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<第十二章 第5話>
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<第十二章 第5話>
五月最初の日曜日。午前三時。
ルビー・クールが、パール・スノーの脇腹を小突いた。
「痛えだろ!」
飛び起きた。パール・スノーが。
「なかなか起きないからよ。軽く小突いただけでは」
「なにしやがる!」
「寝る前に言ったでしょ。これから、市長公邸に忍び込むわよ」
パール・スノーも、思い出したようだ。
「早く、支度して」
すぐに、支度をした。もっとも、寝る前に準備をしていたので、すぐに支度できた。
寝たのは午後十一時頃だったため、四時間ほどしか、寝ていない。
空のボストンバッグを背中に背負い、鋼鉄製日傘を手に、ホテルの裏口から静かに出た。
念のため、広場は横切らず、裏通りを通って市長公邸に向かった。
市長公邸は、正門が開いていた。
おそらく、死体を掘り出した新任警官たちが、正門の戸締まりを、しなかったのだろう。
市長公邸の玄関は、施錠されていた。
だが、ルビー・クールが、ヘアピンを使って数十秒で解錠した。
市長公邸には、男性使用人は、もはや一人もいないはずだ。いるのは、ベテランのメイドたちだけだ。彼女たちは、十年以上前から雇用されている正規の使用人たちだ。
市長夫人は、三年ほど前、病死している。
ニコラウスが少女を拉致し、殺人を犯し始めたのは、それから一年ほど経ってからだ。
市長公邸の間取りは、事前に把握していた。ニコラウスに拉致されたあと、無給でメイドを強要されていた女性たちに、聞いたからだ。
市長の寝室に、金庫があった。鍵が二つ必要だが、入手した鍵は一つしかない。
だが、鍵穴にヘアピンを二本差し込み、もう一つの鍵も解錠した。
かかった時間は、わずか数十秒だ。旧式の金庫だったため、難しくなかった。
市長が、言ったとおりだった。金貨がぎっしり詰まった鉄格子箱が、三つあった。三百万キャピタ(著者注:日本円で約三億円)だ。
銀貨がぎっしり詰まった鉄格子箱も、一つあった。十万キャピタ(著者注:日本円で約一千万円)だ。
その四つの鉄格子箱は、いただくことにした。被害者女性への慰謝料と、手数料として。
背中に背負ったボストンバッグに入れた。ルビー・クールは金貨と銀貨の鉄格子箱を、他の二人は、金貨の鉄格子箱を一つずつだ。
他に、金貨が半分ほど詰まった鉄格子箱と、銀貨が三分の一ほど入った鉄格子箱が、一つずつあった。
銀貨が三分の一ほど入った鉄格子箱も、金庫の外に出した。金額は、銀貨三百枚ほどなので、三万キャピタほどだ。
金貨が半分ほど詰まった鉄格子箱は、そのまま金庫の中に入れ、金庫を施錠した。金庫の中が空っぽだと、新市長が開けたときに、不審に思われるからだ。
銀貨が三分の一ほど入った鉄格子箱を、居間のローテーブルに置いた。
サファイア・レインとパール・スノーが、ベテランのメイドたちを静かに起こし、居間に連れてきた。人数は、五名だ。
ベテランのメイドたちは、市長が死刑になったことを、知らなかった。
新任警官たちが裏庭で、被害者少女たちの死体を掘り起こしたのは、窓から見て、知っていた。
そのため、これからなにが起きるのか、戦々恐々としていたようだ。
ベテランのメイドたちは、ニコラウスが少女たちを殺すのを、見て見ぬふりをしていた。
その一方で、生き残った少女たちで、メイド服を着ていた女性たちの話によると、彼女たちが粗相をしてニコラウスを怒らせたときに、「まだ見習いのメイドですから」などと言って、かばってくれたこともあったそうだ。
そのため、ベテランのメイドたちは、この町から逃がすことにした。
このまま町に留まっていると、市長親子による殺人事件の共犯者として、市民の怒りが、彼女たちに向かう恐れがあるからだ。
その場合、集団リンチで殺される可能性もある。
およそ三百枚の銀貨を、五名のメイドに、等分に分けて渡した。
朝一番の列車は、六時発だ。
もう、二時間半ほどしかない。
すぐに荷物をまとめ、始発列車で、州都に向かうように言った。
州都のような大都市ならば、再出発しやすいからだ。すべての過去を隠して。
彼女たちには、しっかりと、口止めをした。市長親子による大量殺人事件の共犯者と、見なされていることを告げて。
そのあと、ルビー・クールたちは、グランドパレスホテルに戻った。
