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<第十五章 第2話>
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<第十五章 第2話>
冷静に、答えた。
「はい、その通りです。中央円形広場で、公開処刑されました」
重要なのは、核心部分は、真実を述べることだ。
それにより、すべてを真実だと思い込む。
「処刑の理由は?」
「市長公邸から、三十名の女性の死体が発見されたのが、きっかけです。他にも、市長が多数の市民を殺害していたことが、発覚しました」
「死体発見のきっかけは?」
「市長の一人息子ニコラウスが、自分で自慢げに話したそうです。農村から働きに出てきた少女たちを拉致して監禁し、性的暴行を加え、何十人も殺した。死体は市長公邸の裏庭に埋めた、と。その話を聞いた多くの市民が激怒して……」
「なるほどな」
秘書官が、言葉を続けた。独り言のように。
「それで、怒り狂った市民が、市長公邸に押し入ったわけか。そして実際に、死体が発見された」
ルビー・クールは、黙って頷いた。
うまく、誘導できた。
大切なことは、ルビー・クールの存在を、知られないことだ。
外部の者が市民裁判を主導したのではなく、市民自身が市民裁判を実施し、市長を処刑したと思わせることだ。
日曜日の朝刊には、重要な事実しか記されていなかった。ルビー・クールのことは、触れられていなかった。
日曜日は安息日のため、印刷所は休みだ。そのため、月曜日の朝刊は、ない。
明日の火曜日の朝刊には、フロスハーフェン市の事件について、続報が報じられるはずだ。
しかしおそらく、ルビー・クールが重要な役割を果たしたことは、報じられない可能性が高い。
なぜなら、地元大手紙の本社デスクが、そんな話を信じないからだ。
美少女三名が、数百名のギャングを殺しまくったり、数十名の警官たちを射殺したなど、実際に自分の目で見なければ、与太話だと思うだろう。
だから、フロスハーフェン支局も、信用されない話は、最初から本社に送らない。
馬車が、停まった。
ルビー・クールが微笑んだ。
「あたしの名前は、マリア・シュミットと言います。けれど、みんな、あたしのことをルビーと呼びます。この赤毛が、宝石のルビーのように赤いから」
毛先をいじりながら、はにかんで見せた。もちろん、計算尽くだ。
「ですから皆様も、あたしのことを、ルビーと呼んでくださいね」
捜査官たちが、ニヤけた。はにかんだ美少女を見て。
うまくいった。
これで、ルビー・クールのことを、疑うことはない。
赤毛の美少女がギャングたちと銃撃戦をした話を聞いても、別の赤毛の少女だと思うはずだ。
ドアを開けて、ルビー・クールが真っ先に降りた。
「ここが市長公邸です。死体発見現場に、ご案内いたします」
市長公邸の正門前では、ライフル銃を所持した制服警官二名が、警備にあたっていた。
ルビー・クールを見るなり、敬礼をした。
黙って、頷いた。ルビー・クールは。
秘書官が、馬車から降りた。
ルビー・クールが、紹介した。制服警官たちに。
「この方は、州知事閣下の秘書官様です」
再び、敬礼した。制服警官たちが。緊張した面持ちで。
警官たちが、市長公邸の正門を開けた。
「どうぞ、こちらです。秘書官様」
すみやかに、裏庭に案内した。
裏庭には、数名の男たちがいた。
警官たちが、ルビー・クールを見て敬礼した。
警官たちは、制服警官が二名、私服のままの警官が四名だ。
ほかに、白衣を着た初老のメガネ男がいた。
白衣の男は、教会附属病院に頼んで派遣してもらった医師だ。
ルビー・クールが、初老の医師に声をかけた。
「先生、検視の進捗状況は、どうですか?」
「まだ一部しか、終わっておらん」
振り返らずに、そう答えた。医師の口調は、不機嫌そうだ。
「先生、こちらの方は、州知事閣下の秘書官様です」
思わず、振り返った。
硬直した。初老の医師が。
警官たちが全員、最敬礼した。
医師が口の中で、もごもごと、つぶやいた。「これは、失礼を」と。
ルビー・クールが、尋ねた。
「死因が判明した遺体は、ありますか?」
「ああ、ある」
医師が、私服の警官たちに、指示した。
すぐに私服警官四名が、二体の死体を運んできた。医師の前に。
私服の警官たちは、医師にアゴで使われているようだ。
そのほうが、都合が良い。
警官が私服では、秘書官や捜査官たちに、不審に思われる。
だが、単なる作業員だと認識されれば、不審には思われない。
医師が説明を始めた。
「こちらの女性の遺体は、左側頭部の骨が、陥没している」
ルビー・クールが尋ねた。
「右手で殴られたのかしら? 凶器は?」
「わからん」
「素手で殴って、頭蓋骨が陥没することは?」
「人による。あのボンボンは市長に似て、大男に成長したからな。小柄な女性なら、素手で殴っても死ぬかもしれん」
