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<第十六章 第7話>
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<第十六章 第7話>
ベッカー市議が狙っていたのは、やはり、市議会議長が擁立した市議会事務局長だった。
グンターは、ベッカーの用心棒として、市長派市議三名の密談に、立ち会っていた。
その密談は、日曜日の午後と、月曜日の夜に、開催された。
計、二回だ。
強硬派はベッカーで、残り二名は様子見派だった。
そこでベッカーが、自分の用心棒を使って、市議会議長派の立候補者を、暗殺することにした。
暗殺を命じられたのは、元兵士で、射撃の腕の良いグンターだけだ。
グンターが知っていることは、それで全部だった。
警官たちを、呼んだ。グンターを、警察署に連行した。留置場に、入れるためだ。
ルビー・クールも、警察署に一緒に行った。
ベッカー邸に、三個分隊を派遣するように、指示した。
ベッカー邸の男性使用人は、執事や庭師も含めて十名だ。そのうち、用心棒は五名だ。
三個分隊なら、三十名以上なので、万全だ。
ルビー・クールは、一個分隊の警官たちを引き連れ、中央円形広場に戻った。
大型演壇の近くまで来ると、大声で呼びかけた。
「狙撃犯は、逮捕したわ! 立ち会い演説会は、予定時刻になったら、始めるわよ!」
大型演壇の陰に隠れていた職人たちが、ゾロゾロと現れた。テキパキと、作業を再開した。
その後は、予定通り進んだ。
パール・スノーに事情を説明し、そのあと、ホテル内にいたサファイア・レインにも、事情を説明した。
一時間もしないうちに、警察官の伝令が報告に来た。
ベッカー市議と、その部下たちを逮捕した、と。
彼の使用人たちは、三十名を超える武装した警官隊を見たとたんに戦意を喪失し、おとなしく逮捕された。
この件については、念のため、市議会議長にも、電話で報告した。それに、予定通り、立ち会い演説会を行うことも。
ポールたち新聞売りたちも集めて、ベッカー市議と、狙撃犯逮捕について、話した。
彼らが、立ち会い演説会のチラシを配りながら、その話も伝えるはずだ。多くの市民に。
それにより、多くの市民は安心して、立ち会い演説会を見に来るはずだ。
* * * * * *
正午になった。予定通り、立ち会い演説会を開始した。
中央円形広場と、その周囲は、警官隊七個分隊八十数名が、厳重に警備している。狙撃しやすい建物は、すべて事前にチェックし、立ち入り禁止とした。
万全の警備体制だ。
立候補者は、全部で二十一名だ。
昨日の午前九時の段階では、グランドパレスホテル前には、五十名を超える男たちがいた。
だが、その半数以上が、立候補者の友人たちだった。
立候補者が二十一名もいるので、演説時間は一人十分間とした。
一時間ごとに、十分間の休憩を、はさむことにした。
予想通り、立ち会い演説会のスケジュールは、次々に遅れた。
午後四時に終わるはずだったが、午後五時過ぎに、終了した。
この程度の遅れは、予想の範囲内だ。
市議会議長が擁立した市議会事務局長は、演説が下手だった。
これは、当選は厳しそうだな、と思った。
立候補者の多くは、演説に慣れていなかった。それどころか、口下手の者も多数いた。
立候補者の年齢や職業は、様々だ。最年少は十七歳の学生で、最高齢は五十五歳の元小学校教師だ。
全員、男性だ。
残念ながら、女性の立候補者は、いなかった。
中央円形広場に集まった聴衆も、男性が多かった。男女比は、二対一くらいか。
女性有権者の投票は、全投票の三割を超えるだろうか。
そもそも、女性が投票するだけで、画期的なことだ。女性参政権運動が盛んな連合王国でも、まだ実現していないのだ。女性の参政権は。
なお、演説がうまかったのは、二十八歳の若手弁護士と、四十二歳の新興商人だった。二人ともイケメンで、女性有権者から好評だった。
男性から好評だったのは、五十歳の老舗商店の主人と、五十二歳の元帝国陸軍伍長だ。
後者は、前の前の戦争で活躍した人物で、この町の英雄とされる男だ。
まあ、誰が当選しても、この町の有権者の判断だ。その判断は、尊重されねばならない。
全員の演説が終わったあと、ルビー・クールは、拡声器を使って呼びかけた。
「投票日時は、明日の朝九時から午後一時までです! 投票場所は、ここ、中央円形広場のグランドパレスホテル前です! 投票時に持参する物は、フロスハーフェン市の住民登録証です! この町の住民登録証を所持している人は、全員、有権者です! みなさん! この人こそ市長にふさわしいと思った候補者がいたら、友人知人に、積極的に投票を呼びかけましょう! みなさんの力で、この町の明るい未来を築きましょう!」
立ち会い演説会は、無事、終了した。
ルビー・クールは、心の中で、ホッとした。
だが、気を引き締めた。
明日の市長選挙を、無事に乗り越えなくては。
