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<第十一章 第5話>
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<第十一章 第5話>
絶命した。ヴィクトールが。頭部を、後ろから撃ち抜かれて。
悲鳴をあげた。隣の席のニコラウスが。
大声で叫んだ。ルビー・クールが。
「続いて、ニコラウスに、判決を下します。彼は、三十名以上の無辜の少女を殺しました。自らの歪んだ性欲のために」
そこで、いったん、言葉を句切った。
市長が叫んだ。大声で。
「待て! カネを払う! 三百万キャピタだ!」
(著者注:三百万キャピタは日本円で三億円相当)
冷ややかに尋ねた。ルビー・クールが。
「どうせまた、贋金でしょ?」
「違う! 本物だ!」
「嘘ね」
「本当だ。自宅の金庫にある」
「絶対、嘘ね。なぜなら最近のあなたは、金欠に陥っている。だから、五百万キャピタの贋金を作った。金欠に陥った理由は、簡単よ。多くの用心棒を雇い、そのうえ、特殊部隊の元隊員や殺し屋魔女を、高給で雇っているからよ」
「本当だ。自宅の金庫には、金貨で三百万キャピタ以上ある」
「もし本当に、それだけの金額があるのなら、その資金は没収して、新市警の予算に組み込みます」
「鍵がなければ、開けられないぞ」
「その鍵は、あなたが身につけてるんでしょ」
「一つだけだ。金庫を開けるには、二つの鍵が必要だ。もう一つは、ある場所に隠してある。他人には、絶対に見つからない」
「その金庫は、市長公邸のどの部屋に、あるのかしら?」
「寝室だ」
それだけ聞けば、充分だ。
広場に集まった市民全員に聞こえるように、大声を張りあげた。
「鍵がなくても、金庫を開ける方法は、あるわ。金庫の製造メーカーに頼めば、開けてくれるわ。選挙で選ばれた新市長が、公式に頼めば。市長公邸に設置した金庫ならば、ね」
思わず、押し黙った。市長が。
大声で、続けた。ルビー・クールが。
「それでは、ニコラウス・ミュラーに、判決を下します」
市長が怒鳴った。悪徳弁護士に向かって。
「なんとかしろ!」
ルビー・クールが、宣言した。大声で。
「判決は、死刑! 判決に異議のある者は、申し出よ!」
悪徳弁護士が、叫んだ。
「異議あり!」
ほぼ同時に、パール・スノーも叫んだ。
「異議なし!」
群衆が、口々に叫んだ。「異議なし!」と。
悪徳弁護士と市長が「異議あり!」と叫び続けた。
群衆が静かになるのを、待った。
静かになってから、ルビー・クールが口を開いた。
「それでは、異議を述べなさい。まずは、悪徳弁護士から」
悪徳弁護士は、冷や汗を流し始めた。
思いつかないのだ。死刑を回避する方法を。
ルビー・クールが、催促した。
「早く、異議を述べなさい。述べなければ、異議なしと判断します」
「異議は……」
「早く、述べなさい」
「被告人ニコラウスは、精神疾患の可能性がある。精神鑑定を要求する!」
市長も同調した。
「そうだ! 精神科医が精神鑑定を出すまでは、判決を出すべきじゃない!」
冷ややかに、答えた。ルビー・クールが。
「異議を却下します。なぜなら、精神鑑定は必要ありません。この裁判は、非常時の市民裁判です。精神疾患の有る無しにかかわらず、殺人犯は死刑です」
市長が、怒鳴りまくった。
「てめえ! ワシの息子を殺したら、どうなるか、わかってるのか! おまえも、おまえの家族も、皆殺しにしてやる!」
ルビー・クールが、冷静な口調で命じた。
「パール執行官、死刑の準備を」
パール・スノーが、ニコラウスの背後に立った。三十二口径のリボルバーを、突きつけた。彼の後頭部に。
ニコラウスが、叫んだ。
「こんなの、間違ってる! 俺が何をしたって言うんだ! メスブタを殺しただけだろ!」
ルビー・クールが、答えた。静かな口調で。
「あなたが殺したのは、ブタではなく、人間よ。たくさんの無辜の民を殺したのだから、死刑は当然よ」
叫んだ。ニコラウスが、大声で。凄まじい形相で。
「オレ様は、市長の一人息子だぞ! 次期市長だぞ! こんなことして、ただですむと思うなよ!」
冷ややかに命じた。ルビー・クールが。パール・スノーに。
