆をけた。
 ルビー・クールが、笑顔で叫んだ。群衆に向かって。
 「みなさん! 通してちょうだい! 州知事閣下の秘書官様のお通りですから!」
 本来なら数分ですむ距離を、人混みを掻き分けながら、十数分かけて、ようやく、投票所の入り口に、たどり着いた。
 ライフル銃を持った制服警官たちが、警備にあたっていた。
 「厳重な警備だな」
 その秘書官の言葉に、ルビー・クールが笑顔で答えた。
 「ええ。万が一のことがあっては、なりませんから」
 「新聞報道だが、昨日、立候補者の暗殺未遂事件があったようだな」
 「ええ。そのとおりです。けれども、立ち会い演説会が始まる前に狙撃犯を逮捕したので、死傷者はゼロです」
 ルビー・クールは、指さした。南南西の建物の三階窓を。
 「あの建物です。狙撃犯が潜んでいたのは。事前に発見し、事なきを得ました」
 「誰を、狙っていたんだ?」
 正直に、話した。狙われていたのは、市議会議長が擁立した人物であることを。暗殺を指示したのは、市長派の市議の一人で、すでに逮捕したことを。
 「その市議会事務局長が、当選しそうなのか?」
 「彼は、まじめで誠実で、手堅い人物なので、新市長として最適です」
 わざと、市議会事務局長を高評価した。
 こう言えば、秘書官は、ルビー・クールのことを、市議会議長の親族だと思い込む。完全に。そのほうが、好都合だ。
 言葉を、続けた。
 「ですが、誰が当選するかは、まったく、わかりません。候補者が乱立しているので」
 「何名、立候補したんだ?」
 「二十一名です」
 「多いな」
 「はい。それだけ多くの市民が、強い関心を持っている、ということです。新市長の選出に」
 「過半数の票を誰も得られなかった場合、決選投票をするのか?」
 「いえ。決選投票はしません。得票率が五割を下回っていても、最多得票数の候補者が、市長に就任します」
 「立候補者が二十一名もいるなら、最悪の場合、得票率五パーセントで当選する可能性もあるな」
 秘書官は、市長選出の正統性に疑念を持ったのだろう。
 ルビー・クールは、笑顔で答えた。
 「当選者は、おそらく二十パーセントから二十五パーセントくらいの得票率だと思います。昨日の立ち会い演説会の様子だと」
 「有力候補者は、四名から五名ということか」
 「はい。そのとおりです」
 そこで、話を転じた。ルビー・クールが。
 「投票をご視察しますか?」
 「そうだな」
 大声を張りあげた。ルビー・クールが。
 「みなさん! 州知事閣下の秘書官様が、市長選挙の視察に来ました。道をけてください!」
 入り口付近は人混みでごった返していたが、人混みを掻き分け、投票エリアに入った。護衛の制服警官たちと共に。
 入り口をけると、広いスペースが広がっている。
 いくつもの机が、置かれている。投票用紙に、記入するための机だ。
 ベニヤ板で作った掲示板も、いくつも設置してある。掲示板には、二十一名の候補者の名前が記されている。
 ルビー・クールが投票エリアに足を踏み入れたとたん、全員の視線が、集中した。ルビー・クールに。
 ここからが、重要だ。
 あらためて、ルビー・クールは気を引き締めた。
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