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<第七章 第5話>
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<第七章 第5話>
リリアを、やさしくなだめた。
「だいじょうぶよ。あなたの姉は、必ず救出する。これから銃弾が飛んでくるから、窓脇の壁に、背中をつけてなさい。絶対に、窓から顔を出しちゃ、ダメよ」
悲壮な声で叫んだ。サファイア・レインが。
「人質が死んでしまうわ! 銃撃戦になったら!」
「だいじょうぶよ。あなたたちの射撃の腕なら、人質にあてずに、敵を無力化できるわ」
「そんなの、無理よ!」
「だいじょうぶ。できるわ。冷静になれば」
「だけど敵が、人質を殺すわ」
「だいじょうぶよ。敵は、そう簡単には、人質を殺さないわ。自分たちの命綱だから」
小声で、指示した。サファイア・レインとパール・スノーに。ルビー・クールが。
「パールも窓枠に銃身を乗せて、スコープを使って狙って!」
そのほうが、より精密な狙撃ができる。
「了解」
三名の少女が、狙撃の狙いをつけた。
執事が、拡声器越しに叫んだ。
「武器を捨てて降伏しろ! 五分間だけ、待ってやる! 五分後、女たちの一人を、殺す。おまえらが銃を捨ててホテルから出てこなければ、五分ごとに女たちを一人ずつ殺していく。おまえらの身内も含めてな」
さらに言葉を続けた。執事が。拡声器越しに。
「やはり、思った通りだったな。屋敷の女たちを全員解放しろ、などと市長閣下に要求するから、その中に身内がいるのだろうと思った。どうせおまえらは、この近くの貧乏農村の出身なんだろ。帝都に働きに行って、あばずれの本性を発揮して、ギャングの女になった。少しばかり銃の撃ち方を学んで、ギャングを殺して、いい気になっている」
そこで、いったん言葉を句切った。執事が、声を張りあげた。
「だが、ここにいる男たちは、ギャングのような素人じゃない。ここにいる男たちの半分は、元兵士の戦争経験者で、戦闘の玄人だ。地獄の戦場の生き残りだ! おまえらが勝てるような男どもじゃ、ない!」
パール・スノーが、口を開いた。
「あのおしゃべり男、撃ち殺していい?」
彼女は、焦れてきたようだ。
「まだ、ダメよ」
小声で、そう答えてから、警部に呼びかけた。大声で。
「あの男たちを、逮捕しなさい。女性たちを人質にとって、彼女たちを殺すと宣言しているのだから」
だが警部は、そっぽを向いて、無反応だ。ルビー・クールを、無視している。
さらに、大声で呼びかけた。
「警部! 彼らの行為は、監禁罪、脅迫罪、それに、殺人準備罪の現行犯よ! 今すぐ、逮捕しなさい!」
だが警部は、無視し続けた。ルビー・クールの呼びかけを。
発砲した。
絶叫した。警部が。左足の甲を、二十二口径の銃弾で撃たれて。
警部が、怒鳴った。ルビー・クールに向かって。
「なにしやがるんだ! このあばずれめ!」
「あなたが無視するからよ。また無視したら、今度は右の足を撃つわよ」
そう言いながら、ルビー・クールは、左の二十二口径十連発リボルバーを、ガンベルトの左のホルスターに戻した。
言葉を続けた。ルビー・クールが。
「あの男たちを逮捕し、人質の女性たちを救出しなさい」
「できるわけないだろ!」
「なぜかしら?」
「おまえが、我々から銃を奪ったからだ!」
「警棒があるでしょ」
「警棒で銃に勝てるか!」
「制服警官を攻撃したら国家反逆罪だ、って脅して、武器を捨てさせたら?」
「無理だ」
「やる前からあきらめて、どうするの? 警官の使命は、市民の命を守ることよ。説得でも何でもして、悪党どもから、人質たちを救いなさい」
「そんなこと、できない」
「それは、なぜ? あなたが悪徳警部で、彼らとズブズブの関係だから?」
「彼らは市長の使用人たちだぞ。彼らのやることに、口出しなんか、できるか!」
「なぜ、逮捕できないの? 法律上は、逮捕できるでしょ」
いらだった。警部が。
「この町では、市長には誰も逆らえない!」
「それは、なぜ?」
押し黙った。警部が。
市長に逆らえば、自分や自分の家族が、殺されるかもしれない。そのような恐怖があるのだろう。
大声で、呼びかけた。ルビー・クールが。
「警官のみなさん! 最後のチャンスです。あそこにいる悪党どもを逮捕し、人質の女性たちを救出しなさい! 今、警官として行動しなければ、あなたたちは自分自身で、自らが腐敗堕落した悪徳警官であることを、証明したことになります!」
十三名の警官は全員、うつむいたまま、身動き一つしなかった。
「警部、最後のチャンスよ。部下の警官たちに、命じなさい。市長の部下たちを逮捕し、人質の女性たちを救出せよ、と」
「できるわけないだろ!」
そう怒鳴った。警部が、悲壮な表情で。
冷ややかに、言い放った。ルビー・クールが。
「確定よ。あなたたちは。悪徳警官であることが」
そのときだった。
執事が、拡声器越しに怒鳴った。
「あと、六十秒だぞ!」
リリアを、やさしくなだめた。
「だいじょうぶよ。あなたの姉は、必ず救出する。これから銃弾が飛んでくるから、窓脇の壁に、背中をつけてなさい。絶対に、窓から顔を出しちゃ、ダメよ」
悲壮な声で叫んだ。サファイア・レインが。
「人質が死んでしまうわ! 銃撃戦になったら!」
「だいじょうぶよ。あなたたちの射撃の腕なら、人質にあてずに、敵を無力化できるわ」
「そんなの、無理よ!」
「だいじょうぶ。できるわ。冷静になれば」
「だけど敵が、人質を殺すわ」
「だいじょうぶよ。敵は、そう簡単には、人質を殺さないわ。自分たちの命綱だから」
小声で、指示した。サファイア・レインとパール・スノーに。ルビー・クールが。
「パールも窓枠に銃身を乗せて、スコープを使って狙って!」
そのほうが、より精密な狙撃ができる。
「了解」
三名の少女が、狙撃の狙いをつけた。
執事が、拡声器越しに叫んだ。
「武器を捨てて降伏しろ! 五分間だけ、待ってやる! 五分後、女たちの一人を、殺す。おまえらが銃を捨ててホテルから出てこなければ、五分ごとに女たちを一人ずつ殺していく。おまえらの身内も含めてな」
さらに言葉を続けた。執事が。拡声器越しに。
「やはり、思った通りだったな。屋敷の女たちを全員解放しろ、などと市長閣下に要求するから、その中に身内がいるのだろうと思った。どうせおまえらは、この近くの貧乏農村の出身なんだろ。帝都に働きに行って、あばずれの本性を発揮して、ギャングの女になった。少しばかり銃の撃ち方を学んで、ギャングを殺して、いい気になっている」
そこで、いったん言葉を句切った。執事が、声を張りあげた。
「だが、ここにいる男たちは、ギャングのような素人じゃない。ここにいる男たちの半分は、元兵士の戦争経験者で、戦闘の玄人だ。地獄の戦場の生き残りだ! おまえらが勝てるような男どもじゃ、ない!」
パール・スノーが、口を開いた。
「あのおしゃべり男、撃ち殺していい?」
彼女は、焦れてきたようだ。
「まだ、ダメよ」
小声で、そう答えてから、警部に呼びかけた。大声で。
「あの男たちを、逮捕しなさい。女性たちを人質にとって、彼女たちを殺すと宣言しているのだから」
だが警部は、そっぽを向いて、無反応だ。ルビー・クールを、無視している。
さらに、大声で呼びかけた。
「警部! 彼らの行為は、監禁罪、脅迫罪、それに、殺人準備罪の現行犯よ! 今すぐ、逮捕しなさい!」
だが警部は、無視し続けた。ルビー・クールの呼びかけを。
発砲した。
絶叫した。警部が。左足の甲を、二十二口径の銃弾で撃たれて。
警部が、怒鳴った。ルビー・クールに向かって。
「なにしやがるんだ! このあばずれめ!」
「あなたが無視するからよ。また無視したら、今度は右の足を撃つわよ」
そう言いながら、ルビー・クールは、左の二十二口径十連発リボルバーを、ガンベルトの左のホルスターに戻した。
言葉を続けた。ルビー・クールが。
「あの男たちを逮捕し、人質の女性たちを救出しなさい」
「できるわけないだろ!」
「なぜかしら?」
「おまえが、我々から銃を奪ったからだ!」
「警棒があるでしょ」
「警棒で銃に勝てるか!」
「制服警官を攻撃したら国家反逆罪だ、って脅して、武器を捨てさせたら?」
「無理だ」
「やる前からあきらめて、どうするの? 警官の使命は、市民の命を守ることよ。説得でも何でもして、悪党どもから、人質たちを救いなさい」
「そんなこと、できない」
「それは、なぜ? あなたが悪徳警部で、彼らとズブズブの関係だから?」
「彼らは市長の使用人たちだぞ。彼らのやることに、口出しなんか、できるか!」
「なぜ、逮捕できないの? 法律上は、逮捕できるでしょ」
いらだった。警部が。
「この町では、市長には誰も逆らえない!」
「それは、なぜ?」
押し黙った。警部が。
市長に逆らえば、自分や自分の家族が、殺されるかもしれない。そのような恐怖があるのだろう。
大声で、呼びかけた。ルビー・クールが。
「警官のみなさん! 最後のチャンスです。あそこにいる悪党どもを逮捕し、人質の女性たちを救出しなさい! 今、警官として行動しなければ、あなたたちは自分自身で、自らが腐敗堕落した悪徳警官であることを、証明したことになります!」
十三名の警官は全員、うつむいたまま、身動き一つしなかった。
「警部、最後のチャンスよ。部下の警官たちに、命じなさい。市長の部下たちを逮捕し、人質の女性たちを救出せよ、と」
「できるわけないだろ!」
そう怒鳴った。警部が、悲壮な表情で。
冷ややかに、言い放った。ルビー・クールが。
「確定よ。あなたたちは。悪徳警官であることが」
そのときだった。
執事が、拡声器越しに怒鳴った。
「あと、六十秒だぞ!」
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