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<第十章 第3話>

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   <第十章 第3話>
 小型双眼鏡で、確認した。
 馬車は、二頭立ての普通馬車だ。それが、二台。
 ゆっくりと進んできた。環状馬車道を。時計回りに。二台の二頭立て普通馬車が。
 パール・スノーが、尋ねた。
 「ルビー、撃つ?」
 「ダメよ。市長の出方を見ましょう」
 舌打ちした。パール・スノーが。
 だが彼女は、なにも言わなかった。狙撃銃を構えたまま。
 ルビー・クールも、狙撃銃を構えたまま、馬車が来るのを待った。
 ゆっくりと進んだ二台の普通馬車は、グランドパレスホテルの前まで来て、止まった。
 ホテルから見て、二車線の馬車道の奥側の車線だ。
 二台の馬車から、男たちが降りてきた。
 市長の手下だろう。
 一台目の馬車からは、四名の男が降りた。
 二台目の馬車からは、六名の男だ。
 続いて、一台目の馬車から、金髪の大男が降りた。彼は身長が高く、中年太りだ。
 彼が、ニコラウスの父、この町の市長だろう。
 二台目の馬車から、大型の木箱が降ろされた。
 市長らしき男が、怒鳴った。三階の窓のルビー・クールを見上げて。
 「私が、この町、フロスハーフェン市の市長だ! カネは、持ってきた。今から、見せる」
 そう言って、自分の手下たちに指示した。
 二名の手下が木箱を持ち上げ、歩道まで運んだ。
 木箱のふたを開けた。
 直方体の鉄格子箱が、五つ入っていた。
 その鉄格子箱は、金貨が詰まっていた。
 見た瞬間に、わかった。一箱、金貨千枚入りで、百万キャピタだ。
 (著者注:百万キャピタは日本円で一億円相当)
 市長が、怒鳴った。
 「ここに五百万キャピタある。このカネをやるから、息子を解放しろ」
 帝国金貨は一枚十グラムなので、金貨千枚、百万キャピタは、十キログラムだ。
 金貨で五百万キャピタなら五十キログラムで、それに加えて、鉄格子箱五つに、木箱の重量もある。
 あやしい。
 そうげた。ルビー・クールの直感が。
 冷静に、考えてみた。
 五十数キログラムの箱を、二名で運べるだろうか。顔色一つ変えずに。
 もちろん、重労働になれている男たちなら、二名で運べるだろう。
 だが、今回運んだ二名の男は、体格も普通レベルで、筋肉量も多くない。
 にもかかわらず、軽々と木箱を運んだ。重そうなそぶりが、なかった。
 やはり、怪しい。
 市長が、手下に指示した。
 手下の一人が、鉄格子箱を、一つ取り上げた。両手でつかみ、自分の顔の前に、鉄格子箱を掲げた。
 鉄格子箱の裏まで、見せてくれた。
 鉄格子箱の底まで、金貨が詰まっていることを、示すために。
 怪しい。あらためて、そう思った。
 十キログラム以上ある重量物を、自分の顔の前に掲げ、鉄格子箱の裏まで見せることが、できるだろうか。力自慢の男ではなく、普通の男が。
 本物の金貨よりも、軽そうだ。
 贋金にせがねの可能性が、高い。
 ルビー・クールが、尋ねた。
 「その金貨は全部、本物かしら?」
 激昂げきこうした。市長が。
 「疑うのか? ワシは市長だぞ!」
 平然と、話し始めた。ルビー・クールが。
 「詐欺師さぎしが取り込み詐欺のときに、見せ金として、よく使うのよね。ニッケル硬貨に金メッキをした贋金にせがねを」
 市長が、叫んだ。動揺のそぶりを、見せながら。
 「証拠があるのか! 証拠もなしにワシを詐欺師扱いするのは、ワシに対する名誉毀損めいよきそんだ!」
 「証拠なんて、簡単に提示できるわよ。上から九番目の金貨を一枚取り出し、この窓まで放ってちょうだい。金メッキかどうか、あたしが確かめるわ」
 「ダメだ!」
 即答した。市長が。
 「息子と引き換えでなければ」
 「贋金なのね」
 「違う!」
 ルビー・クールが、淡々と説明を始めた。新聞記者たちにも、聞こえるように。
 「贋金造りは、重罪よ。簡単に作れるけれど、詐欺や窃盗よりも罪が重い。なぜなら、贋金造りは、国家通貨体制への攻撃を意味するからよ」
 そこで、声を張りあげた。
 「つまり贋金造りは、国家への反逆行為よ! 市長! 贋金造りで州警察に逮捕されたら、あなたの年齢なら、生きて州刑務所から出ることは、できないわよ!」
 市長が怒鳴り散らした。
 「誹謗中傷ひぼうちゅうしょうするな! 名誉毀損だ! どこに証拠がある!」
 「だったら、本物の金貨だと証明しなさい! 自分自身で! ナイフを使って金貨に傷をつけて。一番上の金貨は本物でしょうから、上から九番目よ」
 その直後だった。
 市長が怒鳴った。自分の手下たちに。
 「あばずれどもを、はちにしろ!」
 とどろいた。多数の銃声が。
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