25 / 138
第六章 狙撃戦で絶体絶命 <第1話>
しおりを挟む
<第六章 第1話>
ルビー・クールが叫んだ。
「パール、顔を出しちゃダメ! キチンと隠れてて!」
「じゃあ、どうすんだよ!」
「手鏡を使って、狙撃手の位置を把握するのよ」
サファイア・レインが、ジャケットのポケットからコンパクトを取り出した。
ルビー・クールが、小型双眼鏡を投げて渡した。
サファイア・レインは、左手に開いたコンパクトを、右手に小型双眼鏡を手にした。
窓脇の壁に背中をつけ、双眼鏡を両目にあてた。
左腕を室内側に伸ばし、鏡の部分を、窓枠の内側に出した。
その瞬間だった。
銃声が響いた。
悲鳴をあげた。サファイア・レインが。コンパクトを床に落として。
飛び込んできたのだ。銃弾が。
「だいじょうぶ? 指を撃たれた?」
「だいじょうぶよ。銃弾が、近くに飛んで来ただけ」
パール・スノーが尋ねた。
「何センチ先だった?」
ヒステリックに叫んだ。サファイア・レインが。
「そんなの、わかるわけないでしょ! とにかく近くよ。凄腕の狙撃手よ」
冷静な声で、ルビー・クールが、尋ねた。
「狙撃手の位置は、確認できた?」
「ええ。警察署の三階、署長室の中央の窓。大きな執務机に銃身を置いて、狙っているわ。ロマンス・グレーの髪の大男が。ライフル銃の種類までは不明だけど、照準器は、ついていなかったわ」
「狙撃手は、署長ね」
窓の外で、警部が大笑するのが聞こえた。サファイア・レインの悲鳴を聞いて、形勢逆転だと、思ったのだろう。
大声で怒鳴った。警部が。三階の窓に向かって。
「どうだ! 思い知ったか! 署長は戦争経験のある元軍人だぞ! 戦場では、狙撃手として活躍したそうだ。おまえらはもう、絶体絶命だ! 射殺されたくなければ、武器を捨てて投降しろ!」
ルビー・クールが、大声で尋ねた。窓脇の壁に、身を隠したまま。
「その戦争って、前の前の戦争かしら?」
「そうだ! 戦場では、敵の一個大隊を、狙撃で釘付けにしたそうだぞ! どうだ! 凄いだろ! 恐ろしいだろ! 署長の狙撃の腕は!」
前の前の戦争は、三十年ほど前だ。ルビー・クールの祖父が、出征した戦争だ。
もし署長が、二十歳前後のときに出征したなら、署長の年齢は、五十歳前後だ。もうそろそろ、老眼だ。狙撃手としては、致命的だ。
だがそれでも、かなり正確な射撃だった。
次は、命中するかもしれない。
極めて、危険な相手だ。
数秒間、考えた。
思いついた。一計を。
署長のライフル銃には、スコープが、ついていない。
彼は、もうそろそろ老眼の年齢で、よく見えないはずだ。
それを、利用すればいい。
ルビー・クールが、小声でパール・スノーに指示した。
「了解」
自分の臙脂色の帽子を、ルビー・クールは、床すれすれの高さで投げた。手首のスナップを使い、回転させながら。パール・スノーに向かって。
途中で床に落ちたが、パール・スノーが手を伸ばして拾った。
彼女は、窓の右脇の壁に背中を付けたまま、しゃがみ込んだ。
自分の狙撃銃の銃口を上に向けると、臙脂色の帽子を、銃口の上に、かぶせた。帽子のツバを水平にするために、帽子の中央が、銃口の上になるように。
右側窓の右ななめ下から、少しずつ、帽子を上に上げた。
窓枠の右ななめ下から、臙脂色の帽子が、現れた。四分の一ほど。
その瞬間、銃声が響いた。
貫通した。銃弾が。臙脂色の帽子を。
引っかかった。罠に。署長が。
今が、絶好の好機だ。
署長が、次弾を装填するまでの時間は、おそらく三秒。
その三秒で、決めなければ。
躍り出た。ルビー・クールが。狙撃銃を構えながら。
上半身を、曝した。中央の窓に。
狙いを、つけた。一瞬で。
発砲した。
撃ち抜いた。
署長の頭部を。
叫んだ。
「狙撃、成功!」
歓声をあげた。パール・スノーが。
すぐさま、窓脇の壁に身を隠した。
署長以外の狙撃手も、いるかもしれないからだ。
「サファイア、念のために確認して。標的の状態を」
床からコンパクトを拾いあげ、小型双眼鏡を両目にあてて、確認した。サファイア・レインが。
「標的、死亡」
また、歓声をあげた。パール・スノーが。
そのときだった。
銃声が響いた。五月雨式に。
サファイア・レインが、叫んだ。
「狙撃手、多数! 警察署の二階の窓!」
一難去って、また一難か。
ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。
ルビー・クールが叫んだ。
「パール、顔を出しちゃダメ! キチンと隠れてて!」
「じゃあ、どうすんだよ!」
「手鏡を使って、狙撃手の位置を把握するのよ」
サファイア・レインが、ジャケットのポケットからコンパクトを取り出した。
ルビー・クールが、小型双眼鏡を投げて渡した。
サファイア・レインは、左手に開いたコンパクトを、右手に小型双眼鏡を手にした。
窓脇の壁に背中をつけ、双眼鏡を両目にあてた。
