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<第十五章 第8話>
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<第十五章 第8話>
捜査官の一人が、尋ねた。執事に。
「市長の手下で、おまえ以外に銃撃戦を生きのびた者は?」
ホッとした。少しだけだが。
捜査官は、執事たちは、市警と銃撃戦をしたと思い込んでいる。
執事は、死人のような顔で、淡々と答えた。
「何人か逃げたようですが、よくわかりません。ギャングは、数十人逃げました」
ルビー・クールが、補足した。
「ギャングについては、昨日の日曜日の午後、市警が、死神団のアジトを摘発しました。激しい銃撃戦になり、ギャングのほうは、多数の死傷者が出ました。逮捕者は二十名くらいです。死神団は、ほぼ全滅しました。とはいえ、スラム街に隠れている者も、多少は、いるはずです」
執事の取り調べが、終了した。
警官たちが、執事を部屋の外に連れ出した。
無事にすんで、ホッと胸をなで下ろした。
そのときだった。
秘書官が、ルビー・クールに尋ねた。
「市民裁判の件だが……」
思わず、緊張した。
「君は市長の処刑を、直接、目撃したのかね?」
ツバを、ゴクリと飲み込んだ。
嘘を言うのは、まずい。重要な部分で嘘をつくと、バレてしまう。
特に、捜査官には。彼らは、他人の嘘を見抜く能力に、秀でているはずだ。
「目撃しました」
「どこで?」
「三階の窓からです。中央円形広場の周囲は、すべて三階建ての建物で、市民裁判のときは、すべての建物の窓が、人で鈴なりでした。一階から三階まで」
「新聞記事では、市長の処刑は午後七時過ぎだとか」
「たぶん、そのくらいの時刻です。七時半頃かも知れません」
「日没後のため、暗くて、よく見えなかったのでは?」
「死刑台は、街灯の下に設置されたため、暗さの問題は、ありませんでした」
「市長のほかに、処刑された人物は?」
「市長の息子ニコラウスと、それに、彼の友人で、死神団の幹部ヴィクトールです」
「その三名だけかね?」
「はい」
「市長の死体の安置場所は?」
「すでに火葬され、灰は川に流されました」
「ほかの二人の死体は?」
「市長と同様です」
「新聞記事では、市民裁判の判事や、死刑執行人については、なにも書かれていなかった」
あたりまえだ。判事はルビー・クールが、死刑執行人はパール・スノーが、務めた。
そんな話は、新聞社の本社が、信じない。
美少女が判事や死刑執行人を務めたという記事を書いて送ったら、ガセネタだと判断される。それにより、市民裁判や市長処刑というスクープも、報じられなくなってしまう。
それを心配したフロスハーフェン支局は、ルビー・クールら三名の少女の活躍を、あえて伏せたのだ。
ルビー・クールが、説明を始めた。
「市民裁判では、判事が、広場に集まった数千名の市民に、問いかけました。異議があるか否かを。すべての市民が、異議なし、と答えました。よって、数千名の市民が陪審員です。死刑判決の決定も執行も、市民の総意です」
「誰も異議を、はさまなかったのかね?」
「異議あり、と主張したのは、市長だけです。異議を述べる時間が与えられましたが、判決は変わりませんでした」
捜査官の一人が、口をはさんだ。
「その判事と死刑執行人の名前は?」
やはり、そうきたか。州警察の捜査官にとっては、判事と死刑執行人は、殺人犯だからだ。
「この町で、その件について話す人は、一人もいませんわ。なぜなら、市長親子の処刑は、市民の総意ですから。もし罪に問うのであれば、あの場にいた数千名の市民を罪に問うことになります」
捜査官が、にらみつけた。ルビー・クールを。
「そうなると、ルビー嬢、君にも罪があるということになるぞ。あの場にいたんだから」
憮然とした表情をした。ルビー・クールが。
もちろん、わざとだ。
「ええ、もちろんですわ。市長親子の処刑が殺人罪になるのであれば、あたしも殺人犯です。だけれども、あのとき市長親子を処刑しなければ、うまく逃げのびて、ふたたび、たくさんの市民を殺した可能性が高いと思います」
秘書官が、口を開いた。
「ルビー、君の協力には、感謝している。少なくとも私は、君に罪があるとは思わない」
かすかに微笑んだ。少しばかり、嬉しそうな表情で。
もちろん、意図的だ。
「ありがとうございます。ご理解いただけて」
メイドが、コーヒーを運んできた。
午後二時近くに、なっていた。
「ほかに何か、ご要望はございますか?」
秘書官が、尋ねた
「州都行きの列車は、何時のがあるかね」
「次は午後二時半です」
「州都の駅に着くのは、午後五時前か。知事に本日中に報告できるな」
ソファーから立ち上がった。秘書官が。
それに、捜査官たちも。
最大の難関を、突破した。