これで、革命の夜は、終了した。
第十三章「残敵掃討作戦で絶体絶命」に続く
五月最初の日曜日。午前三時。
ルビー・クールが、パール・スノーの脇腹を小突いた。
「痛えだろ!」
飛び起きた。パール・スノーが。
「なかなか起きないからよ。軽く小突いただけでは」
「なにしやがる!」
「寝る前に言ったでしょ。これから、市長公邸に忍び込むわよ」
パール・スノーも、思い出したようだ。
「早く、支度して」
すぐに、支度をした。もっとも、寝る前に準備をしていたので、すぐに支度できた。
寝たのは午後十一時頃だったため、四時間ほどしか、寝ていない。
空のボストンバッグを背中に背負い、鋼鉄製日傘を手に、ホテルの裏口から静かに出た。
念のため、広場は横切らず、裏通りを通って市長公邸に向かった。
市長公邸は、正門が開いていた。
おそらく、死体を掘り出した新任警官たちが、正門の戸締まりを、しなかったのだろう。
市長公邸の玄関は、施錠されていた。
だが、ルビー・クールが、ヘアピンを使って数十秒で解錠した。
市長公邸には、男性使用人は、もはや一人もいないはずだ。いるのは、ベテランのメイドたちだけだ。彼女たちは、十年以上前から雇用されている正規の使用人たちだ。
市長夫人は、三年ほど前、病死している。
ニコラウスが少女を拉致し、殺人を犯し始めたのは、それから一年ほど経ってからだ。
市長公邸の間取りは、事前に把握していた。ニコラウスに拉致されたあと、無給でメイドを強要されていた女性たちに、聞いたからだ。
市長の寝室に、金庫があった。鍵が二つ必要だが、入手した鍵は一つしかない。
だが、鍵穴にヘアピンを二本差し込み、もう一つの鍵も解錠した。
かかった時間は、わずか数十秒だ。旧式の金庫だったため、難しくなかった。
市長が、言ったとおりだった。金貨がぎっしり詰まった鉄格子箱が、三つあった。三百万キャピタ(著者注:日本円で約三億円)だ。
銀貨がぎっしり詰まった鉄格子箱も、一つあった。十万キャピタ(著者注:日本円で約一千万円)だ。
その四つの鉄格子箱は、いただくことにした。被害者女性への慰謝料と、手数料として。
背中に背負ったボストンバッグに入れた。ルビー・クールは金貨と銀貨の鉄格子箱を、他の二人は、金貨の鉄格子箱を一つずつだ。
他に、金貨が半分ほど詰まった鉄格子箱と、銀貨が三分の一ほど入った鉄格子箱が、一つずつあった。
銀貨が三分の一ほど入った鉄格子箱も、金庫の外に出した。金額は、銀貨三百枚ほどなので、三万キャピタほどだ。
金貨が半分ほど詰まった鉄格子箱は、そのまま金庫の中に入れ、金庫を施錠した。金庫の中が空っぽだと、新市長が開けたときに、不審に思われるからだ。
銀貨が三分の一ほど入った鉄格子箱を、居間のローテーブルに置いた。
サファイア・レインとパール・スノーが、ベテランのメイドたちを静かに起こし、居間に連れてきた。人数は、五名だ。
ベテランのメイドたちは、市長が死刑になったことを、知らなかった。
新任警官たちが裏庭で、被害者少女たちの死体を掘り起こしたのは、窓から見て、知っていた。
そのため、これからなにが起きるのか、戦々恐々としていたようだ。
ベテランのメイドたちは、ニコラウスが少女たちを殺すのを、見て見ぬふりをしていた。
その一方で、生き残った少女たちで、メイド服を着ていた女性たちの話によると、彼女たちが粗相をしてニコラウスを怒らせたときに、「まだ見習いのメイドですから」などと言って、かばってくれたこともあったそうだ。
そのため、ベテランのメイドたちは、この町から逃がすことにした。
このまま町に留まっていると、市長親子による殺人事件の共犯者として、市民の怒りが、彼女たちに向かう恐れがあるからだ。
その場合、集団リンチで殺される可能性もある。
およそ三百枚の銀貨を、五名のメイドに、等分に分けて渡した。
朝一番の列車は、六時発だ。
もう、二時間半ほどしかない。
すぐに荷物をまとめ、始発列車で、州都に向かうように言った。
州都のような大都市ならば、再出発しやすいからだ。すべての過去を隠して。
彼女たちには、しっかりと、口止めをした。市長親子による大量殺人事件の共犯者と、見なされていることを告げて。
そのあと、ルビー・クールたちは、グランドパレスホテルに戻った。
これで、革命の夜は、終了した。
第十三章「残敵掃討作戦で絶体絶命」に続く
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