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<第六章 第2話>
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<第六章 第2話>
銃声は、全部で五発だった。
だが、一発も、なかった。窓に、飛び込んできた銃弾は。
サファイア・レインが叫んだ。コンパクトと双眼鏡を使って、警察署を視認して。
「五名! ライフル銃の狙撃手が! 警察署の二階の窓に!」
ルビー・クールは次弾を装填してすぐに、顔を半分、窓から出した。警察署の二階の窓を、見た。
五つの窓に、五名の狙撃手がいた。彼らは身を隠さずに、次弾の装填を始めていた。
この町の警察官は、射撃訓練を充分に行っていないようだ。
そのため、一発撃ってから、次弾を発砲するまでの時間は、六秒以上かかりそうだ。
狙撃した。ルビー・クールが。
中央の窓に身を乗り出していた警官が、転落した。窓の外へ。ライフル銃と共に。
その直後、パール・スノーが発砲した。
ほぼ同時に、サファイア・レインも発砲した。
二名の警官が、二階の窓から転落した。ライフル銃と共に。
ライフル銃を持つ警官は、残り二名だ。
彼らが、発砲した。続けざまに。
だが一発も、飛び込んでこなかった。スイートルームの窓に。
すぐさま、次弾を装填した。
狙撃した。ルビー・クールが。
その直後、パール・スノーも発砲した。
射殺した。二名とも。
狙撃手の警官五名は、全員、窓から転落した。ライフル銃と共に。
もう、警察署内には、ライフル銃は、ないはずだ。公費で購入したものは。
あるのは、署長の私物のライフル銃だけだろう。
そのときだった。
叫んだ。サファイア・レインが。
「警官が、二名足りないわ!」
地上に視線を向けた。
グランドパレスホテルの正面にいる警官たちは、負傷者と警部をのぞくと、十五名いた。そのうち、さきほど二名が、病院に医者を呼びに行った。
よって、十三名いるはずだ。
だが今は、十一名しかしない。
足りない二名は、裏手に向かったはずだ。警部が、伝令として派遣したのだろう。
裏手には、警官十名がいる。武装は、ライフル銃五挺。彼らに、ホテルの裏口から、内部に突入させるつもりだろう。
小声で叫んだ。ルビー・クールが。
「あたしが裏手に回るわ! パールはここで、警察署を監視! ライフル銃を回収しに表に出た者は、足を狙撃して!」
「了解。狙撃兵の戦術ね」
「ええ、そうよ。サファイアは、警部たちの監視をお願い。逃げようとしたら、威嚇射撃で足止めして」
「了解」
帽子をかぶり、狙撃銃と弾薬箱を持って、ルビー・クールが駆け出した。
階段ホールの窓脇の壁に、背中をつけた。
帽子を脱いでから、顔を窓から少し出し、様子を確認した。
十二名の警官が、商店街の歩道に集まっていた。
伝令役二名が、命令を伝えているようだ。
十名の警官は、呆然と立ち尽くしている。
半分以上の同僚が殺傷されたことに、衝撃を受けているのだろう。
彼らを観察しながら、考えた。
狙撃銃を使って、長距離射撃戦をするか。
それとも、接近するまで待って、二挺拳銃で戦うか。
接近戦ならば、相手の銃弾があたる可能性が高まる。
だが、五十メートルの距離なら、この町の警官の腕では、あたらないのではないか。
いや、警察署にいた狙撃手たちは、百三十メートルの距離だから、窓枠さえも捉えることができなかった。
しかし、五十メートル以内なら、射撃の精度は、遥かに上昇するはずだ。
どちらが、自分にとって有利か。
接近してから二挺拳銃を発砲すれば、ライフル銃を持つ警官五名を、二秒から三秒で倒すことができる。
しかし、その二秒から三秒の間に、反撃を受ける可能性が高い。
また、裏口から突入されれば、やっかいなことになる。
数秒間考えて、戦法を決めた。
狙撃戦だ。
警官たちが、駐車場に入ってから、狙撃する。距離は三十メートルから四十メートル。
危険な距離だ。相手の銃弾が、あたるかもしれない。
だが、こちらには遮蔽物がある。窓脇の壁に、身を隠すことができる。
それに対し、相手方には、遮蔽物がない。
狙撃銃を手に取った。銃弾を十発、ジャケットの右ポケットに入れた。
さらに、銃弾を一発、口にくわえた。口もとのスカーフを降ろして。銃弾の真ん中あたりを、前歯で、かんだ。
銃弾は、徹甲弾ではない。普通の銃弾だ。
なぜなら、徹甲弾を使えば、警官の肉体を貫通したあと、商店に銃弾が飛び込む可能性があるからだ。裏通りの商店は、木造の建物ばかりだ。徹甲弾なら、木製の壁を貫通し、店内の従業員にあたる可能性がある。それを避けるため、通常弾を使うことにした。
警官たちが、移動し始めた。ホテルの裏口に向かって。
二車線の馬車道を渡り、駐車場に足を踏み入れた。
ライフル銃を持つ警官五名が、先頭だ。
十二人目も、駐車場に足を踏み入れた。
