絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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<第五章 第5話>

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  <第五章 第5話>
 内線電話をかけた。一階の受付に。従業員三名に洗濯袋を持たせて、警官たちの銃を回収させるためだ。
 拳銃が二十一挺ならば、重量は二十一キログラム前後だ。ライフル銃は一挺四キロから五キログラムなので、五挺で二十キロから二十五キログラムだ。
 運ぶには、男手が三名は必要だ。
 しばらくすると、ホテルの玄関ドアが開き、三名の男性従業員が、洗濯袋を持って現れた。
 半開きの玄関ドアの陰から、パール・スノーが拳銃を構えている。彼女が拳銃で脅して、従業員に銃の回収を強制している、という設定だ。
 銃を全部回収したのを確認してから、三階の窓から、声をかけた。
 「今から、病院に電話をかけるわ。外科医が到着するまでの間、出血量を減らすために、負傷者の傷口を手で押さえなさい」
 そう言って、無傷の警官たち全員を、負傷者の近くに移動させた。
 本当の目的は、無傷の警官たちを、スイートルームの窓に近づけるためだ。
 無傷の警官たちのうち、最も遠い位置にいた者は、リビングルーム中央の窓から、二十五メートルほど離れていた。この距離だと、ルビー・クールの射撃の腕でも、はずすこともある。そこで、負傷者の近くに呼んだのだ。そうすれば、二十メートル以内の距離になる。その距離ならば、めったにはずさない。
 パール・スノーが、洗濯袋を持った男性従業員三名を引き連れて、スイートルームに戻って来た。従業員は皆、顔が青ざめていた。多くの死体を見たのだから、当然だろう。
 窓からの警官たちの監視を、パール・スノーに交代してもらい、ルビー・クールは、病院に電話をかけた。
 中央円形広場の北西に、大きな教会がある。その隣に、立派な教会附属病院がある。
 警部が、怒鳴った。三階の窓に向かって。
 「早く医者を呼べ!」
 ルビー・クールが窓辺に移動し、警部に答えた。
 「今、電話をかけたわ。催促のために、警官二名を、病院に派遣しても、いいわよ」
 警部が、すぐに命じた。二名の警官が、走り出した。病院に向かって。
 警部が、視線をルビー・クールに向けた。大声で、呼びかけた。
 「おまえら、絶対に逃げ切れんぞ。たとえ、この町から逃げることができたとしても、州警察からは、逃げ切れんぞ」
 あっさりと答えた。ルビー・クールが。
 「警察署長は、今回の一件を、州警察に報告しないわ」
 声を荒げた。思わず、警部が。
 「バカな! そんなわけ、あるか! これだけ多くの警官が、殺されたんだぞ!」
 「報告したら、州警察に不審に思われるからよ。スイートルームに宿泊していた女三名を、なぜ、警官隊は包囲したのか。その説明が、できないでしょ」
 一瞬、口ごもった。警部が。
 しかし数秒後、口を開いた。
 「できる!」
 「では、どのような容疑で、包囲したことにするの?」
 「窓から銃を乱射し、市民を大量殺戮さつりくした現行犯だ!」
 「市民って、ひょっとして、そこら辺に転がっているギャングたちの死体のことかしら?」
 「そうだ」
 「この町に、州警察の捜査員が来たら、すぐにバレるわよ。銃撃戦で死んだのは、市民ではなく凶悪なギャングで、しかもそのギャング組織と、この町の警察が、ズブズブの関係にあることが」
 血相を変えて、警部が怒鳴った。
 「そんな証拠、どこにある!」
 「ヴィクトールを逮捕していないのが、その証拠よ」
 「負傷している一般市民を逮捕する理由など、どこにもない!」
 「彼は、一般市民じゃない。死神団のボスの息子よ。あなたも、知ってるでしょ」
 「どこに、そんな証拠がある!」
 突然、激昂げきこうした。パール・スノーが。
 「言い訳も大概たいがいにしろ! この悪党が!」
 窓から身を乗り出し、銃口を向けた。パール・スノーが。警部に。
 「悪党死すべし!」
 「待ちなさい!」
 するどく叫んだ。ルビー・クールが。
 「めるなよ!」
 「これは命令よ! 銃口を降ろしなさい!」
 「あんたは、どっちの味方なんだ! 正義か、悪党か?」
 「あたしは、正義の味方よ。それに、あなたの味方。だけど、もう少し待ちなさい」
 パール・スノーが、ようやく銃口を降ろした。
 にらみつけながら、尋ねた。
 「待つ理由は?」
 「まあ、見てなさい」
 ルビー・クールは、警部に視線を向けた。
 冷ややかに見つめながら、言い放った。
 「あなたに、生きのびるチャンスをあげるわ。最後のチャンスになるかも、しれないわよ」
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