絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十三章 第5話>

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   <第十三章 第5話>
 ルビー・クールは警官たちを引き連れ、ヴィクトールの執務室に向かった。
 彼の執務室にも、旧式の金庫があった。鍵穴が一つしかない金庫だ。ヴィクトールの死体から取り上げておいた鍵を警官に渡し、金庫を開けさせた。
 大量の銀貨や、銅貨があった。
 客が、銀貨や銅貨で支払うからだ。
 銀貨で満杯の鉄格子箱が、五つあった。鉄格子箱におさまらない銀貨が、金庫の中にあふれていた。
 銅貨は、クッキーの金属缶に入れてあったが、あふれていた。
 ホテルの洗濯袋を新任警官たちに渡し、あふれていた銀貨と銅貨を、分けて回収させた。
 拘束したチンピラ三名を連行し、死神団のアジトに戻った。その際、娼婦五名にも一緒に来るように言った。アジトの死体の中に、自分の情夫がいるか否かを、確認させるためだ。
 サファイア・レインが、小声で尋ねてきた。
 「アジトの死体や負傷者、どうするの?」
 「運ぶわ。中央円形広場まで」
 「警官たちだけでは、人手が足りないわよ」
 「警官たちには、そんなこと、させないわ」
 「じゃあ、誰が運ぶのよ?」
 「ここの住民たちよ。銀貨で雇うわ」
 分隊長たちを集めて、指示を出した。
 娼婦五名にも要請した。死体や負傷者を運ぶ体力のある男たちを、集めるように。報酬は、男一人につき、今日の夕方までで、銀貨一枚百キャピタ(著者注:日本円で約一万円)だ。
 彼女たちには、協力金として銀貨一枚を、その場で支払った。さらに、男を十名集めたら銀貨をもう一枚、二十名ならば二枚渡すことを約束した。
 すぐに娼婦たちは、男たちを集めに行った。
 ルビー・クールも、アジトの外に出て、拡声器を使って呼びかけた。
 報酬額を聞いて、周辺の住宅から住民たちが出てきた。女性や子供も。
 女性や幼い少年たちも、志願した。
 死体と重傷者は八十名ほどだ。二人で一人を運ぶなら、百六十名の肉体労働者が必要だ。
 筋肉量の少ない女性や、十歳代前半の少年たちの場合、成人男性の死体を、二名で運ぶのは、きつい。
 そこで、女性や十歳代前半の少年たちは、四名で死体一体を運ばせることにした。そのため報酬は、一人銅貨五枚五十キャピタだ。
 あっという間に、二百名近い老若男女が集まった。
 死傷者を一度に、中央円形広場まで、運ばせた。
 午後五時前には、すべて運び終わった。
 重傷者は、教会附属病院に運んだ。
 死傷者を運んだスラム街の住人たちに、銀貨と銅貨で、規定の報酬を支払った。
 彼ら彼女らは、喜んでいた。突然の臨時報酬に。
 教会附属病院の医者たちが、クレームを、つけてきた。
 病院長を呼び出した。寄付をすると言って。
 同時に、ルビー・クールは七名の分隊長を集めた。教会附属病院の玄関ホールに。
 分隊長たちの前で、病院長と交渉した。
 「金貨百枚、十万キャピタ払うわ。重傷者の手当てをしてちょうだい。最低限の治療で良いわよ」
 (著者注:十万キャピタは日本円で一千万円相当)
 病院長が、ごねた。
 それでは足りない、と。
 それに、昨日の負傷警官の治療費も、まだ受け取っていない、と。
 ルビー・クールが、分隊長たちの前で宣言した。
 「それでは、金貨で二十万キャピタ払うわ」
 それでも、ごねた。
 「金貨で二十五万キャピタ払うわ。それ以上の手当は、しなくて良いわ」
 交渉が、成立した。
 分隊長たちの前で、金貨二百五十枚、二十五万キャピタを、その場で支払った。
 分隊長を集めたのは、支払いの証人になってもらうためだ。
 念のために、受取証を病院長に発行してもらった。
 分隊長たちを引き連れて、警察署に移動した。
 警察署を警備していた第八分隊の警官たちに、四ヶ月分の基本給を支払った。
 第七分隊を市長公邸に派遣し、第九分隊を警察署に呼んだ。
 第九分隊にも、四ヶ月分の基本給を支払った。
 新任警官たちの総数は、百十四名だった。
 金貨は、百枚ほどしか残らなかった。
 だが、銀貨は五十万キャピタ(著者注:日本円で五千万円相当)以上残っていた。
 新任警官たちに、銀貨と銅貨の数を数えさせた。その金額を記録した。
 本日没収した金銀銅貨の残り金額を記録した上で、署長室の金庫に収めた。
 署長室の金庫も旧式で、鍵穴が一つだけだ。ダイヤル錠は、ついていない。
 金庫の鍵は、署長の死体が身につけていた。
 第一分隊長に、金庫の鍵を預けた。
 警察署は、第八分隊が引き続き、警備することにした。第八分隊の半数が、警察署で宿直をする。残りの半数は、自宅に帰って休息を取ることにした。
 市長公邸の警備も、一個分隊の半数を宿直させることにした。
 本日の警官隊の業務は、終了した。
 時刻は、午後六時を過ぎていた。
 警官隊に、解散を命じた。宿直業務以外の警官たちに。
 だがルビー・クールには、まだ今日中に、やるべきことがあった。
 下手へたを打つわけにはいかない重要なことだ。
 ルビー・クールは、気を引き締めた。

    第十四章「市長選挙の準備で絶体絶命」に続く
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