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<第十六章 第6話>

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   <第十六章 第6話>
 警官の何名かが、狙撃犯のことを知っていた。狙撃犯の名前は、グンター。帝国陸軍の元兵士で、階級は上等兵。年齢は、三十歳代後半。よその町出身だが、五年ほど前に、ベッカー市議の用心棒として雇われ、この町に来た。
 元兵士同士ということで、交流を持った者もいたようだ。
 もっとも、深い親交ではなく、挨拶程度の関係のようだ。
 ルビー・クールは、分隊長に、次々に指示を出した。
 警官たちが、次々に伝令に向かった。
 グンターが、意識を取り戻した。
 彼は、後ろ手に手錠をかけられた状態で、イスに座っていた。
 ルビー・クールが、彼の前にイスを置き、腰かけた。銀色の三十二口径リボルバーを片手に。
 彼の周囲には、警官が三名。
 口を開いた。ルビー・クールが。
 「あなたに狙撃命令を出したのは、ベッカー市議ね」
 グンターは、なにも言わなかった。
 「黙っていても、黒幕が誰かは、わかるわ。あとは、あなたが素直に自白すれば、あなたの罪を軽くしてあげる。逆に、なにも話さなければ、あなたを殺人未遂罪で逮捕するわ。そうなれば、死ぬまで刑務所から出られないわよ」
 「ベッカーさんには、恩義がある」
 「どんな恩義?」
 「仕事がなくて困っていたときに、用心棒の仕事をくれた」
 「その程度の恩義で、人を殺そうとしたの? 恩義と忠誠が釣り合わないわ」
 グンターは、うつむいて、なにも言わなかった。くちびるを、みしめて。
 「あなた、ベッカー市議の命令で、何名殺したの?」
 「一人も殺してない。オレは用心棒だ。殺し屋じゃない」
 「だけど今日、殺そうとした。あたしを殺すのが目的? それとも、本当は立候補者の暗殺かしら?」
 グンターが、声をしぼり出した。
 「おまえ、なぜ気づいたんだ? オレが、ここにひそんでいることを。それに、あの黒髪の女も」
 ルビー・クールは、軽く首を振った。やれやれ、といった表情で。
 「実力の違いよ」
 言葉を、続けた。
 「本当は、拷問ごうもんなんてしたくないんだけど、あなたが全部、話してくれないのなら、しかたないわね」
 警官たちに、部屋から出て行ってもらった。グンターの絶叫が聞こえても、部屋には入らないように、厳命して。
 「そういえば、あなた、殺し屋魔女ヒルダのことを、知ってるかしら?」
 「ああ。もちろんだ。恐ろしい女だ」
 「彼女が魔法で人を殺すのを、見たことある?」
 「殺すのは見たことないが、彼女に、ちょっかいをかけた男を半殺しにしたのは、見たことがある」
 「どんな魔法で?」
 「魔法の鉄杭や、魔法の炎だ」
 「彼女は、魔法の鉄杭を、その男の身体のどこに刺したの?」
 「腹だ。心臓に刺すと殺せる、と聞いた」
 魔法詠唱を始めた。ルビー・クールが。
 空中に、魔法の鉄杭が出現した。
 直径は二センチメートルほどで、長さは三十センチメートルほど。
 銀色に、光り輝いている。
 「つらぬけ、左太ももを!」
 次の瞬間、切っ先が下を向いた。
 グンターが、絶叫した。左太ももに、深々と突き刺さったからだ。魔法の鉄杭が。
 八秒後、ルビー・クールが叫んだ。
 「消去!」
 その直後、魔法の鉄杭は消滅した。
 だがグンターは、絶叫し続けた。
 魔法の幻痛は、本来は、魔法の幻覚の消滅と共に消える。
 だが脳が、勝手に痛みを感じ続けるケースもある。
 十数秒後、ようやく、グンターの絶叫が止まった。
 淡々と、説明した。ルビー・クールが。
 「この魔法の鉄杭を心臓に刺せば、あなたは死ぬわ。外傷はないから、あなたは心臓発作による病死ということになるわ」
 グンターが、声を絞り出した。
 「おまえ、何者なんだ? 殺し屋魔女ヒルダと、同じ魔法が使えるなんて」
 無視した。彼の問いを。
 ルビー・クールは、言葉を続けた。
 「あなたが本当に、一人も殺していないのなら、あたしは、あなたを殺したくないわ。だから、あらいざらい話して、協力してくれないかしら。協力してくれれば、誰も死なずにすむわ。ベッカー市議も含めてね」
 観念した。グンターは。
 あらいざらい、話し始めた。ベッカー市議による立候補者暗殺計画を。
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