86 / 138
<第十六章 第6話>
しおりを挟む
<第十六章 第6話>
警官の何名かが、狙撃犯のことを知っていた。狙撃犯の名前は、グンター。帝国陸軍の元兵士で、階級は上等兵。年齢は、三十歳代後半。よその町出身だが、五年ほど前に、ベッカー市議の用心棒として雇われ、この町に来た。
元兵士同士ということで、交流を持った者もいたようだ。
もっとも、深い親交ではなく、挨拶程度の関係のようだ。
ルビー・クールは、分隊長に、次々に指示を出した。
警官たちが、次々に伝令に向かった。
グンターが、意識を取り戻した。
彼は、後ろ手に手錠をかけられた状態で、イスに座っていた。
ルビー・クールが、彼の前にイスを置き、腰かけた。銀色の三十二口径リボルバーを片手に。
彼の周囲には、警官が三名。
口を開いた。ルビー・クールが。
「あなたに狙撃命令を出したのは、ベッカー市議ね」
グンターは、なにも言わなかった。
「黙っていても、黒幕が誰かは、わかるわ。あとは、あなたが素直に自白すれば、あなたの罪を軽くしてあげる。逆に、なにも話さなければ、あなたを殺人未遂罪で逮捕するわ。そうなれば、死ぬまで刑務所から出られないわよ」
「ベッカーさんには、恩義がある」
「どんな恩義?」
「仕事がなくて困っていたときに、用心棒の仕事をくれた」
「その程度の恩義で、人を殺そうとしたの? 恩義と忠誠が釣り合わないわ」
グンターは、うつむいて、なにも言わなかった。くちびるを、噛みしめて。
「あなた、ベッカー市議の命令で、何名殺したの?」
「一人も殺してない。オレは用心棒だ。殺し屋じゃない」
「だけど今日、殺そうとした。あたしを殺すのが目的? それとも、本当は立候補者の暗殺かしら?」
グンターが、声を絞り出した。
「おまえ、なぜ気づいたんだ? オレが、ここに潜んでいることを。それに、あの黒髪の女も」
ルビー・クールは、軽く首を振った。やれやれ、といった表情で。
「実力の違いよ」
言葉を、続けた。
「本当は、拷問なんてしたくないんだけど、あなたが全部、話してくれないのなら、しかたないわね」
警官たちに、部屋から出て行ってもらった。グンターの絶叫が聞こえても、部屋には入らないように、厳命して。
「そういえば、あなた、殺し屋魔女ヒルダのことを、知ってるかしら?」
「ああ。もちろんだ。恐ろしい女だ」
「彼女が魔法で人を殺すのを、見たことある?」
「殺すのは見たことないが、彼女に、ちょっかいをかけた男を半殺しにしたのは、見たことがある」
「どんな魔法で?」
「魔法の鉄杭や、魔法の炎だ」
「彼女は、魔法の鉄杭を、その男の身体のどこに刺したの?」
「腹だ。心臓に刺すと殺せる、と聞いた」
魔法詠唱を始めた。ルビー・クールが。
空中に、魔法の鉄杭が出現した。
直径は二センチメートルほどで、長さは三十センチメートルほど。
銀色に、光り輝いている。
「つらぬけ、左太ももを!」
次の瞬間、切っ先が下を向いた。
グンターが、絶叫した。左太ももに、深々と突き刺さったからだ。魔法の鉄杭が。
八秒後、ルビー・クールが叫んだ。
「消去!」
その直後、魔法の鉄杭は消滅した。
だがグンターは、絶叫し続けた。
魔法の幻痛は、本来は、魔法の幻覚の消滅と共に消える。
だが脳が、勝手に痛みを感じ続けるケースもある。
十数秒後、ようやく、グンターの絶叫が止まった。
淡々と、説明した。ルビー・クールが。
「この魔法の鉄杭を心臓に刺せば、あなたは死ぬわ。外傷はないから、あなたは心臓発作による病死ということになるわ」
グンターが、声を絞り出した。
「おまえ、何者なんだ? 殺し屋魔女ヒルダと、同じ魔法が使えるなんて」
無視した。彼の問いを。
ルビー・クールは、言葉を続けた。
「あなたが本当に、一人も殺していないのなら、あたしは、あなたを殺したくないわ。だから、あらいざらい話して、協力してくれないかしら。協力してくれれば、誰も死なずにすむわ。ベッカー市議も含めてね」
観念した。グンターは。
あらいざらい、話し始めた。ベッカー市議による立候補者暗殺計画を。
