絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第六章 第5話>

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   <第六章 第5話>
 病院から、二名の警官が走って戻ってきた。
 一人が、叫んだ。
 「警部! 医者に拒否されました!」
 「どういうことだ!」
 「いくら頼んでも、銃撃戦の中で治療なんてできない。負傷者を病院に運んで来れば、治療する。その一点張りで」
 警部が、ルビー・クールに向かって怒鳴った。
 「負傷者を、病院へ運ぶぞ!」
 「待ちなさい!」
 ルビー・クールが、銃口を向けた。三十二口径のリボルバーの銃口を。
 「あなたたちは、人質なのよ。あたしの許可なく動いたら、足を撃つわよ」
 「人質だと! なんのためだ!」
 「見ていれば、わかるわ」
 「このままだと、負傷した警官が、次々に死んでいくぞ! おまえには、良心がないのか!」
 「良心のない悪徳警官は、死んだほうが、市民は喜ぶわよ。医者の本音も、悪徳警官の治療なんか、したくないのよ」
 怒りで、ゆがんだ。警部の顔が。
 だが、反論できなかった。
 銃撃を受けた二十五名の警官のうち、死亡は十四名、負傷者が十一名だ。
 サファイア・レインが銃撃した七名は、全員、死ななかった。右手で撃った四名は重傷だが、左手で撃った三名は、狙いがだいぶそれて、肩の周囲にあたった。
 パール・スノーが銃撃した八名は、右手で撃った四名は即死したが、左手で撃った四名は、重傷だ。心臓を狙ったのだが、少しそれたためだ。
 ルビー・クールが銃撃した十名は、頭部を撃ち抜いたため、即死だ。
 警部に、声をかけた。
 「肩を負傷した三名は、そのまま放置しておいても、死なないわ。一方、重傷の八名は、病院に運んでも、助かるとはかぎらないわ。今必要なのは、止血よ。警官二名を病院に派遣して、包帯、止血剤、消毒用アルコールなどを、もらってきなさい。自分たちで止血するのよ」
 罵詈雑言を吐き捨てたあと、警部が命じた。警官二名が、すぐさま駆け出した。病院へ。
 そのときだった。
 パール・スノーが、声をかけてきた。ニヤつきながら。
 「敵さん、動き出したわよ」
 視線を向けた。ルビー・クールとサファイア・レインが。警察署に。
 警察署の脇の道路から、馬車の車体が現れた。馬は、ひいていない。この馬車も、人間が後ろから押している。
 小型双眼鏡で、確認した。
 この馬車も、車内に椅子を、いくつか入れている。
 さらに、もう一台、馬車の車体が現れた。
 これで、合計三台だ。
 いよいよ、ニコラウス救出作戦の開始だ。
 ニコラウスの救出のついでに、負傷した警官たちも、救出する作戦のはずだ。
 救出部隊の武装は、回収したライフル銃五挺と、拳銃が十挺だ。それに、署長の私物のライフル銃一挺に、警部も私物の拳銃を、所持しているはずだ。
 帝国陸軍でも、将校が身につける拳銃は、将校自身が購入した私物だからだ。
 署長の私物の拳銃も使えば、合計で、ライフル銃六挺に、拳銃十二挺になる。
 救出部隊に参加する警官の人数は、最大で四十二名だ。
 もっとも、市内を巡回中の警官も、いるはずだ。
 これだけ激しい銃撃戦が発生した以上、巡回中の警官たちも、大部分は、警察署に戻ってくるだろう。裏口から警察署に入れば、このホテルからは、確認できない。
 続々と、警官たちが出てきた。警察署の玄関から。
 すぐさま、馬車の陰に隠れた。警官たちが。
 パール・スノーが、狙撃銃を構えた。
 「けっこう、狙えるわよ。ヤツら、キチンと隠れていないから」
 「まだダメよ。もっと引きつけてからよ」
 ルビー・クールは、サファイア・レインに、狙撃銃と徹甲弾の準備をするように、指示した。
 心配そうな顔で、サファイア・レインが尋ねた。
 「ギャングたちの死体の近くには、まだ、ライフル銃や散弾銃が、放置してあるわよね。それを警官たちが鹵獲ろかくしたら、武装が強化されるんじゃなくて?」
 「そのとおりね。だから、その手前で、阻止するわ」
 そうなると、グランドパレスホテルの窓からの距離は、八十メートル以上だ。
 馬車の車体は木製だが、重量を軽くするため、薄い板だ。徹甲弾なら、簡単に貫通する。
 一方、馬車の車内に入れた木製の椅子は、木材の厚さが不明だ。そのため、遮蔽物として、どの程度の効果があるのか、わからない。
 よって、実際に、徹甲弾を撃ち込んでみなければ、貫通するか否かは、わからない。
 だが、やるしかない。
 ルビー・クールは、覚悟を決めた。
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