74 / 138
<第十五章 第5話>
しおりを挟む
<第十五章 第5話>
ルビー・クールの電話での口調は、上から目線で、偉そうだった。
そのため、秘書官と捜査官たちは、思い込んだはずだ。
この女は、やはり、市議会議長の親族に違いない、と。
だから、たかが秘書なのに、多くの人々に上から目線なのだ、と。
それに、さきほどの警官たちの「小隊長殿」発言も、思い込みを強化するはずだ。
帝国陸軍の小隊長の九割は、貴族だ。だが、残りの一割は、帝国士官学校を卒業した平民富裕層の男性だ。
このフロスハーフェン市には、貴族はいない。もともと交易によって生まれた町なので、平民だけだ。平民が帝国士官学校の入学試験に合格するには、幼い頃から、多額の教育費をかけねばならない。よって、かなりの大金持ちでないと、息子を帝国陸軍の小隊長にはできない。
したがって、ルビー・クールは、この町で指折りの大金持ちの親族である。
そうした結論に、なるはずだ。
「失礼します」
メイドの一人が、リビングルームに入ってきた。
ルビー・クールに、声をかけた。
「お食事のご用意が、できました」
「運んでちょうだい」
次々に、料理が運ばれてきた。
駅まで来てもらったメイド二名とは別に、もう二名のメイドに、事前に指示しておいた。市長公邸の台所で、料理の準備をするように、と。
彼女たちは、ニコラウスに拉致監禁され、性的暴行を受けたあと、市長公邸でメイドとして、強制労働させられていた。無給で。
だが、彼女たちは賢く、心が強かった。一流のメイドとしての能力を、身につけた。そのため、生きのび続けた。
彼女たち五名のうち、最も料理が得意な者二名に、料理を頼んだ。
捜査官の一人が、嬉しそうな声を出した。
「これはランチと言うより、ディナーだな」
州知事の秘書官が、何名の随行員を連れて来るか、わからなかった。州警察の捜査官は、二名だろうとは思ったが、もっと多い可能性も考慮した。
そのため、十二名分のディナーの用意をさせていた。
だいぶ余ることになるが、余った分は、メイドたちや検視の医師、それに警備の警官たちに振る舞えば良い。
食事を始めてすぐに、警察署の事務部長が到着した。男性事務員二名に、一つずつ鞄を持たせて。
ルビー・クールが口を開いた。
「時間の節約のため、食べながら、捜査資料をご覧ください」
男性事務員たちから、ルビー・クールが鞄を受け取った。
鞄からファイルを次々に取り出した。
「こちらは、市長が命じた殺人事件の資料です。この町のギャング組織に命じ、強盗殺人事件に見せかけました」
秘書官と捜査官二名に、ファイルを次々に渡した。
捜査官の一人が、食事をしながら命じた。事務部長に視線を向けて。
「詳しく説明してくれ」
事務部長が、動揺した。
「えっ。私が、ですが?」
「おまえが、捜査責任者なんだろ」
「いえ、私は事務部長でして、捜査のことは、まったくわかりません」
声を荒げた。捜査官が。
「なぜ、捜査責任者が来ないんだ!」
口ごもった。事務部長が。それに、助けを求めるような視線を、ルビー・クールに向けた。
だが、わざと無視した。
さらに、声を荒げた。捜査官が。
「署長を呼べ!」
「いえ、その~。署長は……」
困惑の表情を浮かべた。事務部長が。
「署長を呼んでこい!」
怒鳴った。捜査官が。
事務部長が、冷や汗をダラダラと流し始めた。
あたりまえだ。署長を殺したのは、ルビー・クールだ。
遠方からの狙撃だったため、本当にルビー・クールが殺したかどうかは、わからないはずだ。
だが、ルビー・クールら三名の少女が、市警を全滅させたことは、あきらかだ。
そのうえ、事務部長は、思い込んでいる。
州警察の捜査官と、州知事の秘書官を呼んだのは、ルビー・クールだ、と。
口ごもる事務部長に、助け船を出した。ルビー・クールが。
「署長は、殉職しました。おとといの土曜日に」
絶句した。捜査官たちが。
間髪を入れず、言葉を続けた。
「それに、市警に二名しかいない警部も、土曜日に殉職しました。署長と、副署長を兼務する警部は、銃撃戦で殉職し、もう一人の警部は、市長の手下に暗殺されたようです」
「暗殺? 市長の手下に?」
捜査官が、驚きの声をあげた。
説明を続けた。ルビー・クールが。淡々と。無表情で。
なぜなら、ここが、正念場だからだ。
ルビー・クールは、気を引き締めた。
表情には、いっさい出さなかったが。
