絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十五章 第5話>

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   <第十五章 第5話>
 ルビー・クールの電話での口調は、上から目線で、えらそうだった。
 そのため、秘書官と捜査官たちは、思い込んだはずだ。
 この女は、やはり、市議会議長の親族に違いない、と。
 だから、たかが秘書なのに、多くの人々に上から目線なのだ、と。
 それに、さきほどの警官たちの「小隊長殿」発言も、思い込みを強化するはずだ。
 帝国陸軍の小隊長の九割は、貴族だ。だが、残りの一割は、帝国士官学校を卒業した平民富裕層の男性だ。
 このフロスハーフェン市には、貴族はいない。もともと交易によって生まれた町なので、平民だけだ。平民が帝国士官学校の入学試験に合格するには、幼い頃から、多額の教育費をかけねばならない。よって、かなりの大金持ちでないと、息子を帝国陸軍の小隊長にはできない。
 したがって、ルビー・クールは、この町で指折りの大金持ちの親族である。
 そうした結論に、なるはずだ。
 「失礼します」
 メイドの一人が、リビングルームに入ってきた。
 ルビー・クールに、声をかけた。
 「お食事のご用意が、できました」
 「運んでちょうだい」
 次々に、料理が運ばれてきた。
 駅まで来てもらったメイド二名とは別に、もう二名のメイドに、事前に指示しておいた。市長公邸の台所で、料理の準備をするように、と。
 彼女たちは、ニコラウスに拉致監禁され、性的暴行を受けたあと、市長公邸でメイドとして、強制労働させられていた。無給で。
 だが、彼女たちは賢く、心が強かった。一流のメイドとしての能力を、身につけた。そのため、生きのび続けた。
 彼女たち五名のうち、最も料理が得意な者二名に、料理を頼んだ。
 捜査官の一人が、嬉しそうな声を出した。
 「これはランチと言うより、ディナーだな」
 州知事の秘書官が、何名の随行員ずいこういんを連れて来るか、わからなかった。州警察の捜査官は、二名だろうとは思ったが、もっと多い可能性も考慮した。
 そのため、十二名分のディナーの用意をさせていた。
 だいぶあまることになるが、余った分は、メイドたちや検視の医師、それに警備の警官たちに振る舞えば良い。
 食事を始めてすぐに、警察署の事務部長が到着した。男性事務員二名に、一つずつ鞄を持たせて。
 ルビー・クールが口を開いた。
 「時間の節約のため、食べながら、捜査資料をご覧ください」
 男性事務員たちから、ルビー・クールが鞄を受け取った。
 鞄からファイルを次々に取り出した。
 「こちらは、市長が命じた殺人事件の資料です。この町のギャング組織に命じ、強盗殺人事件に見せかけました」
 秘書官と捜査官二名に、ファイルを次々に渡した。
 捜査官の一人が、食事をしながら命じた。事務部長に視線を向けて。
 「詳しく説明してくれ」
 事務部長が、動揺した。
 「えっ。私が、ですが?」
 「おまえが、捜査責任者なんだろ」
 「いえ、私は事務部長でして、捜査のことは、まったくわかりません」
 声をあらげた。捜査官が。
 「なぜ、捜査責任者が来ないんだ!」
 口ごもった。事務部長が。それに、助けを求めるような視線を、ルビー・クールに向けた。
 だが、わざと無視した。
 さらに、声を荒げた。捜査官が。
 「署長を呼べ!」
 「いえ、その~。署長は……」
 困惑の表情を浮かべた。事務部長が。
  「署長を呼んでこい!」
 怒鳴った。捜査官が。
 事務部長が、冷や汗をダラダラと流し始めた。
 あたりまえだ。署長を殺したのは、ルビー・クールだ。
 遠方からの狙撃だったため、本当にルビー・クールが殺したかどうかは、わからないはずだ。
 だが、ルビー・クールら三名の少女が、市警を全滅させたことは、あきらかだ。
 そのうえ、事務部長は、思い込んでいる。
 州警察の捜査官と、州知事の秘書官を呼んだのは、ルビー・クールだ、と。
 口ごもる事務部長に、助け船を出した。ルビー・クールが。
 「署長は、殉職じゅんしょくしました。おとといの土曜日に」
 絶句した。捜査官たちが。
 間髪を入れず、言葉を続けた。
 「それに、市警に二名しかいない警部も、土曜日に殉職しました。署長と、副署長を兼務する警部は、銃撃戦で殉職し、もう一人の警部は、市長の手下に暗殺されたようです」
 「暗殺? 市長の手下に?」
 捜査官が、驚きの声をあげた。
 説明を続けた。ルビー・クールが。淡々と。無表情で。
 なぜなら、ここが、正念場だからだ。
 ルビー・クールは、気を引き締めた。
 表情には、いっさい出さなかったが。
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