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<第十六章 第4話>

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   <第十六章 第4話>
 彼女たちに、文字の読み書きができるかどうか、確認した。開票作業を手伝ってもらうためだ。
 読み書きができると答えた者は、半数ほどだった。さらに詳しく尋ね、紙に書いた文字を読んでもらった。
 結局、文章をある程度読める者は、全体の四分の一ほどだった。もう四分の一は、自分の名前を読み書きでき、簡単な単語が読める程度だった。
 この人数では、開票作業に時間がかかってしまう。
 ほかの人たちにも、開票作業を手伝ってもらう必要がある。
 頼むとしたら、この町の教会だ。教会に寄付をして、シスターたちに協力を頼もう。
 だが、必要な業務は、開票作業だけではない。有権者が投票する際に、住民登録証の確認作業がある。その際、顔写真の確認もある。文字の読み書きができる者と組ませれば、効率よくチェックできるはずだ。
 彼女たちに、明日の作業の説明をしてから、本日の作業について、説明した。
 本日の主な作業は、投票用紙の作成だ。
 ハサミで同じ大きさに紙を切り、スタンプを押す。本来は、選挙管理委員会のスタンプを作ったほうが良いのだが、その時間がなかった。
 そこで、文具店を経営する商人たちに頼んで、アルファベットのスタンプを調達した。
 投票用紙には、RとCのスタンプを押す。
 ルビー・クールの頭文字かしらもじだ。
 だが、なにも言わなければ、この町の有権者は、わからない。なんの頭文字であるかを。
 スタンプを押すのは、投票用紙の偽造防止のためだ。
 有権者は、投票日に投票所に行き、そこで初めて、投票用紙を目にする。たとえそのあと、投票用紙を偽造しようとしても、時間的に間に合わない。
 彼女たちの業務の監督をサファイア・レインに任せ、ルビー・クールはホテルを出た。
 新市警の分隊長が五名、グランドパレスホテルの前で、待っていた。
 彼らに、指示を出した。
 三個分隊は、立ち会い演説会の会場警備だ。残りの二個分隊は、立候補者が狙撃されるのを防止するための警備だ。
 フロスハーフェン市では、長年にわたり、市長派と、市議会議長派が、対立してきた。
 今回の市長選挙では、市議会議長が、自分の腹心を擁立する。
 市長派の市議たちは、恐怖を感じているはずだ。市議会議長派が市長の座を押さえることに。
 よって彼らが、立候補者の暗殺事件を起こす可能性がある。
 そう、にらんでいた。ルビー・クールは。
 もちろん、それに備えて、釘を刺しておいた。市長派の市議たちに。昨日、月曜日の夜に、電話をかけて。
 電話では、最初に、市議会議長に話した内容と、同じ話をした。
 本日、州知事の秘書官と州警察の捜査官に、市長公邸に来ていただいた。市長親子の犯罪の数々を、報告した。市長公邸の裏庭の遺体三十体を見ていただいて、検死結果も報告した。贋金にせがねの現物も、見ていただいた。悪徳弁護士と執事を召喚し、捜査官に尋問してもらった。
 すでに彼らは、そうした話を、噂で知っていた。州知事の秘書官と州警察の捜査官を呼んだのは、ルビー・クールだと、思い込んでいた。
 彼らは、皆、こう言った。
 「私は、無関係だ。市長親子の犯罪とは」
 「まったく知らなかった。市長親子の犯罪を。市長のバカ息子が、まさか殺人までしているとは」
 ルビー・クールは、冷ややかな笑みをたたえながら、答えた。
 「ええ、いいわよ。そういうことに、しておいてあげるわ。そのかわり、市長選挙の妨害をしたら、ただじゃすまないわよ。市議会議長の腹心の当選を阻止したいなら、合法的な活動だけに、しておきなさい。ほかの候補者を選んで、票固めをするとか。ビラなどを作って、特定の候補者への投票を呼びかけるのは良いけれど、脅迫や買収をしたら、あなたたちにも、選挙違反で刑務所に入ってもらうわよ」
 とはいえ、選挙違反による逮捕程度では、刺した釘が弱かったかも知れない。
 ルビー・クールは、左手を見た。
 すでに、完成間近だ。木製の大型演壇は。あとは、演壇の左右に、階段を取り付けるだけだ。
 作業中の職人たちは、嬉しそうだ。
 臨時報酬が入ったからだろう。
 選挙に関わる費用は、すべて選挙管理委員会が支出している。その資金は、市長公邸の金庫から得たものだ。
 隣に立つパール・スノーに尋ねた。
 「もし、あなたが狙撃犯だったら、どこから撃つ? あの演壇の上の立候補者を」
 彼女は、狙撃銃を右肩から降ろした。
 「そうねえ。一番狙いやすいのは、真正面の警察署の三階だけど、警備の警官たちがいるから……」
 中央円形広場の南側全体を、見回した。
 「あの建物なんて、良いわね」
 そう言いながら、狙撃銃の銃口を向けた。南南西の建物の三階に。
 その瞬間だった。
 三階の窓の奥で、反射した。日の光が。
 照準器スコープだ。
 叫んだ。ルビー・クールが。
 「ふせて!」
 ひびいた。銃声が。
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