上 下
43 / 138

<第八章 第2話>

しおりを挟む
   <第八章 第2話>
 発砲した。
 ルビー・クール、サファイア・レイン、パール・スノーの三名の少女たちが。
 次々に、五月雨式さみだれしきに。
 最初の発砲から十五秒ほどで、三名の少女たちは、合計十発、発砲した。ルビー・クールは四発、サファイア・レインとパール・スノーは三発ずつだ。
 その十発の徹甲弾てっこうだんで、三十名ほどのギャングが、死傷した。
 逃げ始めた。三分の一のギャングたちが。
 彼らは、前回も逃げた者たちだ。ヴォルフガングが死んだときに。
 発砲を続けた。三名の少女たちが。
 ギャングたちも、数名が発砲した。拳銃で。
 だが、拳銃の有効射程距離を、大幅に超えていた。
 そのため、ホテルの窓に飛び込んだ銃弾は、一発もなかった。
 最初の発砲から三十秒ほど経った。
 ルビー・クールが命じた。
 「撃ち方、やめ」
 ギャングの死傷者は、五十名を超えていた。残り五十名弱は、すでに逃走していた。その多くは、西側街道口から、消えていた。
 多くの娼婦は、最初の銃撃で、恐怖により腰が抜けて、へたり込んでいた。
 ルビー・クールが、口を開いた。
 「パール、またお願い」
 「なんで、あたしばっかりなんだよ。サファイアにも、たまには頼めよ」
 「あなたのほうが、接近戦は強いでしょ」
 そう言うと、渋い顔だったパール・スノーは、満更まんざらでもない表情を浮かべた。
 「しかたねえな。キチンと狙撃で援護しろよ」
 「ええ。もちろんよ。サファイアと二名体制で援護するわ」
 パール・スノーが、スイートルームを出て行った。
 二分か三分後、彼女が、ホテルの玄関から出てきた。ホテルの男性従業員二名を、引き連れて。
 数分後、ホテルに戻ってきた。数挺の拳銃を、男性従業員が持つ毛布の上に乗せて。それに、三十名ほどの娼婦を引き連れて。
 パール・スノーが、スイートルームに戻って来た。
 ルビー・クールが、呼びかけた。
 「サファイア、ここの指揮権、一時的に預けるわ」
 「ちょっと、突然、そんなこと言われても……」
 「すぐ、戻ってくるわ。五分か、六分間程度よ」
 ルビー・クールは、一階に降りた。
 一階のロビーは、女たちで満杯だった。解放した女たちは、約五十名だ。
 呼びかけた。ルビー・クールが。彼女たちに。
 「みなさん!」
 女たちの視線が、集中した。
 「みなさんは、もう、自由です。家族のもとに、帰れます」
 数名の女たちが、号泣し始めた。
 その号泣は、あっという間に伝染し、女たちの半分が、号泣し始めた。残りの半分も、涙を流している。
 ルビー・クールが、声を張りあげた。
 「極悪市長との戦いは、まだ、終わっていません。そのため、もうしばらく、辛抱してください。銃声が聞こえたら、床にせてください。流れ弾に、あたらないように」
 言葉を、続けた。
 「スープとパンを用意します。順番に、一階レストランで、食事を取ってください。薄着で寒い人には、毛布もあります」
 リリアが、立ち上がった。彼女は姉と、きつく抱きしめ合っていた。ロビーのソファーに座って。
 「ルビー様! 姉を救出していただき、誠にありがとうございます。このご恩は、一生忘れません。あたしにできることがあれば、なんでも、お申し付けください」
 「よかったわね、次姉が無事で」
 そのあと、二秒か三秒の間のあと、ルビー・クールが言葉を続けた。
 「あなたたち姉妹には、あとで話すことがあるわ。この一件が終わるまで、もうしばらく待ってね」
 そう口にしたルビー・クールの表情は、かすかに、悲しげだった。
 リリア姉妹は、何のことかわからず、キョトンとしていた。
 ルビー・クールは、スイートルームに戻った。
 午後四時半を、少し過ぎていた。
 「日没は、何時頃かしら?」
 そう尋ねた。サファイア・レインとパール・スノーに。
 「そんなの知らねえよ」
 パール・スノーが、そう答えた。
 サファイア・レインが、答えた。
 「今頃の季節なら、帝都では、六時過ぎよ」
 「あと、一時間半ほどね」
 「この町は、帝都から、だいぶ西にあるから、同じとは、かぎらないわよ。帝都とは」
 パール・スノーが、尋ねた。
 「で、どうすんだよ。このあとの、一手」
 「市長を倒すわ」
 「その方法は」
 「そうね……」
 そのときだった。電話が鳴った。
 受話器を取った。
 市長だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七 結珂の通う高校で、人が殺された。 もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。 調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。 双子の因縁の物語。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~

KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
フィア・リウゼンシュタインは、奔放な噂の多い麗しき女騎士団長だ。真実を煙に巻きながら、その振る舞いで噂をはねのけてきていた。「王都の人間とは絶対に深い仲にならない」と公言していたにもかかわらず……。出立前夜に、片思い相手の第一師団長であり総督の息子、ゼクス・シュレーベンと一夜を共にしてしまう。 宰相娘と婚約関係にあるゼクスとの、たしかな記憶のない一夜に不安を覚えつつも、自国で反乱が起きたとの報告を受け、フィアは帰国を余儀なくされた。リュオクス国と敵対関係にある自国では、テオドールとの束縛婚が始まる。 フィアを溺愛し閉じこめるテオドールは、フィアとの子を求め、ひたすらに愛を注ぐが……。 フィアは抑制剤や抑制魔法により、懐妊を断固拒否! その後、フィアの懐妊が分かるが、テオドールの子ではないのは明らかで……。フィアは子ども逃がすための作戦を開始する。 作戦には大きな見落としがあり、フィアは子どもを護るためにテオドールと取り引きをする。 テオドールが求めたのは、フィアが国を出てから今までの記憶だった――――。 フィアは記憶も王位継承権も奪われてしまうが、ワケアリの子どもは着実に成長していき……。半ば強制的に、「父親」達は育児開始となる。 記憶も継承権も失ったフィアは母国を奪取出来るのか? そして、初恋は実る気配はあるのか? すれ違うゼクスとの思いと、不器用すぎるテオドールとの夫婦関係、そして、怪物たちとの奇妙な親子関係。 母国奪還を目指すフィアの三角育児恋愛関係×あべこべ怪物育児ストーリー♡ ~友愛女王爆誕編~ 第一部:母国帰還編 第二部:王都探索編 第三部:地下国冒険編 第四部:王位奪還編 第四部で友愛女王爆誕編は完結です。

浮かんだノイズ

吉良朗(キラアキラ)
ミステリー
バーを経営をする『俺』には最近気になっている事があった。 それは、客の入りが悪いことと、なぜか店内の物がいつのまにか移動していること。 バイト店員だった木村が夢を諦めて故郷に帰るという夜、見慣れない黒いワンピースの女が店にやってくる…… 女を客として迎えたものの、スマホをずっといじりながらひとりごとを言ったり。ようすがおかしい。 次第に女が何者であるか見当がつき始めるが、同時に『俺』の脳裏に過去の出来事が次々と思い返されていく……

『逆行。』

篠崎俊樹
ミステリー
長編ミステリー小説を、第6回ホラー・ミステリー小説大賞に、エントリーいたします。大賞を狙いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...