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<第十三章 第4話>

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   <第十三章 第4話>
 死神団のアジトを、捜索した。ボスのヴォルフガングの執務室で、大型金庫を発見した。
 その金庫は、鍵穴が一つしかない旧式だ。ダイヤル錠は、ついていない。
 金庫の鍵は、ヴォルフガングが身につけていた。
 死体が身につけていた物は、すでに土曜日の夜に、新任警官たちに命じて、チェック済みだ。
 ルビー・クールが、その鍵を分隊長の一人に渡し、金庫を開けるように指示した。
 金庫の中には、けっこうな数の金貨や銀貨が、あった。
 金貨は、満杯の千枚入り鉄格子箱が一つ。それに、半分ほど入った鉄格子箱も一つ。
 金貨だけで、百五十万キャピタ(著者注:日本円で約一億五千万円)ほどだ。
 銀貨は、満杯の千枚入り鉄格子箱が二つに、八割ほど入った鉄格子箱が一つだ。
 銀貨の合計額は、二十八万キャピタ(著者注:日本円で約二千八百万円)ほどだ。
 五つの鉄格子箱を、ヴォルフガングの大型執務机の上に、並べさせた。
 警備の警官を除き、なるべく多くの警官を、執務室に集めた。
 彼らの前で、ルビー・クールが宣言した。
 「この資金は没収し、新市警の予算に組み込みます」
 誰も、なにも言わなかった。
 ルビー・クールが、言葉を続けた。
 「それでは今より、新市警の新任警官諸君に、給与を支払います」
 どよめいた。執務室に集まった元兵士の新任警官たちが。
 そのまま、言葉を続けた。
 「一ヶ月の基本給は、全員、二千五百キャピタとします。それに、危険手当や役職手当、その他の手当をつけますが、それらは後払いです」
 (著者注:二千五百キャピタは、日本円で二十五万円相当)
 「四ヶ月分を前払いします」
 また、どよめいた。警官たちが。
 四ヶ月分なら一万キャピタだ。金貨なら十枚だ。
 新任警官は、この場にいない者も含めて、百二十名前後だ。
 必要な金額は、金貨千二百枚前後。この場にある金貨は千五百枚ほどのため、充分に支払うことができる。
 この場で支払うことにしたのは、理由が二つある。
 一つ目は、士気を高めるためだ。
 二つ目は、ルビー・クールを含めて、誰かがネコババしたり、くすねたりするのではないか、という警官たちの心配を、解消するためだ。
 この場にある金貨の大部分を警官たちに配ってしまえば、ネコババする金額自体が小さくなる。それにより、心配も不審感も、小さくなる。
 その場で、配り始めた。第一分隊の隊長から順番に。皆が見ている前で、金貨を十枚ずつ。その場で本人に、十枚あるかも確認させた。
 金貨を配った分隊を警備中の分隊と交代させ、すべての分隊に金貨を配った。
 残敵掃討作戦に参加した新任警官は、八十六名だった。
 金庫の中にあった金貨の半分以上を、配った。
 二個分隊をアジトの警備に残し、残り五個分隊を率いて、ヴィクトールの娼館に向かった。
 その娼館は、スラム街の西のはずれにあった。川港から、歩いて数分間の距離だ。客の多くは、輸送船の船員か、荷揚げ労働者だろう。
 娼館は、営業中だった。チンピラが三名いたため、すぐに拘束した。新任警官は銃で武装しているため、チンピラたちは、誰も抵抗しなかった。
 娼婦が、五名いた。年齢は二十歳代後半から四十歳前後だ。
 事情を、聞いた。
 ニコラウスに拉致された者は、いなかった。
 五人とも、似たような境遇だった。
 仕事を求めて、農村から、この町に出てきた。仕事がなくて困っていたときに、若い男が口説いてきた。
 一瞬だけ、恋に落ちた。
 しかし、その男は悪い男で、彼女に、娼婦の仕事を強要した。
 娼婦たちには、この娼館は今日から閉館だ、と伝えた。死神団は全滅し、ギャングのほとんどが死亡したことも、伝えた。自分の情夫の生死が知りたければ、今日中に、日没までに、中央円形広場で確認するように言った。
 最後に、ルビー・クールが伝えた。娼婦たちに。
 「あなたたちは、もう自由よ。好きなところに行って、好きにして良いわよ」
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