左腕を室内側に伸ばし、鏡の部分を、窓枠の内側に出した。
その瞬間だった。
銃声が響いた。
悲鳴をあげた。サファイア・レインが。コンパクトを床に落として。
飛び込んできたのだ。銃弾が。
「だいじょうぶ? 指を撃たれた?」
「だいじょうぶよ。銃弾が、近くに飛んで来ただけ」
パール・スノーが尋ねた。
「何センチ先だった?」
ヒステリックに叫んだ。サファイア・レインが。
「そんなの、わかるわけないでしょ! とにかく近くよ。凄腕の狙撃手よ」
冷静な声で、ルビー・クールが、尋ねた。
「狙撃手の位置は、確認できた?」
「ええ。警察署の三階、署長室の中央の窓。大きな執務机に銃身を置いて、狙っているわ。ロマンス・グレーの髪の大男が。ライフル銃の種類までは不明だけど、照準器は、ついていなかったわ」
「狙撃手は、署長ね」
窓の外で、警部が大笑するのが聞こえた。サファイア・レインの悲鳴を聞いて、形勢逆転だと、思ったのだろう。
大声で怒鳴った。警部が。三階の窓に向かって。
「どうだ! 思い知ったか! 署長は戦争経験のある元軍人だぞ! 戦場では、狙撃手として活躍したそうだ。おまえらはもう、絶体絶命だ! 射殺されたくなければ、武器を捨てて投降しろ!」
ルビー・クールが、大声で尋ねた。窓脇の壁に、身を隠したまま。
「その戦争って、前の前の戦争かしら?」
「そうだ! 戦場では、敵の一個大隊を、狙撃で釘付けにしたそうだぞ! どうだ! 凄いだろ! 恐ろしいだろ! 署長の狙撃の腕は!」
前の前の戦争は、三十年ほど前だ。ルビー・クールの祖父が、出征した戦争だ。
もし署長が、二十歳前後のときに出征したなら、署長の年齢は、五十歳前後だ。もうそろそろ、老眼だ。狙撃手としては、致命的だ。
だがそれでも、かなり正確な射撃だった。
次は、命中するかもしれない。
極めて、危険な相手だ。
数秒間、考えた。
思いついた。一計を。
署長のライフル銃には、スコープが、ついていない。
彼は、もうそろそろ老眼の年齢で、よく見えないはずだ。
それを、利用すればいい。
ルビー・クールが、小声でパール・スノーに指示した。
「了解」
自分の臙脂色の帽子を、ルビー・クールは、床すれすれの高さで投げた。手首のスナップを使い、回転させながら。パール・スノーに向かって。
途中で床に落ちたが、パール・スノーが手を伸ばして拾った。
彼女は、窓の右脇の壁に背中を付けたまま、しゃがみ込んだ。
自分の狙撃銃の銃口を上に向けると、臙脂色の帽子を、銃口の上に、かぶせた。帽子のツバを水平にするために、帽子の中央が、銃口の上になるように。
右側窓の右ななめ下から、少しずつ、帽子を上に上げた。
窓枠の右ななめ下から、臙脂色の帽子が、現れた。四分の一ほど。
その瞬間、銃声が響いた。
貫通した。銃弾が。臙脂色の帽子を。
引っかかった。罠に。署長が。
今が、絶好の好機だ。
署長が、次弾を装填するまでの時間は、おそらく三秒。
その三秒で、決めなければ。
躍り出た。ルビー・クールが。狙撃銃を構えながら。
上半身を、曝した。中央の窓に。
狙いを、つけた。一瞬で。
発砲した。
撃ち抜いた。
署長の頭部を。
叫んだ。
「狙撃、成功!」
歓声をあげた。パール・スノーが。
すぐさま、窓脇の壁に身を隠した。
署長以外の狙撃手も、いるかもしれないからだ。
「サファイア、念のために確認して。標的の状態を」
床からコンパクトを拾いあげ、小型双眼鏡を両目にあてて、確認した。サファイア・レインが。
「標的、死亡」
また、歓声をあげた。パール・スノーが。
そのときだった。
銃声が響いた。五月雨式に。
サファイア・レインが、叫んだ。
「狙撃手、多数! 警察署の二階の窓!」
一難去って、また一難か。
ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

【R15】アリア・ルージュの妄信
皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。
異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
さんざめく左手 ― よろず屋・月翔 散冴 ―
流々(るる)
ミステリー
【この男の冷たい左手が胸騒ぎを呼び寄せる。アウトローなヒーロー、登場】
どんな依頼でもお受けします。それがあなたにとっての正義なら
企業が表向きには処理できない事案を引き受けるという「よろず屋」月翔 散冴(つきかけ さんざ)。ある依頼をきっかけに大きな渦へと巻き込まれていく。彼にとっての正義とは。
サスペンスあり、ハードボイルドあり、ミステリーありの痛快エンターテイメント!
※さんざめく:さざめく=胸騒ぎがする(精選版 日本国語大辞典より)、の音変化。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる