絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第十章 第2話>

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   <第十章 第2話>
 狙撃した。ルビー・クールが。
 撃ち抜いた。馬車の馬を。前列右側の馬だ。十メートルほど手前で。馬の首を。
 崩れるように、しゃがんだ。前列右側の馬が。即死したため、両足の力が一気に抜けたのだ。
 後列右側の馬が、つまずいた。前列の馬に。
 馬車の車体が、跳ね上がった。空中に。
 半回転した。空中で。馬車の車体が。
 叩きつけられた。屋根から。馬車の車体が。馬車道の石畳に。
 するどい声で、命じた。ルビー・クールが。
 「射撃開始!」
 二名の少女が、発砲した。
 サファイア・レインは、投げ出された馭者ぎょしゃに。
 パール・スノーは、馬車の車体に。
 ルビー・クールも、次弾を装填そうてんするやいなや、銃撃した。ひっくり返っている馬車の車体を。
 馬車のドアが、開いた。向こう側のドアだ。
 飛び出した。一人の男が。二挺拳銃を手に。
 乱射した。その男が。
 悲鳴をあげた。サファイア・レインが。それにパール・スノーも。
 二人ともあわてて、窓脇の壁に、身を隠した。
 その男が、特殊部隊の元隊員だろう。
 彼が叫んだ。
 「ニコラウス! 走れ!」
 「足を撃たれていて……」
 「いいから走れ!」
 その瞬間だった。
 発砲した。ルビー・クールが。右手の三十二口径リボルバーで。
 撃ち抜いた。頭部を。特殊部隊の元隊員を。
 絶叫した。ニコラウスとヴィクトールが。
 「ギルベルトーーー!」
 彼の名前だろう。市長の用心棒の。彼が、特殊部隊元隊員だろう。
 絶望的な表情を、浮かべた。ニコラウスとヴィクトールが。
 最後の切り札が、撃ち殺されて。
 銃撃した。パール・スノーが。馬車の車体を。
 「まだ何名か生きてる!」
 その直後、サファイア・レインも銃撃した。馬車の車体を。
 さらに、もう一発、撃ち込んだ。パール・スノーが。馬車の車体に。
 「撃ち方、やめ!」
 鋭い声で、命じた。ルビー・クールが。
 ニコラウスが、絶叫した。石畳を、たたいて。
 「チクショウ! チクショウ! チクショーーー!」
 ルビー・クールは、左手で銃身を持っていた狙撃銃を、窓脇の壁に立て掛けた。
 左右の手に、三十二口径リボルバーを持った。
 「もとの位置に戻りなさい。ニコラウスもヴィクトールも」
 数歩の距離だったが、元の位置に戻らせた。リビングルーム中央の窓の真正面に。
 「全員、一歩も動いちゃダメよ。動いたら、足を撃つからね」
 そう言ってから、ルビー・クールは、サファイア・レインとパール・スノーに、小声で指示を出した。彼らの監視について。
 電話をかけた。ルビー・クールが。
 市庁舎だ。男性事務員が出た。市長室の電話につなぐように要求した。
 グランドパレス三階の赤毛の女、と伝えたら、繋いでくれた。
 すぐに、市長が出た。
 「あたしよ。これであなたは、すべての切り札を、失ったわね」
 数秒間の沈黙のあと、市長が答えた。
 「五百万キャピタ払う。だから、息子を返せ。今から持って行くから、撃つなよ」
 (著者注:五百万キャピタは、日本円で五億円相当)
 「あなたも、ここへ来なさい」
 「ああ、わかった」
 電話が、切れた。
 サファイア・レインとパール・スノーにも、そのことを伝えた。用心するように、と。
 市長は、まだ観念していないはずだ。
 ルビー・クールは、三階の窓から、立ち尽くしている警官たちに、命じた。
 銃の回収と、馬車と馬車馬の移動だ。
 馬車の車体の中から、死体と重傷者を計三名、引っ張り出した。重傷者は虫の息なので、もう、助からないだろう。
 死体と重傷者を、広場の石畳に並べた。
 ひっくり返っている馬車を、もとに戻した。警官たちが押して、ホテルの裏手の駐車場まで移動させた。それに、馬車馬も。
 その際、ホテルの右手側の脇道を通らせた。なぜなら、スイートルームのリビングルームには、右手側にも窓があるからだ。そのため、警官たちが逃げないように、監視することができる。
 警官たちが、ホテルの正面に戻り、再び整列した。
 ちょうどその頃、ようやく、やって来た。新聞記者たちが。カメラマンも、いる。
 呼びかけた。ルビー・クールが、新聞記者たちに。
 新聞記者たちは、助手たちも含めて、計五名だ。
 主任らしき新聞記者が、尋ねた。
 「赤毛のお嬢さん、まずは、あなたのことを、なんて呼べばいいですかね?」
 「ルビーと呼んで」
 「それはもちろん、本名では、ないんですよね」
 「ええ、そうよ」
 「今回の一件、どういう状況なんでしょう?」
 説明を始めた。ニコラウスや市長の犯罪行為を。
 そのときだった。
 パール・スノーが、声をかけた。軍用双眼鏡を、のぞきながら。
 「市庁舎の裏手から、馬車が出てきた」
 市長は、たくらんでいるはずだ。最後の一手を。
 ルビー・クールは、気を引き締めた。表情には、出さなかったが。
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