「死刑、執行!」
轟いた。銃声が。
第十二章「革命の夜」に続く
絶命した。ヴィクトールが。頭部を、後ろから撃ち抜かれて。
悲鳴をあげた。隣の席のニコラウスが。
大声で叫んだ。ルビー・クールが。
「続いて、ニコラウスに、判決を下します。彼は、三十名以上の無辜の少女を殺しました。自らの歪んだ性欲のために」
そこで、いったん、言葉を句切った。
市長が叫んだ。大声で。
「待て! カネを払う! 三百万キャピタだ!」
(著者注:三百万キャピタは日本円で三億円相当)
冷ややかに尋ねた。ルビー・クールが。
「どうせまた、贋金でしょ?」
「違う! 本物だ!」
「嘘ね」
「本当だ。自宅の金庫にある」
「絶対、嘘ね。なぜなら最近のあなたは、金欠に陥っている。だから、五百万キャピタの贋金を作った。金欠に陥った理由は、簡単よ。多くの用心棒を雇い、そのうえ、特殊部隊の元隊員や殺し屋魔女を、高給で雇っているからよ」
「本当だ。自宅の金庫には、金貨で三百万キャピタ以上ある」
「もし本当に、それだけの金額があるのなら、その資金は没収して、新市警の予算に組み込みます」
「鍵がなければ、開けられないぞ」
「その鍵は、あなたが身につけてるんでしょ」
「一つだけだ。金庫を開けるには、二つの鍵が必要だ。もう一つは、ある場所に隠してある。他人には、絶対に見つからない」
「その金庫は、市長公邸のどの部屋に、あるのかしら?」
「寝室だ」
それだけ聞けば、充分だ。
広場に集まった市民全員に聞こえるように、大声を張りあげた。
「鍵がなくても、金庫を開ける方法は、あるわ。金庫の製造メーカーに頼めば、開けてくれるわ。選挙で選ばれた新市長が、公式に頼めば。市長公邸に設置した金庫ならば、ね」
思わず、押し黙った。市長が。
大声で、続けた。ルビー・クールが。
「それでは、ニコラウス・ミュラーに、判決を下します」
市長が怒鳴った。悪徳弁護士に向かって。
「なんとかしろ!」
ルビー・クールが、宣言した。大声で。
「判決は、死刑! 判決に異議のある者は、申し出よ!」
悪徳弁護士が、叫んだ。
「異議あり!」
ほぼ同時に、パール・スノーも叫んだ。
「異議なし!」
群衆が、口々に叫んだ。「異議なし!」と。
悪徳弁護士と市長が「異議あり!」と叫び続けた。
群衆が静かになるのを、待った。
静かになってから、ルビー・クールが口を開いた。
「それでは、異議を述べなさい。まずは、悪徳弁護士から」
悪徳弁護士は、冷や汗を流し始めた。
思いつかないのだ。死刑を回避する方法を。
ルビー・クールが、催促した。
「早く、異議を述べなさい。述べなければ、異議なしと判断します」
「異議は……」
「早く、述べなさい」
「被告人ニコラウスは、精神疾患の可能性がある。精神鑑定を要求する!」
市長も同調した。
「そうだ! 精神科医が精神鑑定を出すまでは、判決を出すべきじゃない!」
冷ややかに、答えた。ルビー・クールが。
「異議を却下します。なぜなら、精神鑑定は必要ありません。この裁判は、非常時の市民裁判です。精神疾患の有る無しにかかわらず、殺人犯は死刑です」
市長が、怒鳴りまくった。
「てめえ! ワシの息子を殺したら、どうなるか、わかってるのか! おまえも、おまえの家族も、皆殺しにしてやる!」
ルビー・クールが、冷静な口調で命じた。
「パール執行官、死刑の準備を」
パール・スノーが、ニコラウスの背後に立った。三十二口径のリボルバーを、突きつけた。彼の後頭部に。
ニコラウスが、叫んだ。
「こんなの、間違ってる! 俺が何をしたって言うんだ! メスブタを殺しただけだろ!」
ルビー・クールが、答えた。静かな口調で。
「あなたが殺したのは、ブタではなく、人間よ。たくさんの無辜の民を殺したのだから、死刑は当然よ」
叫んだ。ニコラウスが、大声で。凄まじい形相で。
「オレ様は、市長の一人息子だぞ! 次期市長だぞ! こんなことして、ただですむと思うなよ!」
冷ややかに命じた。ルビー・クールが。パール・スノーに。
「死刑、執行!」
轟いた。銃声が。
第十二章「革命の夜」に続く
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