絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

文字の大きさ
上 下
40 / 138

<第七章 第5話>

しおりを挟む
   <第七章 第5話>
 リリアを、やさしくなだめた。
 「だいじょうぶよ。あなたの姉は、必ず救出する。これから銃弾が飛んでくるから、窓脇の壁に、背中をつけてなさい。絶対に、窓から顔を出しちゃ、ダメよ」
 悲壮な声で叫んだ。サファイア・レインが。
 「人質が死んでしまうわ! 銃撃戦になったら!」
 「だいじょうぶよ。あなたたちの射撃の腕なら、人質にあてずに、敵を無力化できるわ」
 「そんなの、無理よ!」
 「だいじょうぶ。できるわ。冷静になれば」
 「だけど敵が、人質を殺すわ」
 「だいじょうぶよ。敵は、そう簡単には、人質を殺さないわ。自分たちの命綱だから」
 小声で、指示した。サファイア・レインとパール・スノーに。ルビー・クールが。
 「パールも窓枠に銃身を乗せて、スコープを使って狙って!」
 そのほうが、より精密な狙撃ができる。
 「了解」
 三名の少女が、狙撃の狙いをつけた。
 執事が、拡声器越しに叫んだ。
 「武器を捨てて降伏しろ! 五分間だけ、待ってやる! 五分後、女たちの一人を、殺す。おまえらが銃を捨ててホテルから出てこなければ、五分ごとに女たちを一人ずつ殺していく。おまえらの身内も含めてな」
 さらに言葉を続けた。執事が。拡声器越しに。
 「やはり、思った通りだったな。屋敷の女たちを全員解放しろ、などと市長閣下に要求するから、その中に身内がいるのだろうと思った。どうせおまえらは、この近くの貧乏農村の出身なんだろ。帝都に働きに行って、あばずれの本性を発揮して、ギャングの女になった。少しばかり銃の撃ち方を学んで、ギャングを殺して、いい気になっている」
 そこで、いったん言葉を句切った。執事が、声を張りあげた。
 「だが、ここにいる男たちは、ギャングのような素人しろうとじゃない。ここにいる男たちの半分は、元兵士の戦争経験者で、戦闘の玄人くろうとだ。地獄の戦場の生き残りだ! おまえらが勝てるような男どもじゃ、ない!」
 パール・スノーが、口を開いた。
 「あのおしゃべり男、撃ち殺していい?」
 彼女は、れてきたようだ。
 「まだ、ダメよ」
 小声で、そう答えてから、警部に呼びかけた。大声で。
 「あの男たちを、逮捕しなさい。女性たちを人質にとって、彼女たちを殺すと宣言しているのだから」
 だが警部は、そっぽを向いて、無反応だ。ルビー・クールを、無視している。
 さらに、大声で呼びかけた。
 「警部! 彼らの行為は、監禁罪、脅迫罪、それに、殺人準備罪の現行犯よ! 今すぐ、逮捕しなさい!」
 だが警部は、無視し続けた。ルビー・クールの呼びかけを。
 発砲した。
 絶叫した。警部が。左足の甲を、二十二口径の銃弾で撃たれて。
 警部が、怒鳴った。ルビー・クールに向かって。
 「なにしやがるんだ! このあばずれめ!」
 「あなたが無視するからよ。また無視したら、今度は右の足を撃つわよ」
 そう言いながら、ルビー・クールは、左の二十二口径十連発リボルバーを、ガンベルトの左のホルスターに戻した。
 言葉を続けた。ルビー・クールが。
 「あの男たちを逮捕し、人質の女性たちを救出しなさい」
 「できるわけないだろ!」
 「なぜかしら?」
 「おまえが、我々から銃を奪ったからだ!」
 「警棒があるでしょ」
 「警棒で銃に勝てるか!」
 「制服警官を攻撃したら国家反逆罪だ、って脅して、武器を捨てさせたら?」
 「無理だ」
 「やる前からあきらめて、どうするの? 警官の使命は、市民の命を守ることよ。説得でも何でもして、悪党どもから、人質たちを救いなさい」
 「そんなこと、できない」
 「それは、なぜ? あなたが悪徳警部で、彼らとズブズブの関係だから?」
 「彼らは市長の使用人たちだぞ。彼らのやることに、口出しなんか、できるか!」
 「なぜ、逮捕できないの? 法律上は、逮捕できるでしょ」
 いらだった。警部が。
 「この町では、市長には誰もさからえない!」
 「それは、なぜ?」
 押し黙った。警部が。
 市長に逆らえば、自分や自分の家族が、殺されるかもしれない。そのような恐怖があるのだろう。
 大声で、呼びかけた。ルビー・クールが。
 「警官のみなさん! 最後のチャンスです。あそこにいる悪党どもを逮捕し、人質の女性たちを救出しなさい! 今、警官として行動しなければ、あなたたちは自分自身で、自らが腐敗堕落した悪徳警官であることを、証明したことになります!」
 十三名の警官は全員、うつむいたまま、身動き一つしなかった。
 「警部、最後のチャンスよ。部下の警官たちに、命じなさい。市長の部下たちを逮捕し、人質の女性たちを救出せよ、と」
 「できるわけないだろ!」
 そう怒鳴った。警部が、悲壮な表情で。
 冷ややかに、言い放った。ルビー・クールが。
 「確定よ。あなたたちは。悪徳警官であることが」
 そのときだった。
 執事が、拡声器越しに怒鳴った。
 「あと、六十秒だぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...