警官の何名かが、狙撃犯のことを知っていた。狙撃犯の名前は、グンター。帝国陸軍の元兵士で、階級は上等兵。年齢は、三十歳代後半。よその町出身だが、五年ほど前に、ベッカー市議の用心棒として雇われ、この町に来た。
元兵士同士ということで、交流を持った者もいたようだ。
もっとも、深い親交ではなく、挨拶程度の関係のようだ。
ルビー・クールは、分隊長に、次々に指示を出した。
警官たちが、次々に伝令に向かった。
グンターが、意識を取り戻した。
彼は、後ろ手に手錠をかけられた状態で、イスに座っていた。
ルビー・クールが、彼の前にイスを置き、腰かけた。銀色の三十二口径リボルバーを片手に。
彼の周囲には、警官が三名。
口を開いた。ルビー・クールが。
「あなたに狙撃命令を出したのは、ベッカー市議ね」
グンターは、なにも言わなかった。
「黙っていても、黒幕が誰かは、わかるわ。あとは、あなたが素直に自白すれば、あなたの罪を軽くしてあげる。逆に、なにも話さなければ、あなたを殺人未遂罪で逮捕するわ。そうなれば、死ぬまで刑務所から出られないわよ」
「ベッカーさんには、恩義がある」
「どんな恩義?」
「仕事がなくて困っていたときに、用心棒の仕事をくれた」
「その程度の恩義で、人を殺そうとしたの? 恩義と忠誠が釣り合わないわ」
グンターは、うつむいて、なにも言わなかった。くちびるを、噛みしめて。
「あなた、ベッカー市議の命令で、何名殺したの?」
「一人も殺してない。オレは用心棒だ。殺し屋じゃない」
「だけど今日、殺そうとした。あたしを殺すのが目的? それとも、本当は立候補者の暗殺かしら?」
グンターが、声を絞り出した。
「おまえ、なぜ気づいたんだ? オレが、ここに潜んでいることを。それに、あの黒髪の女も」
ルビー・クールは、軽く首を振った。やれやれ、といった表情で。
「実力の違いよ」
言葉を、続けた。
「本当は、拷問なんてしたくないんだけど、あなたが全部、話してくれないのなら、しかたないわね」
警官たちに、部屋から出て行ってもらった。グンターの絶叫が聞こえても、部屋には入らないように、厳命して。
「そういえば、あなた、殺し屋魔女ヒルダのことを、知ってるかしら?」
「ああ。もちろんだ。恐ろしい女だ」
「彼女が魔法で人を殺すのを、見たことある?」
「殺すのは見たことないが、彼女に、ちょっかいをかけた男を半殺しにしたのは、見たことがある」
「どんな魔法で?」
「魔法の鉄杭や、魔法の炎だ」
「彼女は、魔法の鉄杭を、その男の身体のどこに刺したの?」
「腹だ。心臓に刺すと殺せる、と聞いた」
魔法詠唱を始めた。ルビー・クールが。
空中に、魔法の鉄杭が出現した。
直径は二センチメートルほどで、長さは三十センチメートルほど。
銀色に、光り輝いている。
「つらぬけ、左太ももを!」
次の瞬間、切っ先が下を向いた。
グンターが、絶叫した。左太ももに、深々と突き刺さったからだ。魔法の鉄杭が。
八秒後、ルビー・クールが叫んだ。
「消去!」
その直後、魔法の鉄杭は消滅した。
だがグンターは、絶叫し続けた。
魔法の幻痛は、本来は、魔法の幻覚の消滅と共に消える。
だが脳が、勝手に痛みを感じ続けるケースもある。
十数秒後、ようやく、グンターの絶叫が止まった。
淡々と、説明した。ルビー・クールが。
「この魔法の鉄杭を心臓に刺せば、あなたは死ぬわ。外傷はないから、あなたは心臓発作による病死ということになるわ」
グンターが、声を絞り出した。
「おまえ、何者なんだ? 殺し屋魔女ヒルダと、同じ魔法が使えるなんて」
無視した。彼の問いを。
ルビー・クールは、言葉を続けた。
「あなたが本当に、一人も殺していないのなら、あたしは、あなたを殺したくないわ。だから、あらいざらい話して、協力してくれないかしら。協力してくれれば、誰も死なずにすむわ。ベッカー市議も含めてね」
観念した。グンターは。
あらいざらい、話し始めた。ベッカー市議による立候補者暗殺計画を。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる