絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第七章 第2話>

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   <第七章 第2話>
 「ワシの息子を、解放しろ」
 市長が、要求した。すごみのある声で。
 「あたしの要求に、したがうならね」
 冷ややかに、答えた。ルビー・クールが。
 ここが、勝負所だ。
 今までの経験で、理解していた。ルビー・クールは。
 この一年の間、多くの悪党と戦った。凶暴なマフィアと、何度も戦った。極悪非道のテロ集団とも、戦った。何度も何度も。
 その経験で、わかる。
 この男は、他人を服従させることに、慣れている。しかも、服従させるために、ありとあらゆることを、してきたはずだ。
 息子の殺人を黙認してきたのは、自分自身が、多くの殺人に手を染めてきたからだ。
 市長自身が、死神団と、ズブズブの関係なのだろう。
 あるいは、死神団を、自分の片腕のように使っているのかもしれない。
 そもそも、いくら小さい市とはいえ、犯罪組織が死神団しかないことが、おかしい。
 死神団しかないのは、死神団が、市長と市警に保護されているからだ。死神団と対立したギャングは、死神団に加えて、警察にも、命を狙われるのだろう。
 市長が、尋ねた。凄むように。
 「おまえ、何者だ?」
 冷ややかな口調を保ち、答えた。
 「あなたが知る必要は、ないわ」
 「ふざけるな! ワシは、この町の市長だ!」
 鼻で笑った。ルビー・クールが。
 「それが、どうしたっていうの?」
 「この町は、ワシの町だ。ワシに逆らう者は、許さん!」
 「あなたが、許すか許さないかなんて、あたしには関係ないわ」
 「おまえ、どうなるか、わかってるのか」
 「あなたこそ、今の状況、わかってるでしょ。どうせ、市庁舎の三階の窓から、見てるんでしょ」
 沈黙した。市長が。
 やはり、図星だったようだ。
 言葉を続けた。ルビー・クールが。
 「死神団も、市警も、全滅状態よ。もはや彼らの中に、戦える者は残っていない。そのうえ、ニコラウスは、こちらの人質。あなたの対応次第で、いつでも射殺できるわ。このホテルの三階の窓からね」
 「息子に傷一つでもつけたら、おまえも、おまえの仲間も、皆殺しにするぞ。それに、おまえの家族も親族も、全員探し出して殺してやる。拷問に、かけてからな」
 「すでに傷を一つ、つけたわよ。左の足の甲を、二十二口径の弾丸で撃ったわ」
 激昂げきこうした。市長が。電話口の向こうで。
 数十秒間、怒鳴りまくった。市長が。
 ガチャリと、電話を切った。ルビー・クールが。突然、一方的に。
 数十秒後、再び電話が、かかってきた。
 受話器を、取った。
 「勝手に切るな! ワシの話は、まだ終わってない!」
 「あなたが怒鳴るからよ。あなたが冷静にならないと、息子を助けることは、できないわよ」
 数秒間の沈黙のあと、市長が口を開いた。
 「おまえの目的は、なんだ?」
 この言葉を、待っていた。ルビー・クールは。
 「要求は、二つよ。一つは、これまでニコラウスが拉致した女性全員の解放よ。あなたの屋敷にいる女性たちに加え、ヴィクトールの娼館で働いている女性も、全員解放してもらうわ」
 また、沈黙が流れた。数秒間。
 市長は、考えているのだ。
 おそらく、ルビー・クールの要求には、なにか裏がある、と。
 「もう一つの要求は、なんだ?」
 「二つ目の要求は、慰謝料よ。あたしたちと、拉致された女性、それに、殺された女性たちの遺族への慰謝料よ」
 「なんで、おまえに慰謝料を、払わなきゃならないんだ?」
 「ニコラウスが、あたしたちを拉致しようとしたからよ。もちろん、返り討ちにしたけれど」
 うなり声が、聞こえた。電話口の向こう側から。
 ルビー・クールが、言葉を続けた。
 「あたしたちに対する慰謝料は、一千万キャピタでいいわ」
 (著者注:一千万キャピタは日本円で十億円相当)
 「ふざけるな! そんな大金、出せるか!」
 「ニコラウスの足の負傷は、まだ治療していないのよ。二十二口径だから傷口は小さいけれど、このまま放置し続ければ、いずれ失血死するわ。あたしの要求に、したがわなければ、あなたの息子は、苦しみながら死んでいくことになるわ」
 激昂した。ふたたび。市長が。
 「おまえに、目にもの見せてやる!」
 ガチャリと、電話が切れた。
 市長が、切ったのだ。
 予定とは、狂ってしまった。
 市長には、なにか打つ手があるようだ。
 次の一手を、待つしかない。
 心の中で、ルビー・クールは肩をすくめた。
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