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<第五章 第6話>

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  <第五章 第6話>
 ルビー・クールが、警部に命じた。冷たい声で。
 「ニコラウスとヴィクトールを、殺人罪で逮捕しなさい」
 警部は冷や汗を、どっと流していた。
 殺されると、思ったからだろう。パール・スノーに。
 「殺人罪だと? いったい、誰を殺したんだ?」
 警部はひたいの冷や汗をそでぬぐいながら、そう、とぼけた。
 「農村から出てきた少女たちを拉致して、殺しているのよ。ニコラウスは、すでに三十名以上殺している。川に浮かんだ少女の死体の半分は、ヴィクトールが殺したそうよ」
 「証拠があるのか?」
 「さっき、本人たちが自分で言っていたわ。ニコラウス、三十名の少女の死体を埋めた裏庭って、市長公邸の裏庭かしら?」
 「なんのことだ?」
 ニコラウスが、とぼけた。
 嫌みたっぷりの口調で、ルビー・クールが声をかけた。
 「あら、ニコラウス。あなた、警察に逮捕されるのが、怖いの? 自分の父は、この町の絶対的権力者だから、自分はどんな犯罪を犯しても逮捕されない。そう言ってたのに」
 「誰が、そんなこと言ったんだ?」
 また、とぼけた。ニコラウスが。
 「殺人を自白したら、警察に捕まって死刑になる。あなたは、それを恐れているのね。息子の逮捕を阻止できないなんて、あなたの父の権力は、ずいぶんと、ちっぽけなのね。ショボい権力者ね!」
 突然、激昂げきこうした。ニコラウスが。
 「オレ様のパパを、侮辱するんじゃねえ! パパは絶対的権力者だ! だからオレ様は、なにをやっても逮捕されない!」
 「だけど、殺人罪は別でしょ?」
 「別じゃない!」
 「だったら全部、話しなさいよ」
 ペラペラと、話し始めた。ニコラウスが。自ら犯した連続殺人事件を。
 ときおり、ルビー・クールが、質問をはさんだ。挑発しながら。
 その挑発に、ニコラウスは、簡単に乗ってきた。犯人しか知り得ない重要な事実も、饒舌じょうぜつに話した。
 ヴィクトールに感化されたのだろうが、凶悪な犯罪行為を、まるで自慢話のように、得意げに語り続けた。
 隣で、ヴィクトールが頭を抱えていた。彼は、理解しているのだ。警官たちの前で、犯罪行為の自白をすることが、極めてまずいことを。
 饒舌に語り続けるニコラウスに、ルビー・クールが尋ねた。
 「それで、少女たちの死体を埋めたのは、どこでしたっけ?」
 「屋敷の裏庭だって、言っただろ!」
 「屋敷って、市長公邸のことかしら?」
 「そうに決まってるだろ!」
 「では市長は、そのことを知っているわけね。あなたに、注意はしないの?」
 「メスブタを何匹殺そうと、そんなこと、気にするわけないだろ!」
 もう一度、尋ねた。言葉を換えて。
 「少女たちの拉致と殺人について、市長は、あなたに注意しないの?」
 「よそ者だけにしろ、って言うから、よそ者だけにしてんだよ!」
 この町の住民以外は、拉致して殺して良いということか。
 警部に視線を向けた。ルビー・クールが。
 「さあ、ニコラウスが、大量殺人を自白したわよ。それに、父親の市長が共犯であることも。これで、彼を逮捕しなければ、あなたは、悪徳警部であることが確定よ」
 そこでルビー・クールは、声を張りあげた。
 「それに、ここにいる警官全員も、悪徳警官確定よ! もし、正義の心が少しでもあるのなら、ニコラウスとヴィクトールを逮捕しなさい!」
 警部も、警官たちも、押し黙った。
 やはり彼らには、ニコラウスは逮捕できないのだ。
 警部が、口を開いた。冷や汗を流しながら。
 「口では、なんとでも言える。市長のご子息が口で言っているだけで、証拠がない」
 パール・スノーが叫んだ。
 「悪党死すべし!」
 その瞬間だった。
 銃声がひびいた。
 かすめた。銃弾が。
 ルビー・クールの帽子のすぐ近くを。右ななめ上だ。
 総毛立った。恐怖で。
 「狙撃よ!」
 悲鳴のような声で、そう叫んだ。サファイア・レインが。
 あわてて窓脇の壁に、身を隠した。ルビー・クールが。
 壁に背中をつけて、叫んだ。
 「どこから狙ってるの?」
 「警察署の三階、署長室よ!」
 サファイア・レインが答えた。
 百三十メートルの距離だ。
 相手は、かなりの凄腕すごうでだ。
 こんな田舎町にも、凄腕の狙撃手がいたとは。
 まずい状況だ。
 このままでは、身動きが取れない。
 どうしたものかと、ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。

   第六章「狙撃戦で絶体絶命」に続く
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