絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十五章 第7話>

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   <第十五章 第7話>
 ルビー・クールが尋ねた。
 「どんな取引かしら?」
 「一つ目の要求は……」
 言葉をさえぎった。ルビー・クールが。
 「二つもあるの?」
 数秒間、押し黙った。悪徳弁護士が。
 考えているのだ。自分にとって、最も重要な要求がなにかを。
 「とりあえず、言ってみなさい。取引が成立するかどうかは、わからないけど」
 うながされて、話し始めた。悪徳弁護士が。
 「一つ目の要求は、私を州刑務所に移送しないことだ。収監は、市営簡易刑務所の独房だ」
 「これでもう、二つの要求ね」
 「待て。まだ一つ目だ」
 「二つよ。州刑務所に移送しないことと、市営簡易刑務所の独房。これでもう、二つよ」
 「それらは一つの要求だ」
 「州刑務所へ移送するかいなかは、州の司法長官が決定することよ。あたしも、移送しないように頼んであげるけど、確約は、できないわ」
 まるで、州の司法長官と顔見知りのような口ぶりだ。
 だが、そう思わせたほうが良い。
 彼が州刑務所を嫌がるのは、当然だ。
 なぜなら州刑務所には、凶悪殺人犯がゴロゴロいるからだ。
 一方、市営簡易刑務所は、もともと、窃盗罪や傷害罪など、凶悪犯罪以外の罪人の収監が前提だ。
 だが市長は、市営簡易刑務所を悪用し、無実の青年たちを、強盗殺人犯として収監してきた。
 その青年たちは無実だったので、本物の殺人犯は、市営簡易刑務所には収監されていなかった。
 「二つ目の要求は、私の懲役刑を十年分、短縮しろ」
 すぐさま、反論した。
 「すごい要求ね。市民裁判のときと同じ話をするだけで、十年減刑なんて。あのときのあなたの証言は、新聞記者が全部メモしているのよ。そのメモを捜査官たちに提供すればすむ話だけど、捜査官たちは、自分自身で尋問じんもんしたい。だから、あなたを呼んだ。しかし、あなたが証言したくないなら、あなたが証言を拒否したって伝えるわ。そのかわり、取引もなしよ。州刑務所に移送されても、知らないわ」
 「待て」
 「二年の減刑なら、良いわよ」
 「五年だ」
 「四年間が限界ね」
 「わかった。それでいい。これで、市営簡易刑務所で十五年だな」
 「そうね」
 取引は、成立した。
 悪徳弁護士の手錠を、はずさせた。
 リビングルームに、通した。
 悪徳弁護士は、捜査官たちの前で、市長の犯罪を、すべて告白した。
 捜査官たちは、強盗殺人事件のファイルを見ながら、質問をした。
 悪徳弁護士は、正直に答えた。
 捜査官たちは、ニコラウスによる少女殺害事件についても、質問した。
 その件については、悪徳弁護士は目撃していない。ニコラウスが自慢げに話すので、知ってはいたが。
 土曜日の銃撃戦についても、捜査官たちは、質問した。
 その件も、悪徳弁護士は目撃していなかった。土曜の午後のため、自宅にいた。
 捜査官たちの質問が、終わった。
 ルビー・クールが、口を開いた。
 「彼は、殺人事件の実行犯ではなく、単なる連絡係でしたので、市営簡易刑務所に収監する予定です」
 「そうか」
 捜査官は、ほとんど反応を示さなかった。
 どの刑務所に収監するのかは、捜査官の管轄外だからだ。
 悪徳弁護士の取り調べが、終了した。
 制服警官に連れられ、悪徳弁護士が部屋を出た。
 その直後、ルビー・クールが尋ねた。捜査官たちに。
 「市長の手下のほとんどは銃撃戦で死亡したのですが、腹心の部下の執事が、手に銃創を負っただけで、まだ生きています。彼も、ここに召喚しましょうか?」
 「もちろんだ」
 すぐに、電話をかけた。警察署に。
 順調に、進んでいる。
 もはや、捜査官たちも秘書官も、市長の過去の犯罪行為に関心が集中している。
 銃撃戦や市民裁判については、関心が低下している。
 このままうまくいけば、ルビー・クールの関与は、知られずにすむ。
 ルビー・クールは玄関ホールで、到着を待った。
 十数分後、執事が来た。
 右手の包帯が、血で真っ赤だった。
 土曜日の夜、彼を留置場に入れる前に、教会附属病院に連れて行き、応急手当をした。
 それ以降、包帯を替えていないようだ。
 執事の顔は青ざめていて、死人のようだった。
 ルビー・クールが、制服警官に指示した。
 「この取り調べが終わったら、教会附属病院に連れて行って、包帯を替えてあげて」
 「了解です」
 執事にも、悪徳弁護士と同様の説明をした。捜査官たちは、市長の犯罪を調査に来た、と。
 彼を、リビングルームに連れて行った。
 執事は、すべてを観念しているのか、正直に話した。捜査官たちに。見聞きした市長の犯罪行為を。
 最後に、捜査官が尋ねた。
 「銃撃戦の件だが……」
 まずい。銃撃戦への関心は、まだ残っていたか。
 執事を撃ったのは、ルビー・クールだ。
 執事がそれを証言すると、非常にまずい。
 ルビー・クールの心臓が、早鐘はやがねを打った。
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