ルビー・クールは、心の中で、胸をなで下ろした。
第十六章「市長選挙で絶体絶命」に続く
捜査官の一人が、尋ねた。執事に。
「市長の手下で、おまえ以外に銃撃戦を生きのびた者は?」
ホッとした。少しだけだが。
捜査官は、執事たちは、市警と銃撃戦をしたと思い込んでいる。
執事は、死人のような顔で、淡々と答えた。
「何人か逃げたようですが、よくわかりません。ギャングは、数十人逃げました」
ルビー・クールが、補足した。
「ギャングについては、昨日の日曜日の午後、市警が、死神団のアジトを摘発しました。激しい銃撃戦になり、ギャングのほうは、多数の死傷者が出ました。逮捕者は二十名くらいです。死神団は、ほぼ全滅しました。とはいえ、スラム街に隠れている者も、多少は、いるはずです」
執事の取り調べが、終了した。
警官たちが、執事を部屋の外に連れ出した。
無事にすんで、ホッと胸をなで下ろした。
そのときだった。
秘書官が、ルビー・クールに尋ねた。
「市民裁判の件だが……」
思わず、緊張した。
「君は市長の処刑を、直接、目撃したのかね?」
ツバを、ゴクリと飲み込んだ。
嘘を言うのは、まずい。重要な部分で嘘をつくと、バレてしまう。
特に、捜査官には。彼らは、他人の嘘を見抜く能力に、秀でているはずだ。
「目撃しました」
「どこで?」
「三階の窓からです。中央円形広場の周囲は、すべて三階建ての建物で、市民裁判のときは、すべての建物の窓が、人で鈴なりでした。一階から三階まで」
「新聞記事では、市長の処刑は午後七時過ぎだとか」
「たぶん、そのくらいの時刻です。七時半頃かも知れません」
「日没後のため、暗くて、よく見えなかったのでは?」
「死刑台は、街灯の下に設置されたため、暗さの問題は、ありませんでした」
「市長のほかに、処刑された人物は?」
「市長の息子ニコラウスと、それに、彼の友人で、死神団の幹部ヴィクトールです」
「その三名だけかね?」
「はい」
「市長の死体の安置場所は?」
「すでに火葬され、灰は川に流されました」
「ほかの二人の死体は?」
「市長と同様です」
「新聞記事では、市民裁判の判事や、死刑執行人については、なにも書かれていなかった」
あたりまえだ。判事はルビー・クールが、死刑執行人はパール・スノーが、務めた。
そんな話は、新聞社の本社が、信じない。
美少女が判事や死刑執行人を務めたという記事を書いて送ったら、ガセネタだと判断される。それにより、市民裁判や市長処刑というスクープも、報じられなくなってしまう。
それを心配したフロスハーフェン支局は、ルビー・クールら三名の少女の活躍を、あえて伏せたのだ。
ルビー・クールが、説明を始めた。
「市民裁判では、判事が、広場に集まった数千名の市民に、問いかけました。異議があるか否かを。すべての市民が、異議なし、と答えました。よって、数千名の市民が陪審員です。死刑判決の決定も執行も、市民の総意です」
「誰も異議を、はさまなかったのかね?」
「異議あり、と主張したのは、市長だけです。異議を述べる時間が与えられましたが、判決は変わりませんでした」
捜査官の一人が、口をはさんだ。
「その判事と死刑執行人の名前は?」
やはり、そうきたか。州警察の捜査官にとっては、判事と死刑執行人は、殺人犯だからだ。
「この町で、その件について話す人は、一人もいませんわ。なぜなら、市長親子の処刑は、市民の総意ですから。もし罪に問うのであれば、あの場にいた数千名の市民を罪に問うことになります」
捜査官が、にらみつけた。ルビー・クールを。
「そうなると、ルビー嬢、君にも罪があるということになるぞ。あの場にいたんだから」
憮然とした表情をした。ルビー・クールが。
もちろん、わざとだ。
「ええ、もちろんですわ。市長親子の処刑が殺人罪になるのであれば、あたしも殺人犯です。だけれども、あのとき市長親子を処刑しなければ、うまく逃げのびて、ふたたび、たくさんの市民を殺した可能性が高いと思います」
秘書官が、口を開いた。
「ルビー、君の協力には、感謝している。少なくとも私は、君に罪があるとは思わない」
かすかに微笑んだ。少しばかり、嬉しそうな表情で。
もちろん、意図的だ。
「ありがとうございます。ご理解いただけて」
メイドが、コーヒーを運んできた。
午後二時近くに、なっていた。
「ほかに何か、ご要望はございますか?」
秘書官が、尋ねた
「州都行きの列車は、何時のがあるかね」
「次は午後二時半です」
「州都の駅に着くのは、午後五時前か。知事に本日中に報告できるな」
ソファーから立ち上がった。秘書官が。
それに、捜査官たちも。
最大の難関を、突破した。
ルビー・クールは、心の中で、胸をなで下ろした。
第十六章「市長選挙で絶体絶命」に続く
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