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第十三章 残敵掃討作戦で絶体絶命 <第1話>

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   <第十三章 第1話>
 五月最初の日曜日。午後一時過ぎ。
 新任警官百名超と、新聞記者らが集まった。グランドパレスホテルの前に。
 ルビー・クール、サファイア・レイン、パール・スノーの三名の少女が、現れた。六つのホルスターを装着したガンベルトを腰に巻いて。左右のわきの下にも、ホルスターを吊している。それに、狙撃銃を肩にかけている。
 三人とも、帽子をかぶっている。首元に、スカーフを巻いて。
 銃さえなければ、オシャレなシティー・ガールだ。
 パール・スノーが、大声で命じた。
 「全員、整列!」
 反射的に、百名を超える新任警官たちが、整列した。
 軍隊時代の教育の賜物たまものだ。
 敬礼した。ルビー・クールが。右手で、鷹揚おうように。
 あたかも、ベテランの将校のようだ。
 次の瞬間、あわてて敬礼した。元・帝国陸軍兵士の新任警官たちが。全員。
 パール・スノーが、大声で命じた。
 「全員、休め!」
  新任警官全員が、休めの姿勢を取った。
  ルビー・クールが、大声を張りあげた。
 「これより、銃の貸与たいよ式を、おこなう!」
 新任警官全員が、緊張した表情となった。
 思い出したのだ。
 帝国陸軍歩兵銃の貸与式のことを。
 歩兵銃の貸与式は、帝国陸軍の新兵訓練のあと、おこなわれる。
 貸与式は、彼らにとって、誇らしい記憶だ。
 新兵訓練は、数パーセントから、多いときは十数パーセントが脱落する。
 そのため、銃を貸与されるのは、厳しい訓練を乗り越え、一人前と判断された兵士だけだ。
 昨晩、いくつかの分隊には、銃を貸与していた。貸与式なしに。
 その銃は、公務を解いて解散する前に、回収していた。
 よって本日が、正式な銃の貸与式だ。
 ルビー・クールが、重々しい口調で言った。
 「分隊長、前に」
 第一分隊長から第九分隊長まで、一歩前に出た。
 サファイア・レインから渡されたライフル銃を、分隊長に、次々に渡した。
 両手で、ライフル銃を高く掲げて、「銃!」と叫んで。
 分隊長も、叫んだ。「銃!」と。受け取るときに。
 帝国陸軍で、毎年行われる歩兵銃貸与式と同じだ。
 ルビー・クールたちは、知っていた。
 兵士たちにとって、歩兵銃貸与式が、いかに重要で名誉な儀式かを。
 父か、兄か、あるいは、小学校の同級生の父や兄に、聞かされたからだ。
 ライフル銃は、一個分隊あたり二ちょう、貸与した。九個分隊で、合計十八挺だ。
 市警が保有するライフル銃は、十五挺しかない。死んだ署長の私物のライフル銃と、市長の手下が所有していた銃二挺も加えた。
 さらに、一個分隊あたり拳銃三挺を貸与した。合計二十七挺だ。市警保有の拳銃は三十挺なので、市警の拳銃だけで間に合った。
 これで、一個分隊あたり十名強の警官に、銃を五挺ずつ配備できた。
 死神団の残存ギャング数は、最大で百名ほど。彼らの銃保有数は、もうそれほど残っていないはずだ。
 充分に、勝てる。
 ルビー・クールが、口を開いた。大きな声で、かつ、堂々とした態度で。
 「本日の作戦を、伝える! 第一分隊から第七分隊は、ギャング組織死神団の残敵掃討作戦を行う!」
 新任警官たちが、大声で答えた。脊髄せきずい反射的に。かつての軍隊時代を思い出して。
 「はい、小隊長殿!」
 実際には、ルビー・クールは、小隊長でも何でもない。だが、元兵士たちには、そう見えた。
 なぜなら、ルビー・クールたち三名の少女の言動は、帝国陸軍下級将校の小隊長と、まったく同じだったからだ。
 あたりまえだ。彼女たち三名の父は、三名とも、帝国陸軍下級将校だからだ。
 父だけではない。祖父も、そうだった。
 小学校の同級生たちも、大部分は、父親が帝国陸軍下級将校だ。
 そのため彼女たちが、将校のように振る舞うのは、簡単なことだ。
 ルビー・クールが、言葉を続けた。
 「第八分隊は警察署を防衛! 第九分隊は市長公邸を防衛!」
 第八分隊長と第九分隊長が、叫んだ。
 「はい、小隊長殿!」
 第八分隊長と第九分隊長には、具体的な指示を出した。
 警察署では、留置場の拘束者たちに、パンと水を与えること、署内でわからないことがあれば、事務部長を呼び出して、彼に尋ねること、などだ。
 市長公邸では、掘り出した被害者少女たちの遺体が、野良犬などに喰われないように注意すること、遺体は、月曜日に検視をすること、などだ。
 続いて、死神団の残敵掃討作戦についての説明を、おこなった。
 ルビー・クールが、尋ねた。重々しい口調で。
 「質問は?」
 誰も、質問をしなかった。
 元兵士の新任警官たちは、皆、表情が引き締まっていた。
 大声で、ルビー・クールが叫んだ。
 「作戦開始!」
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