絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十四章 第3話>

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   <第十四章 第3話>
 「なぜなら……」
 ルビー・クールは、言葉を続けた。
 「州知事とは、知り合いだから」
 もちろん、大嘘だ。
 息を飲んだ。市議会議長が。
 数秒後、彼が口を開いた。
 「わかった。誰か、擁立ようりつしよう」
 「ご協力、感謝しますわ」
 電話を切った。
 市議会議長は、信じたのだ。ルビー・クールの大嘘を。
 州知事は、帝国政府から派遣された上級貴族だ。彼と知り合いならば、ルビー・クールは、帝国政府、もしくは上級貴族から、非公式に派遣された人物だ。
 そう、考えたに違いない。
 これで、市長選挙の第一関門は突破した。
 だが明日、第二関門が待っている。
 来訪する州警察の捜査官だ。
 来訪するのは、捜査官だけではない。
 州知事が事実確認のため、自分の補佐官や秘書官を、派遣する可能性がある。
 州知事が真面目な人物ならば、必ず、信用できる人物を派遣する。
 いや、州知事自身がけている人物ならば、必ず、真面目で几帳面な秘書官が、彼を補佐している。
 よって、州知事も、必ず誰かを派遣するはずだ。
 明日は、忙しくなるわね。そう思った。

 * * * * * * * * *

 五月最初の月曜日。朝六時に、起床した。三階の窓から、中央円形広場を眺めた。
 死体は、すべて燃え尽き、灰となっていた。
 昨夜、燃やす前のことだ。
 スラム街の住人たちが、ギャングたちのサイフや所持品を、盗み始めた。さらに、ジャケットやシャツ、ズボン、靴に至るまで、すべてをぎ取り始めた。
 カネになるからだ。特に、スラム街では。
 ルビー・クールは、それを黙認した。
 それどころか、彼らに声をかけた。
 「ポケットから弾丸を見つけた人は、銅貨で買い取るわよ」
 (著者注:銅貨一枚は十キャピタで、日本円で約千円)
 拳銃はすべて、土曜日の段階で、新任警官たちに命じて、回収してある。だが、ポケットの中の弾丸までは、充分に手が回らなかった。
 カネになるものは全部奪ったため、遺灰の中に燃え残ったものは、ほとんどないはずだ。
 手早く朝食をすませたあと、ガンベルトを巻いて、外に出た。
 すでにチラホラと、スラム街の住人たちが集まっていた。それに、市民たちも。
 午前七時頃には、百名を超える男たちが集まった。
 その日の報酬、銀貨一枚を、先払いした。
 働きの良い者には、チップとして、さらに報酬を上乗せすると説明した。
 スコップや布袋を持参した者にも、その場で、レンタル料を支払った。
 全員が、猛然と作業を始めた。スコップを使って、布袋に遺灰を入れ始めた。
 午前八時までに、さらに数百名が集まってきた。
 荷馬車が、何台も到着した。彼らは、本業の運送業者のようだ。
 遺灰の入った布袋を、次々に荷馬車に詰め込んだ。
 午前八時半、新任警官たちが集合した。
 彼らに、今日の業務を説明し、命令を出した。
 日曜日に調べたのだが、警察署の更衣室には、警官の制服が残されていた。冬用と夏用は数十着ずつあったが、春秋用の制服は、数着しかなかった。
 体格があう者に、夏用と春秋用の制服を着せた。
 春秋用の制服を着た警官二名を、鉄道駅に配備した。
 夏用制服を着用した警官の一部に、二人一組で、外回りのパトロールを命じた。
 残りは、警察署、市長公邸、市役所の警備だ。
 午前九時、グランドパレスホテル前に、数十名の男たちが集まってきた。
 市長選挙の立候補希望者たちだ。
 ルビー・クールは、玄関前に立ち、呼びかけた。
 「こちらは、選挙管理委員会です。これから、受付を開始します。必要な書類は、この町の住民登録書です。忘れた方は、すぐに自宅に取りに戻ってください。紛失した方は、市役所で再発行してもらってください」
 ホテル一階の玄関ホールに、サファイア・レインを配置した。
 彼女が一人一人、住民登録書を確認する。
 確認後は、一人ずつ、メイドが三階のスイートルームに案内する。
 そのメイドは、市長公邸から救出した拉致監禁被害者だ。
 救出したメイド五名は、働き者で賢そうだったので、市長選挙終了まで、五名とも雇用することにした。日給は、銀貨一枚だ。
 スイートルームの居間では、ルビー・クールが待っている。
 立候補希望者に書類を記入させ、簡単な質問をしたあと、受付番号を記した紙を渡した。立ち会い演説会の登壇は、受付順であることをげて。
 一人分の受け付けは、これで完了だ。
 午前十時半に、業務を交代した。
 パール・スノーは、中央円形広場で、遺灰処理作業の監督をしていた。
 その業務が終了したので、サファイア・レインの業務を担当した。
 サファイア・レインは、ルビー・クールの代わりに、三階で立候補の受け付けだ。
 ルビー・クールは、鉄道の駅に向かった。
 もうしばらくたてば、州知事の補佐官か秘書官が、到着するはずだ。それに、州警察の捜査官も。
 ここからが、正念場だ。
 ルビー・クールは、気を引き締めた。

    第十五章「州警察来訪で絶体絶命」に続く
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