上半身を、窓に曝した。狙撃銃を構えながら。
轟いた。銃声が。
銃声は、全部で五発だった。
だが、一発も、なかった。窓に、飛び込んできた銃弾は。
サファイア・レインが叫んだ。コンパクトと双眼鏡を使って、警察署を視認して。
「五名! ライフル銃の狙撃手が! 警察署の二階の窓に!」
ルビー・クールは次弾を装填してすぐに、顔を半分、窓から出した。警察署の二階の窓を、見た。
五つの窓に、五名の狙撃手がいた。彼らは身を隠さずに、次弾の装填を始めていた。
この町の警察官は、射撃訓練を充分に行っていないようだ。
そのため、一発撃ってから、次弾を発砲するまでの時間は、六秒以上かかりそうだ。
狙撃した。ルビー・クールが。
中央の窓に身を乗り出していた警官が、転落した。窓の外へ。ライフル銃と共に。
その直後、パール・スノーが発砲した。
ほぼ同時に、サファイア・レインも発砲した。
二名の警官が、二階の窓から転落した。ライフル銃と共に。
ライフル銃を持つ警官は、残り二名だ。
彼らが、発砲した。続けざまに。
だが一発も、飛び込んでこなかった。スイートルームの窓に。
すぐさま、次弾を装填した。
狙撃した。ルビー・クールが。
その直後、パール・スノーも発砲した。
射殺した。二名とも。
狙撃手の警官五名は、全員、窓から転落した。ライフル銃と共に。
もう、警察署内には、ライフル銃は、ないはずだ。公費で購入したものは。
あるのは、署長の私物のライフル銃だけだろう。
そのときだった。
叫んだ。サファイア・レインが。
「警官が、二名足りないわ!」
地上に視線を向けた。
グランドパレスホテルの正面にいる警官たちは、負傷者と警部をのぞくと、十五名いた。そのうち、さきほど二名が、病院に医者を呼びに行った。
よって、十三名いるはずだ。
だが今は、十一名しかしない。
足りない二名は、裏手に向かったはずだ。警部が、伝令として派遣したのだろう。
裏手には、警官十名がいる。武装は、ライフル銃五挺。彼らに、ホテルの裏口から、内部に突入させるつもりだろう。
小声で叫んだ。ルビー・クールが。
「あたしが裏手に回るわ! パールはここで、警察署を監視! ライフル銃を回収しに表に出た者は、足を狙撃して!」
「了解。狙撃兵の戦術ね」
「ええ、そうよ。サファイアは、警部たちの監視をお願い。逃げようとしたら、威嚇射撃で足止めして」
「了解」
帽子をかぶり、狙撃銃と弾薬箱を持って、ルビー・クールが駆け出した。
階段ホールの窓脇の壁に、背中をつけた。
帽子を脱いでから、顔を窓から少し出し、様子を確認した。
十二名の警官が、商店街の歩道に集まっていた。
伝令役二名が、命令を伝えているようだ。
十名の警官は、呆然と立ち尽くしている。
半分以上の同僚が殺傷されたことに、衝撃を受けているのだろう。
彼らを観察しながら、考えた。
狙撃銃を使って、長距離射撃戦をするか。
それとも、接近するまで待って、二挺拳銃で戦うか。
接近戦ならば、相手の銃弾があたる可能性が高まる。
だが、五十メートルの距離なら、この町の警官の腕では、あたらないのではないか。
いや、警察署にいた狙撃手たちは、百三十メートルの距離だから、窓枠さえも捉えることができなかった。
しかし、五十メートル以内なら、射撃の精度は、遥かに上昇するはずだ。
どちらが、自分にとって有利か。
接近してから二挺拳銃を発砲すれば、ライフル銃を持つ警官五名を、二秒から三秒で倒すことができる。
しかし、その二秒から三秒の間に、反撃を受ける可能性が高い。
また、裏口から突入されれば、やっかいなことになる。
数秒間考えて、戦法を決めた。
狙撃戦だ。
警官たちが、駐車場に入ってから、狙撃する。距離は三十メートルから四十メートル。
危険な距離だ。相手の銃弾が、あたるかもしれない。
だが、こちらには遮蔽物がある。窓脇の壁に、身を隠すことができる。
それに対し、相手方には、遮蔽物がない。
狙撃銃を手に取った。銃弾を十発、ジャケットの右ポケットに入れた。
さらに、銃弾を一発、口にくわえた。口もとのスカーフを降ろして。銃弾の真ん中あたりを、前歯で、かんだ。
銃弾は、徹甲弾ではない。普通の銃弾だ。
なぜなら、徹甲弾を使えば、警官の肉体を貫通したあと、商店に銃弾が飛び込む可能性があるからだ。裏通りの商店は、木造の建物ばかりだ。徹甲弾なら、木製の壁を貫通し、店内の従業員にあたる可能性がある。それを避けるため、通常弾を使うことにした。
警官たちが、移動し始めた。ホテルの裏口に向かって。
二車線の馬車道を渡り、駐車場に足を踏み入れた。
ライフル銃を持つ警官五名が、先頭だ。
十二人目も、駐車場に足を踏み入れた。
上半身を、窓に曝した。狙撃銃を構えながら。
轟いた。銃声が。
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