ルビー・クールの電話での口調は、上から目線で、偉そうだった。
そのため、秘書官と捜査官たちは、思い込んだはずだ。
この女は、やはり、市議会議長の親族に違いない、と。
だから、たかが秘書なのに、多くの人々に上から目線なのだ、と。
それに、さきほどの警官たちの「小隊長殿」発言も、思い込みを強化するはずだ。
帝国陸軍の小隊長の九割は、貴族だ。だが、残りの一割は、帝国士官学校を卒業した平民富裕層の男性だ。
このフロスハーフェン市には、貴族はいない。もともと交易によって生まれた町なので、平民だけだ。平民が帝国士官学校の入学試験に合格するには、幼い頃から、多額の教育費をかけねばならない。よって、かなりの大金持ちでないと、息子を帝国陸軍の小隊長にはできない。
したがって、ルビー・クールは、この町で指折りの大金持ちの親族である。
そうした結論に、なるはずだ。
「失礼します」
メイドの一人が、リビングルームに入ってきた。
ルビー・クールに、声をかけた。
「お食事のご用意が、できました」
「運んでちょうだい」
次々に、料理が運ばれてきた。
駅まで来てもらったメイド二名とは別に、もう二名のメイドに、事前に指示しておいた。市長公邸の台所で、料理の準備をするように、と。
彼女たちは、ニコラウスに拉致監禁され、性的暴行を受けたあと、市長公邸でメイドとして、強制労働させられていた。無給で。
だが、彼女たちは賢く、心が強かった。一流のメイドとしての能力を、身につけた。そのため、生きのび続けた。
彼女たち五名のうち、最も料理が得意な者二名に、料理を頼んだ。
捜査官の一人が、嬉しそうな声を出した。
「これはランチと言うより、ディナーだな」
州知事の秘書官が、何名の随行員を連れて来るか、わからなかった。州警察の捜査官は、二名だろうとは思ったが、もっと多い可能性も考慮した。
そのため、十二名分のディナーの用意をさせていた。
だいぶ余ることになるが、余った分は、メイドたちや検視の医師、それに警備の警官たちに振る舞えば良い。
食事を始めてすぐに、警察署の事務部長が到着した。男性事務員二名に、一つずつ鞄を持たせて。
ルビー・クールが口を開いた。
「時間の節約のため、食べながら、捜査資料をご覧ください」
男性事務員たちから、ルビー・クールが鞄を受け取った。
鞄からファイルを次々に取り出した。
「こちらは、市長が命じた殺人事件の資料です。この町のギャング組織に命じ、強盗殺人事件に見せかけました」
秘書官と捜査官二名に、ファイルを次々に渡した。
捜査官の一人が、食事をしながら命じた。事務部長に視線を向けて。
「詳しく説明してくれ」
事務部長が、動揺した。
「えっ。私が、ですが?」
「おまえが、捜査責任者なんだろ」
「いえ、私は事務部長でして、捜査のことは、まったくわかりません」
声を荒げた。捜査官が。
「なぜ、捜査責任者が来ないんだ!」
口ごもった。事務部長が。それに、助けを求めるような視線を、ルビー・クールに向けた。
だが、わざと無視した。
さらに、声を荒げた。捜査官が。
「署長を呼べ!」
「いえ、その~。署長は……」
困惑の表情を浮かべた。事務部長が。
「署長を呼んでこい!」
怒鳴った。捜査官が。
事務部長が、冷や汗をダラダラと流し始めた。
あたりまえだ。署長を殺したのは、ルビー・クールだ。
遠方からの狙撃だったため、本当にルビー・クールが殺したかどうかは、わからないはずだ。
だが、ルビー・クールら三名の少女が、市警を全滅させたことは、あきらかだ。
そのうえ、事務部長は、思い込んでいる。
州警察の捜査官と、州知事の秘書官を呼んだのは、ルビー・クールだ、と。
口ごもる事務部長に、助け船を出した。ルビー・クールが。
「署長は、殉職しました。おとといの土曜日に」
絶句した。捜査官たちが。
間髪を入れず、言葉を続けた。
「それに、市警に二名しかいない警部も、土曜日に殉職しました。署長と、副署長を兼務する警部は、銃撃戦で殉職し、もう一人の警部は、市長の手下に暗殺されたようです」
「暗殺? 市長の手下に?」
捜査官が、驚きの声をあげた。
説明を続けた。ルビー・クールが。淡々と。無表情で。
なぜなら、ここが、正念場だからだ。
ルビー・クールは、気を引き締めた。
表情には、いっさい出さなかったが。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる