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<第十二章 第2話>

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   <第十二章 第2話>
 歓声を、あげた。広場に集まった数千名の市民が。
 ルビー・クールが、大声で尋ねた。
 「異議のある者は、申し出よ!」
 「異議なし!」
 いっせいに、そう答えた。数千名の市民が。口々に。
 怒鳴りまくった。市長が。
 「異議あり! 異議あり! 異議あり! ワシは市長だぞ! こんなことして、ただですむと思うなよ!」
 冷ややかに、言い放った。ルビー・クールが。
 「あなたはもう、市長じゃないわ。ただの悪党よ。極悪非道の」
 パール・スノーと新任警官たちに、指示を出した。
 新任警官たちが、大型木箱を運んできた。死刑台にするためだ。死刑台の木箱は、街灯の下に設置した。
 市長は、大型木箱の上に立たされた。両腕を、両脇の新任警官二名に、つかまれて。背中を、ホテルの壁に向けた。そのため顔は、広場の側を向いている。
 木箱に立った市長は背が高いこともあり、広場の数千名の市民は、彼の顔を見ることができる。
 ワイシャツの胸元のボタンを、はずした。心臓のある左胸を、露出させるためだ。
 首から、鍵をぶら下げていた。黄金のチェーンで。その鍵が、金庫の鍵の一つだろう。
 パール・スノーが、その鍵を彼の首から取り外し、自分のポケットに入れた。
 市長の前に、立った。パール・スノーが。三十二口径のリボルバーを手に。
 市長は、憔悴しょうすいしきっていた。
 だが、最後の力を振り絞り、叫んだ。
 「ワシは、この町の市長だ! 市民に命じる! あの赤毛女と、その仲間たちを、殺せ!」
 したがう者は、誰も、いなかった。
 市長が、叫び続けた。
 「カネなら払う! 百万キャピタだ! あの赤毛女を殺したら、百万キャピタやる!」
 だが、誰も動かなかった。反応しなかった。彼の言葉に。
 ルビー・クールが、大声で指示した。
 「死刑執行の用意!」
 パール・スノーが、銃口を突きつけた。市長の左胸に。
 市長が叫んだ。
 「二百万キャピタだ! いや、三百万キャピタやる! 誰か、赤毛女とその仲間たちを、皆殺しにしろ!」
 誰一人、したがうそぶりを、見せなかった。
 誰もが、待っていた。極悪市長の死刑執行を。
 市長が、叫んだ。
 「こんなのは、間違ってる! ワシは州知事に承認された市長だ。ワシを殺したら、国家反逆行為だ! つまり、革命だ! おまえら市民も、革命の共犯だ! 革命はテロ行為だ! 革命家は、テロリストだ! おまえら、テロリストになりたくなければ、ワシを救え!」
 群衆の誰かが、叫んだ。
 「市民革命だ!」
 死刑台のすぐ近くにいた新聞記者が、興奮した面持おももちで叫んだ。
 「これが、市民革命か! 外国史の教科書に載っている市民革命を、我が国で、現場で取材できるなんて! なんという記者冥利みょうりか!」
 市民たちが、いっせいに叫び始めた。「市民革命!」と。
 数分間、待った。市民の興奮が、静まるのを。
 静寂が、訪れた。
 その機を逃さず、ルビー・クールが命じた。氷のように冷たい声で。
 「死刑、執行!」
 とどろいた。銃声が。
 絶命した。極悪市長が。
 歓声が、あがった。
 数千名の市民が、歓喜にいた。
 数分間、待った。市民の興奮が収まるのを。
 十数分後、ようやく、市民が静かになった。
 「親愛なる市民の皆さん!」
 大声を張りあげた。ルビー・クールが。
 そのとき、リリアが、拡声器を渡してくれた。
 警部が持っていた拡声器だ。
 頼んだわけではなかったが、気が利く少女だ。
 拡声器を使って、大声で話した。
 「市民のみなさん! 来週、市長選挙を実施します! 無制限選挙です! 収めた所得税の多寡たかにかかわらず、誰もが選挙権と被選挙権を持つ無制限選挙です!」
 歓声を、あげた。数千名の市民が。
 「無制限選挙!」「無制限選挙!」と連呼した。数千名の市民が。
 静まるのを、待った。興奮した市民たちが。
 静かになってから、言葉を続けた。拡声器を使って。
 「選挙権と被選挙権を持つのは、このフロスハーフェン市に住民登録をし、住民税を払っている全ての市民です! 老若男女に関係なく、この市に住民税を払っている全ての市民です! 我こそは、と思う人は、是非、市長に立候補してください!」
 数千名の市民が、歓声をあげた。「無制限選挙!」「無制限選挙!」と連呼しながら。
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