絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十一章 第4話>

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   <第十一章 第4話>
 「あら、なぜ国家反逆罪になるのかしら?」
 冷ややかに、尋ねた。ルビー・クールが。
 「ワシは州知事から、市長として承認されている。州知事は、帝国政府が派遣した上級貴族だ。したがって、ワシへの攻撃は州知事への反逆であり、帝国政府への反逆なのだ!」
 「それは違うわ!」
 そう言い放った。ルビー・クールが。
 「なぜなら、帝国政府は保守的だから、大きな問題が起きないかぎり、前例を踏襲とうしゅうする。この町には、選挙がない。市長も市議も、選挙で選ばれず、世襲制。あなたが、ミュラー家の新当主となり、市長に就任したのは、約二十年前。その時点では、大きな問題は、発生していなかった。もしくは、問題があっても、州知事の耳には入らなかった。だからあなたは、市長として承認された」
 そこで、声を張りあげた。
 「しかし、今は違う! 市長親子が、何十名もの無辜むこたみを殺していた! 市長公邸の裏庭から、殺された少女の死体が三十体も発見された! しかも、この事実は、新聞で報道される! 州知事も、その事実を知ることになる!」
 さらに、言葉を続けた。ルビー・クールが。
 「ゆえに、市民が市長を罷免ひめんし、選挙で新市長を選んだら、州知事は承認するわ。その新市長を」
 群衆の誰かが、叫んだ。
 「そうだ! 選挙だ!」
 別の誰かが、叫んだ。
 「選挙だ! 選挙をやるべきだ!」
 「ほかの町では、選挙で市長を決めているぞ」
 すかさず、ルビー・クールが叫んだ。
 「無制限選挙よ! 富裕層だけの制限選挙なんて、時代遅れよ! 成人全員が、お金のあるなしにかかわらず、この町に住民登録している市民全員が、有権者になるべきよ!」
 そのとたん、群衆が、どよめいた。
 そのどよめきは、すぐに歓声に変わった。
 数十秒間、いや、数分間、群衆は、歓喜の声をあげていた。
 「選挙」や「無制限選挙」を連呼して。
 街灯が、ともり始めた。
 日が、没し始めたためだ。
 環状馬車道の両側には、街灯が設置されている。しかも、結構せまい間隔だ。
 街灯は、ガス灯だ。
 街灯の管理業者が、しばらく前から点灯作業を始めていたのだが、グランドパレスホテルの周囲は、遠慮したのか、後回しにしていた。
 だが、日が没し始めたため、新任警察の分隊長が、点灯を命じたようだ。
 明るくなった。被告席が。
 馬車道の真ん中に、被告席を設置してあるためだ。
 被告席は、ホテル側を向いている。
 憔悴しょうすいしきった顔を、していた。市長も、ニコラウスも、ヴィクトールも。
 叫んでいた群衆が、静まってきた。
 ルビー・クールが、大声で叫んだ。
 「静粛に! 静粛に!」
 数十秒かかったが、群衆が、静かになった。
 群衆は、待っている。ルビー・クールの次の言葉を。
 「それでは、判決を下します」
 また、群衆が歓声をあげた。
 数十秒、待った。静かになるまで。
 「凶悪ギャング組織、死神団の幹部ヴィクトールに、判決を下します」
 そこで、いったん、言葉を切った。
 静まりかえった。群衆が。ルビー・クールの次の言葉を聞くために。
 大声で、叫んだ。ルビー・クールが。
 「判決は、死刑!」
 歓声が、あがった。数千名の群衆から。
 静かになるのを、待った。
 「判決に異議のある者は、申し出よ!」
 次の瞬間、パール・スノーが叫んだ。大声で。「異議なし!」と。打ち合わせ通りに。
 その直後、群衆が叫んだ。口々に、「異議なし!」と。
 ヴィクトールが叫んだ。
 「待て! カネを払う!」
 冷ややかに命じた。ルビー・クールが。
 「パール執行官、死刑の準備を」
 「了解」
 パール・スノーが、ヴィクトールの背後に立った。三十二口径のリボルバーを右手に持って。
 叫んだ。ヴィクトールが。椅子に座ったまま、必死の形相ぎょうそうで。三階の窓のルビー・クールを見上げて。
 「百万キャピタ払う!」
 パール・スノーが、押し当てた。銃口を。ヴィクトールの後頭部に。
 ヴィクトールが、叫んだ。
 「わかった! 一千万キャピタだ。一千万キャピタ払う! だから……」
 ルビー・クールが、命じた。氷のように冷たい声で。
 「死刑、執行!」
 とどろいた。銃声が。
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