そのときだった。州警察捜査官の一人が、口をはさんだ。
その厳しい口調に、思わず凍りついた。
冷静に、答えた。
「はい、その通りです。中央円形広場で、公開処刑されました」
重要なのは、核心部分は、真実を述べることだ。
それにより、すべてを真実だと思い込む。
「処刑の理由は?」
「市長公邸から、三十名の女性の死体が発見されたのが、きっかけです。他にも、市長が多数の市民を殺害していたことが、発覚しました」
「死体発見のきっかけは?」
「市長の一人息子ニコラウスが、自分で自慢げに話したそうです。農村から働きに出てきた少女たちを拉致して監禁し、性的暴行を加え、何十人も殺した。死体は市長公邸の裏庭に埋めた、と。その話を聞いた多くの市民が激怒して……」
「なるほどな」
秘書官が、言葉を続けた。独り言のように。
「それで、怒り狂った市民が、市長公邸に押し入ったわけか。そして実際に、死体が発見された」
ルビー・クールは、黙って頷いた。
うまく、誘導できた。
大切なことは、ルビー・クールの存在を、知られないことだ。
外部の者が市民裁判を主導したのではなく、市民自身が市民裁判を実施し、市長を処刑したと思わせることだ。
日曜日の朝刊には、重要な事実しか記されていなかった。ルビー・クールのことは、触れられていなかった。
日曜日は安息日のため、印刷所は休みだ。そのため、月曜日の朝刊は、ない。
明日の火曜日の朝刊には、フロスハーフェン市の事件について、続報が報じられるはずだ。
しかしおそらく、ルビー・クールが重要な役割を果たしたことは、報じられない可能性が高い。
なぜなら、地元大手紙の本社デスクが、そんな話を信じないからだ。
美少女三名が、数百名のギャングを殺しまくったり、数十名の警官たちを射殺したなど、実際に自分の目で見なければ、与太話だと思うだろう。
だから、フロスハーフェン支局も、信用されない話は、最初から本社に送らない。
馬車が、停まった。
ルビー・クールが微笑んだ。
「あたしの名前は、マリア・シュミットと言います。けれど、みんな、あたしのことをルビーと呼びます。この赤毛が、宝石のルビーのように赤いから」
毛先をいじりながら、はにかんで見せた。もちろん、計算尽くだ。
「ですから皆様も、あたしのことを、ルビーと呼んでくださいね」
捜査官たちが、ニヤけた。はにかんだ美少女を見て。
うまくいった。
これで、ルビー・クールのことを、疑うことはない。
赤毛の美少女がギャングたちと銃撃戦をした話を聞いても、別の赤毛の少女だと思うはずだ。
ドアを開けて、ルビー・クールが真っ先に降りた。
「ここが市長公邸です。死体発見現場に、ご案内いたします」
市長公邸の正門前では、ライフル銃を所持した制服警官二名が、警備にあたっていた。
ルビー・クールを見るなり、敬礼をした。
黙って、頷いた。ルビー・クールは。
秘書官が、馬車から降りた。
ルビー・クールが、紹介した。制服警官たちに。
「この方は、州知事閣下の秘書官様です」
再び、敬礼した。制服警官たちが。緊張した面持ちで。
警官たちが、市長公邸の正門を開けた。
「どうぞ、こちらです。秘書官様」
すみやかに、裏庭に案内した。
裏庭には、数名の男たちがいた。
警官たちが、ルビー・クールを見て敬礼した。
警官たちは、制服警官が二名、私服のままの警官が四名だ。
ほかに、白衣を着た初老のメガネ男がいた。
白衣の男は、教会附属病院に頼んで派遣してもらった医師だ。
ルビー・クールが、初老の医師に声をかけた。
「先生、検視の進捗状況は、どうですか?」
「まだ一部しか、終わっておらん」
振り返らずに、そう答えた。医師の口調は、不機嫌そうだ。
「先生、こちらの方は、州知事閣下の秘書官様です」
思わず、振り返った。
硬直した。初老の医師が。
警官たちが全員、最敬礼した。
医師が口の中で、もごもごと、つぶやいた。「これは、失礼を」と。
ルビー・クールが、尋ねた。
「死因が判明した遺体は、ありますか?」
「ああ、ある」
医師が、私服の警官たちに、指示した。
すぐに私服警官四名が、二体の死体を運んできた。医師の前に。
私服の警官たちは、医師にアゴで使われているようだ。
そのほうが、都合が良い。
警官が私服では、秘書官や捜査官たちに、不審に思われる。
だが、単なる作業員だと認識されれば、不審には思われない。
医師が説明を始めた。
「こちらの女性の遺体は、左側頭部の骨が、陥没している」
ルビー・クールが尋ねた。
「右手で殴られたのかしら? 凶器は?」
「わからん」
「素手で殴って、頭蓋骨が陥没することは?」
「人による。あのボンボンは市長に似て、大男に成長したからな。小柄な女性なら、素手で殴っても死ぬかもしれん」
そのときだった。州警察捜査官の一人が、口をはさんだ。
その厳しい口調に、思わず凍りついた。
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