ルビー・クールは、意を新たにした。
ベッカー市議が狙っていたのは、やはり、市議会議長が擁立した市議会事務局長だった。
グンターは、ベッカーの用心棒として、市長派市議三名の密談に、立ち会っていた。
その密談は、日曜日の午後と、月曜日の夜に、開催された。
計、二回だ。
強硬派はベッカーで、残り二名は様子見派だった。
そこでベッカーが、自分の用心棒を使って、市議会議長派の立候補者を、暗殺することにした。
暗殺を命じられたのは、元兵士で、射撃の腕の良いグンターだけだ。
グンターが知っていることは、それで全部だった。
警官たちを、呼んだ。グンターを、警察署に連行した。留置場に、入れるためだ。
ルビー・クールも、警察署に一緒に行った。
ベッカー邸に、三個分隊を派遣するように、指示した。
ベッカー邸の男性使用人は、執事や庭師も含めて十名だ。そのうち、用心棒は五名だ。
三個分隊なら、三十名以上なので、万全だ。
ルビー・クールは、一個分隊の警官たちを引き連れ、中央円形広場に戻った。
大型演壇の近くまで来ると、大声で呼びかけた。
「狙撃犯は、逮捕したわ! 立ち会い演説会は、予定時刻になったら、始めるわよ!」
大型演壇の陰に隠れていた職人たちが、ゾロゾロと現れた。テキパキと、作業を再開した。
その後は、予定通り進んだ。
パール・スノーに事情を説明し、そのあと、ホテル内にいたサファイア・レインにも、事情を説明した。
一時間もしないうちに、警察官の伝令が報告に来た。
ベッカー市議と、その部下たちを逮捕した、と。
彼の使用人たちは、三十名を超える武装した警官隊を見たとたんに戦意を喪失し、おとなしく逮捕された。
この件については、念のため、市議会議長にも、電話で報告した。それに、予定通り、立ち会い演説会を行うことも。
ポールたち新聞売りたちも集めて、ベッカー市議と、狙撃犯逮捕について、話した。
彼らが、立ち会い演説会のチラシを配りながら、その話も伝えるはずだ。多くの市民に。
それにより、多くの市民は安心して、立ち会い演説会を見に来るはずだ。
* * * * * *
正午になった。予定通り、立ち会い演説会を開始した。
中央円形広場と、その周囲は、警官隊七個分隊八十数名が、厳重に警備している。狙撃しやすい建物は、すべて事前にチェックし、立ち入り禁止とした。
万全の警備体制だ。
立候補者は、全部で二十一名だ。
昨日の午前九時の段階では、グランドパレスホテル前には、五十名を超える男たちがいた。
だが、その半数以上が、立候補者の友人たちだった。
立候補者が二十一名もいるので、演説時間は一人十分間とした。
一時間ごとに、十分間の休憩を、はさむことにした。
予想通り、立ち会い演説会のスケジュールは、次々に遅れた。
午後四時に終わるはずだったが、午後五時過ぎに、終了した。
この程度の遅れは、予想の範囲内だ。
市議会議長が擁立した市議会事務局長は、演説が下手だった。
これは、当選は厳しそうだな、と思った。
立候補者の多くは、演説に慣れていなかった。それどころか、口下手の者も多数いた。
立候補者の年齢や職業は、様々だ。最年少は十七歳の学生で、最高齢は五十五歳の元小学校教師だ。
全員、男性だ。
残念ながら、女性の立候補者は、いなかった。
中央円形広場に集まった聴衆も、男性が多かった。男女比は、二対一くらいか。
女性有権者の投票は、全投票の三割を超えるだろうか。
そもそも、女性が投票するだけで、画期的なことだ。女性参政権運動が盛んな連合王国でも、まだ実現していないのだ。女性の参政権は。
なお、演説がうまかったのは、二十八歳の若手弁護士と、四十二歳の新興商人だった。二人ともイケメンで、女性有権者から好評だった。
男性から好評だったのは、五十歳の老舗商店の主人と、五十二歳の元帝国陸軍伍長だ。
後者は、前の前の戦争で活躍した人物で、この町の英雄とされる男だ。
まあ、誰が当選しても、この町の有権者の判断だ。その判断は、尊重されねばならない。
全員の演説が終わったあと、ルビー・クールは、拡声器を使って呼びかけた。
「投票日時は、明日の朝九時から午後一時までです! 投票場所は、ここ、中央円形広場のグランドパレスホテル前です! 投票時に持参する物は、フロスハーフェン市の住民登録証です! この町の住民登録証を所持している人は、全員、有権者です! みなさん! この人こそ市長にふさわしいと思った候補者がいたら、友人知人に、積極的に投票を呼びかけましょう! みなさんの力で、この町の明るい未来を築きましょう!」
立ち会い演説会は、無事、終了した。
ルビー・クールは、心の中で、ホッとした。
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明日の市長選挙を、無事に乗り越えなくては。
ルビー・クールは、意を新たにした。
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