絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

文字の大きさ
上 下
70 / 138

第十五章 州警察来訪で絶体絶命 <第1話>

しおりを挟む
   <第十五章 第1話>
 ルビー・クールは、鉄道の駅のホームに立っていた。ホームの出口近くだ。
 赤い帽子をかぶり、首元には赤いスカーフを巻いている。
 着ている服は、土曜日から同じで、臙脂えんじ色のジャケットとロングスカートだ。
 現在は、ガンベルトは巻いていない。わきの下にも、ホルスターをつけていない。それらは、リリアが持つボストンバッグに入っている。万が一に備えて。
 そのため、現在のルビー・クールは、オシャレな都会風美女に見える。
 彼女の背後には、リリアの他に、メイドが二名、ひかえている。
 それに、グランドパレスホテルのボーイ二名もいる。
 加えて、近くには、二名の制服警官が、警備にあたっている。
 もちろん、その制服警官たちは、ルビー・クールが任命した元兵士だ。
 午前十一時過ぎ、蒸気機関車が到着した。
 メイド二名が、それぞれ、大きな紙を開いて高く掲げた。
 一枚には、「州知事関係者様」と書かれている。
 もう一枚は「州警察関係者様」だ。
 列車から、十数名の客が降りてきた。
 すぐにわかった。
 誰が、州知事関係者か。
 背の高い紳士だ。引き締まった肉体は、帝国士官学校の出身を、うかがわせる。
 身長や服装だけでは、平民富裕層と貴族とを、見分けることはできない。
 だが、男の場合は、顔を見ればわかる。軍事訓練を受けたか否かが、表情に出るからだ。
 一方、女の場合は、顔を見ても、貴族か平民富裕層かは、わからないことが多い。
 彼は、貴族だ。おそらく、下級貴族。
 重要な職務を任される下級貴族は皆、有能だ。
 細心の注意を、払わなければ。
 彼は三十歳代のため、帝国陸軍の予備役だろう。帝国士官学校を卒業後、帝国陸軍で十年間の任期を勤めた。その後、予備役となり、州政府に職を得た。
 そんなところだろう。
 「こんにちは」
 笑顔で、声をかけた。ルビー・クールが。背の高い紳士に。
 彼が、気づいた。ルビー・クールと、メイドが高く掲げた紙に。
 近づいてきた。
 口を開いた。背の高い紳士が。
 「こんにちは。お嬢さん。ところでなぜ、私が来ることを知っていたのかね?」
 微笑ほほえみながら、答えた。
 「市議会議長の指示で、お待ちしておりました」
 これで、思い込んだはずだ。ルビー・クールを、市議会議長の秘書だと。
 ルビー・クールが身につけている衣服は、どれも上等だ。薄手のウールのジャケットも、絹製のブラウスやスカーフなども。
 そのため、良家の子女だと思うはずだ。市議会議長の親族だと、思ったかも知れない。
 少し、立ち話をした。
 背の高い紳士は、州知事の秘書官の一人だった。
 州知事には、秘書官長を筆頭に、十名を超える秘書官がいるようだ。
 ルビー・クールが、ボーイに指示した。秘書官の荷物を、お持ちするように、と。
 目つきの鋭い男二名が、近寄ってきた。
 州警察の捜査官だろう。
 彼らは、中肉中背だ。貴族でも平民富裕層でもない。平民の中所得層出身だろう。
 彼らにも、声をかけた。
 「ご案内します」
 まるでツアーガイドのように、ルビー・クールが、先頭に立って歩き始めた。
 その後ろを、ゾロゾロと集団がついて行った。
 リリアとメイド二名、秘書官、捜査官二名、ボーイ二名、それに制服警官二名の集団だ。
 ルビー・クールを含めて十一名だ。
 鉄道駅の前には、馬車が三台、停まっていた。
 一台目のドアを、制服警官の一人が開けた。ドアマンのように。
 「どうぞ」
 ルビー・クールが、秘書官に勧めた。続いて、捜査官二名にも。
 「失礼します」
 そう言ってから、ルビー・クールも乗り込んだ。
 馬車の座席は、前方の席と後方の席が、向かい合っている。
 後方の席には、秘書官が座っていた。
 前方の席は、捜査官二名だ。
 ルビー・クールは秘書官の隣に座り、ドアを閉めた。
 すぐに馬車が、走り始めた。行く先は、あらかじめ伝えてある。
 二台目はリリアとメイド二名が乗り込み、三台目は荷物を持ったボーイたちが乗り込む予定だ。制服警官二名は、そのまま駅に残り、警備にあたる。
 馬車が走り始めるとすぐに、秘書官が尋ねてきた。
 「土曜日の夜、市長が処刑されたというのは、本当かね?」
 思った通りだ。
 ここまでは、順調だ。
 しかし、大切なのは、ここからだ。
 ルビー・クールは、あらためて気を引き締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

処理中です...