絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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第六章 狙撃戦で絶体絶命 <第1話>

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  <第六章 第1話>
 ルビー・クールが叫んだ。
 「パール、顔を出しちゃダメ! キチンと隠れてて!」
 「じゃあ、どうすんだよ!」
 「手鏡を使って、狙撃手の位置を把握するのよ」
 サファイア・レインが、ジャケットのポケットからコンパクトを取り出した。
 ルビー・クールが、小型双眼鏡を投げて渡した。
 サファイア・レインは、左手に開いたコンパクトを、右手に小型双眼鏡を手にした。
 窓脇の壁に背中をつけ、双眼鏡を両目にあてた。
 左腕を室内側に伸ばし、鏡の部分を、窓枠の内側に出した。
 その瞬間だった。
 銃声が響いた。
 悲鳴をあげた。サファイア・レインが。コンパクトを床に落として。
 飛び込んできたのだ。銃弾が。
 「だいじょうぶ? 指を撃たれた?」
 「だいじょうぶよ。銃弾が、近くに飛んで来ただけ」
 パール・スノーが尋ねた。
 「何センチ先だった?」
 ヒステリックに叫んだ。サファイア・レインが。
 「そんなの、わかるわけないでしょ! とにかく近くよ。凄腕すごうでの狙撃手よ」
 冷静な声で、ルビー・クールが、尋ねた。
 「狙撃手の位置は、確認できた?」
 「ええ。警察署の三階、署長室の中央の窓。大きな執務机に銃身を置いて、狙っているわ。ロマンス・グレーの髪の大男が。ライフル銃の種類までは不明だけど、照準器スコープは、ついていなかったわ」
 「狙撃手は、署長ね」
 窓の外で、警部が大笑するのが聞こえた。サファイア・レインの悲鳴を聞いて、形勢逆転だと、思ったのだろう。
 大声で怒鳴った。警部が。三階の窓に向かって。
 「どうだ! 思い知ったか! 署長は戦争経験のある元軍人だぞ! 戦場では、狙撃手として活躍したそうだ。おまえらはもう、絶体絶命だ! 射殺されたくなければ、武器を捨てて投降しろ!」
 ルビー・クールが、大声で尋ねた。窓脇の壁に、身を隠したまま。
 「その戦争って、前の前の戦争かしら?」
 「そうだ! 戦場では、敵の一個大隊を、狙撃で釘付くぎづけにしたそうだぞ! どうだ! すごいだろ! 恐ろしいだろ! 署長の狙撃の腕は!」
 前の前の戦争は、三十年ほど前だ。ルビー・クールの祖父が、出征した戦争だ。
 もし署長が、二十歳前後のときに出征したなら、署長の年齢は、五十歳前後だ。もうそろそろ、老眼だ。狙撃手としては、致命的だ。
 だがそれでも、かなり正確な射撃だった。
 次は、命中するかもしれない。
 極めて、危険な相手だ。
 数秒間、考えた。
 思いついた。一計を。
 署長のライフル銃には、スコープが、ついていない。
 彼は、もうそろそろ老眼の年齢で、よく見えないはずだ。
 それを、利用すればいい。
 ルビー・クールが、小声でパール・スノーに指示した。
 「了解」
 自分の臙脂えんじ色の帽子を、ルビー・クールは、床すれすれの高さで投げた。手首のスナップを使い、回転させながら。パール・スノーに向かって。
 途中で床に落ちたが、パール・スノーが手を伸ばして拾った。
 彼女は、窓の右脇の壁に背中を付けたまま、しゃがみ込んだ。
 自分の狙撃銃の銃口を上に向けると、臙脂色の帽子を、銃口の上に、かぶせた。帽子のツバを水平にするために、帽子の中央が、銃口の上になるように。
 右側窓の右ななめ下から、少しずつ、帽子を上に上げた。
 窓枠の右ななめ下から、臙脂色の帽子が、現れた。四分の一ほど。
 その瞬間、銃声が響いた。
 貫通した。銃弾が。臙脂色の帽子を。
 引っかかった。罠に。署長が。
 今が、絶好の好機だ。
 署長が、次弾を装填そうてんするまでの時間は、おそらく三秒。
 その三秒で、決めなければ。
 おどり出た。ルビー・クールが。狙撃銃を構えながら。
 上半身を、さらした。中央の窓に。
 ねらいを、つけた。一瞬で。
 発砲した。
 いた。
 署長の頭部を。
 叫んだ。
 「狙撃、成功!」
 歓声をあげた。パール・スノーが。
 すぐさま、窓脇の壁に身を隠した。
 署長以外の狙撃手も、いるかもしれないからだ。
 「サファイア、念のために確認して。標的の状態を」
 床からコンパクトを拾いあげ、小型双眼鏡を両目にあてて、確認した。サファイア・レインが。
 「標的、死亡」
 また、歓声をあげた。パール・スノーが。
 そのときだった。
 銃声が響いた。五月雨式さみだれしきに。
 サファイア・レインが、叫んだ。
 「狙撃手、多数! 警察署の二階の窓!」
 一難去って、また一難か。
 ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。
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