絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

文字の大きさ
上 下
37 / 138

<第七章 第2話>

しおりを挟む
   <第七章 第2話>
 「ワシの息子を、解放しろ」
 市長が、要求した。すごみのある声で。
 「あたしの要求に、したがうならね」
 冷ややかに、答えた。ルビー・クールが。
 ここが、勝負所だ。
 今までの経験で、理解していた。ルビー・クールは。
 この一年の間、多くの悪党と戦った。凶暴なマフィアと、何度も戦った。極悪非道のテロ集団とも、戦った。何度も何度も。
 その経験で、わかる。
 この男は、他人を服従させることに、慣れている。しかも、服従させるために、ありとあらゆることを、してきたはずだ。
 息子の殺人を黙認してきたのは、自分自身が、多くの殺人に手を染めてきたからだ。
 市長自身が、死神団と、ズブズブの関係なのだろう。
 あるいは、死神団を、自分の片腕のように使っているのかもしれない。
 そもそも、いくら小さい市とはいえ、犯罪組織が死神団しかないことが、おかしい。
 死神団しかないのは、死神団が、市長と市警に保護されているからだ。死神団と対立したギャングは、死神団に加えて、警察にも、命を狙われるのだろう。
 市長が、尋ねた。凄むように。
 「おまえ、何者だ?」
 冷ややかな口調を保ち、答えた。
 「あなたが知る必要は、ないわ」
 「ふざけるな! ワシは、この町の市長だ!」
 鼻で笑った。ルビー・クールが。
 「それが、どうしたっていうの?」
 「この町は、ワシの町だ。ワシに逆らう者は、許さん!」
 「あなたが、許すか許さないかなんて、あたしには関係ないわ」
 「おまえ、どうなるか、わかってるのか」
 「あなたこそ、今の状況、わかってるでしょ。どうせ、市庁舎の三階の窓から、見てるんでしょ」
 沈黙した。市長が。
 やはり、図星だったようだ。
 言葉を続けた。ルビー・クールが。
 「死神団も、市警も、全滅状態よ。もはや彼らの中に、戦える者は残っていない。そのうえ、ニコラウスは、こちらの人質。あなたの対応次第で、いつでも射殺できるわ。このホテルの三階の窓からね」
 「息子に傷一つでもつけたら、おまえも、おまえの仲間も、皆殺しにするぞ。それに、おまえの家族も親族も、全員探し出して殺してやる。拷問に、かけてからな」
 「すでに傷を一つ、つけたわよ。左の足の甲を、二十二口径の弾丸で撃ったわ」
 激昂げきこうした。市長が。電話口の向こうで。
 数十秒間、怒鳴りまくった。市長が。
 ガチャリと、電話を切った。ルビー・クールが。突然、一方的に。
 数十秒後、再び電話が、かかってきた。
 受話器を、取った。
 「勝手に切るな! ワシの話は、まだ終わってない!」
 「あなたが怒鳴るからよ。あなたが冷静にならないと、息子を助けることは、できないわよ」
 数秒間の沈黙のあと、市長が口を開いた。
 「おまえの目的は、なんだ?」
 この言葉を、待っていた。ルビー・クールは。
 「要求は、二つよ。一つは、これまでニコラウスが拉致した女性全員の解放よ。あなたの屋敷にいる女性たちに加え、ヴィクトールの娼館で働いている女性も、全員解放してもらうわ」
 また、沈黙が流れた。数秒間。
 市長は、考えているのだ。
 おそらく、ルビー・クールの要求には、なにか裏がある、と。
 「もう一つの要求は、なんだ?」
 「二つ目の要求は、慰謝料よ。あたしたちと、拉致された女性、それに、殺された女性たちの遺族への慰謝料よ」
 「なんで、おまえに慰謝料を、払わなきゃならないんだ?」
 「ニコラウスが、あたしたちを拉致しようとしたからよ。もちろん、返り討ちにしたけれど」
 うなり声が、聞こえた。電話口の向こう側から。
 ルビー・クールが、言葉を続けた。
 「あたしたちに対する慰謝料は、一千万キャピタでいいわ」
 (著者注:一千万キャピタは日本円で十億円相当)
 「ふざけるな! そんな大金、出せるか!」
 「ニコラウスの足の負傷は、まだ治療していないのよ。二十二口径だから傷口は小さいけれど、このまま放置し続ければ、いずれ失血死するわ。あたしの要求に、したがわなければ、あなたの息子は、苦しみながら死んでいくことになるわ」
 激昂した。ふたたび。市長が。
 「おまえに、目にもの見せてやる!」
 ガチャリと、電話が切れた。
 市長が、切ったのだ。
 予定とは、狂ってしまった。
 市長には、なにか打つ手があるようだ。
 次の一手を、待つしかない。
 心の中で、ルビー・クールは肩をすくめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

virtual lover

空川億里
ミステリー
 人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。  が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。  主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

処理中です...