絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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第十四章 市長選挙の準備で絶体絶命 <第1話>

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   <第十四章 第1話>
 五月最初の日曜日。午後九時過ぎ。
 電話を、かけた。ルビー・クールが。グランドパレスホテルのスイートルームから。
 メイドが出た。
 「市議会議長を、出してちょうだい」
 「どなた様でしょうか?」
 「グランドパレスホテルのスイートルームに泊まっている赤毛の女よ」
 すぐに、取り次いでくれた。
 「なんの用だ?」
 ドスのいた声だった。
 聞いた瞬間に、理解した。
 この男も、実力者だ。多くの人々を支配してきた独裁者だ。
 市長は極悪だった。その抵抗勢力の中心人物のため、善人かと思っていた。
 だが、違うかも知れない。
 一筋縄では、いかない男だ。この男は。
 平静さをよそおい、ルビー・クールが答えた。
 「市長選挙のお誘いよ」
 「市長選挙だと? そんなもの、できると思っているのか?」
 「あら、なぜ、できないと思うのかしら?」
 「今朝の新聞、読んでないのか?」
 「読んだわよ。地元大手紙を。フロスハーフェン支局は、仕事が早いわね」
 今朝の地元大手紙の一面見出しは、すごかった。
 「フロスハーフェン市長処刑。市民裁判で」だ。
 本文を読むと、以下の内容が記されていた。
 市長公邸で、女性の死体三十体を発見。
 市長親子は、市民数十名を殺害か。
 市長は贋金にせがねを製造。使用か。
 白黒写真も、掲載されていた。
 市長公邸の裏庭から、少女たちの遺体が掘り起こされたときの写真だ。
 フロスハーフェン駅からは、午後十時発の夜行列車がある。その列車に乗れば、午後零時過ぎに州都に着く。
 フロスハーフェン支局は、助手に記事原稿と写真のネガを持たせ、午後十時発の夜行列車に乗せた。地元大手紙の本社は、重大スクープだと即座に判断し、零時過ぎに一面の差し替えをした。
 州都の印刷所で印刷された新聞は、州都発午前六時の列車で、フロスハーフェン市に運ばれた。
 今日の午前九時前には、グランドパレスホテルにも、その新聞が届いた。
 市議会議長が、言った。ドスの効いた声で。
 「明日、月曜の朝には、州警察が動く。おまえと、おまえの協力者は、全員逮捕されるぞ。州警察に」
 「あら、なんの容疑で?」
 「とぼけるな! おまえは、どれだけ人を殺したと思ってるんだ?」
 「昨日と今日の二日間だけなら、千人には達していないわ。数百名程度よ」
 絶句した。市議会議長が。
 数秒後、口を開いた。
 「それだけ殺して、ただで、すむと思うのか?」
 「昨年十二月の帝都大乱の時は、悪党どもを一万人以上殺したわよ。協力者たちと、一緒にだけど」
 絶句した。再び。市議会議長が。
 十数秒の沈黙のあと、市議会議長が叫んだ。
 「おまえ、何者なにものだ!」
 「あたしたちは、帝都の慈善団体のボランティア・スタッフよ。この町には、慈善活動に来たのよ」
 沈黙が、流れた。
 市議会議長は、考えている。
 ルビー・クールの言葉を。
 深読みしているはずだ。
 彼は、こう考えるはずだ。
 ルビー・クールたちは、帝都のある団体から、この町に派遣された。
 目的は、無辜むこたみを多数殺害している極悪市長親子の排除だ。
 もしそうなら、帝都のその団体の主催者は、やんごとなき人だ。
 上級貴族か、あるいは、皇族か。
 いや、待てよ。
 もしそうなら、保守的なはずだ。
 無制限選挙を主張し、実施しようとするはずがない。
 納めた所得税の多寡にかかわらず、選挙権と被選挙権を付与する無制限選挙は、知識人向け新聞や、労働者向け新聞が、盛んに主張している。
 だが実際には、帝国では、地方選挙も含めて、無制限選挙が実施されたことはない。
 無制限選挙を主張し、しかも、暴力をいとわない団体ならば、革命団体かも知れない。
 革命団体なら、非合法のテロ組織だ。
 対応を間違えれば、自分の命も危ない。
 そう思ったはずだ。
 「ワシに電話をかけた目的は、なんだ?」
 「市長選挙に、誰か擁立してくれないかしら。あなたの親族でも良いわよ。もちろん、当選するかどうかは、わからないけれど。もし当選したら、あなたにとっては、この町を牛耳ぎゅうじる絶好の機会よ。もっとも、あなたがろくでもない市政をして、市民を苦しめれば、四年後の次の市長選挙では、敗れるけど」
 怒鳴った。市議会議長が、受話器越しに。
 「おまえの本当の目的は、なんだ?」
 冷ややかに、答えた。ルビー・クールが。
 「あたしの本当の目的は、すべての人々が、幸せに生きられる社会を、つくることよ」
 言葉を、続けた。今度は、ドスを効かせるように、低い声で。
 「だから、多くの人々を苦しめる極悪非道の悪党は、許さない。絶対に、ね」
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