絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

文字の大きさ
上 下
49 / 138

<第十章 第2話>

しおりを挟む
   <第十章 第2話>
 狙撃した。ルビー・クールが。
 撃ち抜いた。馬車の馬を。前列右側の馬だ。十メートルほど手前で。馬の首を。
 崩れるように、しゃがんだ。前列右側の馬が。即死したため、両足の力が一気に抜けたのだ。
 後列右側の馬が、つまずいた。前列の馬に。
 馬車の車体が、跳ね上がった。空中に。
 半回転した。空中で。馬車の車体が。
 叩きつけられた。屋根から。馬車の車体が。馬車道の石畳に。
 するどい声で、命じた。ルビー・クールが。
 「射撃開始!」
 二名の少女が、発砲した。
 サファイア・レインは、投げ出された馭者ぎょしゃに。
 パール・スノーは、馬車の車体に。
 ルビー・クールも、次弾を装填そうてんするやいなや、銃撃した。ひっくり返っている馬車の車体を。
 馬車のドアが、開いた。向こう側のドアだ。
 飛び出した。一人の男が。二挺拳銃を手に。
 乱射した。その男が。
 悲鳴をあげた。サファイア・レインが。それにパール・スノーも。
 二人ともあわてて、窓脇の壁に、身を隠した。
 その男が、特殊部隊の元隊員だろう。
 彼が叫んだ。
 「ニコラウス! 走れ!」
 「足を撃たれていて……」
 「いいから走れ!」
 その瞬間だった。
 発砲した。ルビー・クールが。右手の三十二口径リボルバーで。
 撃ち抜いた。頭部を。特殊部隊の元隊員を。
 絶叫した。ニコラウスとヴィクトールが。
 「ギルベルトーーー!」
 彼の名前だろう。市長の用心棒の。彼が、特殊部隊元隊員だろう。
 絶望的な表情を、浮かべた。ニコラウスとヴィクトールが。
 最後の切り札が、撃ち殺されて。
 銃撃した。パール・スノーが。馬車の車体を。
 「まだ何名か生きてる!」
 その直後、サファイア・レインも銃撃した。馬車の車体を。
 さらに、もう一発、撃ち込んだ。パール・スノーが。馬車の車体に。
 「撃ち方、やめ!」
 鋭い声で、命じた。ルビー・クールが。
 ニコラウスが、絶叫した。石畳を、たたいて。
 「チクショウ! チクショウ! チクショーーー!」
 ルビー・クールは、左手で銃身を持っていた狙撃銃を、窓脇の壁に立て掛けた。
 左右の手に、三十二口径リボルバーを持った。
 「もとの位置に戻りなさい。ニコラウスもヴィクトールも」
 数歩の距離だったが、元の位置に戻らせた。リビングルーム中央の窓の真正面に。
 「全員、一歩も動いちゃダメよ。動いたら、足を撃つからね」
 そう言ってから、ルビー・クールは、サファイア・レインとパール・スノーに、小声で指示を出した。彼らの監視について。
 電話をかけた。ルビー・クールが。
 市庁舎だ。男性事務員が出た。市長室の電話につなぐように要求した。
 グランドパレス三階の赤毛の女、と伝えたら、繋いでくれた。
 すぐに、市長が出た。
 「あたしよ。これであなたは、すべての切り札を、失ったわね」
 数秒間の沈黙のあと、市長が答えた。
 「五百万キャピタ払う。だから、息子を返せ。今から持って行くから、撃つなよ」
 (著者注:五百万キャピタは、日本円で五億円相当)
 「あなたも、ここへ来なさい」
 「ああ、わかった」
 電話が、切れた。
 サファイア・レインとパール・スノーにも、そのことを伝えた。用心するように、と。
 市長は、まだ観念していないはずだ。
 ルビー・クールは、三階の窓から、立ち尽くしている警官たちに、命じた。
 銃の回収と、馬車と馬車馬の移動だ。
 馬車の車体の中から、死体と重傷者を計三名、引っ張り出した。重傷者は虫の息なので、もう、助からないだろう。
 死体と重傷者を、広場の石畳に並べた。
 ひっくり返っている馬車を、もとに戻した。警官たちが押して、ホテルの裏手の駐車場まで移動させた。それに、馬車馬も。
 その際、ホテルの右手側の脇道を通らせた。なぜなら、スイートルームのリビングルームには、右手側にも窓があるからだ。そのため、警官たちが逃げないように、監視することができる。
 警官たちが、ホテルの正面に戻り、再び整列した。
 ちょうどその頃、ようやく、やって来た。新聞記者たちが。カメラマンも、いる。
 呼びかけた。ルビー・クールが、新聞記者たちに。
 新聞記者たちは、助手たちも含めて、計五名だ。
 主任らしき新聞記者が、尋ねた。
 「赤毛のお嬢さん、まずは、あなたのことを、なんて呼べばいいですかね?」
 「ルビーと呼んで」
 「それはもちろん、本名では、ないんですよね」
 「ええ、そうよ」
 「今回の一件、どういう状況なんでしょう?」
 説明を始めた。ニコラウスや市長の犯罪行為を。
 そのときだった。
 パール・スノーが、声をかけた。軍用双眼鏡を、のぞきながら。
 「市庁舎の裏手から、馬車が出てきた」
 市長は、たくらんでいるはずだ。最後の一手を。
 ルビー・クールは、気を引き締めた。表情には、出さなかったが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さんざめく左手 ― よろず屋・月翔 散冴 ―

流々(るる)
ミステリー
【この男の冷たい左手が胸騒ぎを呼び寄せる。アウトローなヒーロー、登場】 どんな依頼でもお受けします。それがあなたにとっての正義なら 企業が表向きには処理できない事案を引き受けるという「よろず屋」月翔 散冴(つきかけ さんざ)。ある依頼をきっかけに大きな渦へと巻き込まれていく。彼にとっての正義とは。 サスペンスあり、ハードボイルドあり、ミステリーありの痛快エンターテイメント! ※さんざめく:さざめく=胸騒ぎがする(精選版 日本国語大辞典より)、の音変化。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...