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<第四章 第2話>
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<第四章 第2話>
ニコラウスの手下十名全員が、走り出した。パール・スノーに向かって。
距離は、約十メートル。最も近い者で。
次の瞬間だった。
洗濯袋を落とした。パール・スノーが。
ほぼ同時に、ガンベルトのホルスターから、三十二口径六連発リボルバーを抜いた。左右同時に。
轟いた。銃声が。続けざまに。
男たち十名全員が、倒れた。
わずか二秒だった。
正面の四名は、パール・スノーが射殺した。左右の三十二口径で。みぞおちを撃ち抜いて。
その両脇の六名は、ルビー・クールが射殺した。三階の窓から。二十二口径の弾丸を、額に撃ち込んで。左右の拳銃で、三発ずつ発砲した。わずか二秒間の間に。
両膝を曲げて腰を低く落としていたパール・スノーが、背筋を伸ばし、直立した。二挺拳銃の銃口を、ニコラウスとヴィクトールに向けて。
絶叫した。ニコラウスが。
「なんだ、これは!」
信じられないのだ。この状況が。一瞬にして、自分の取り巻き十名が、皆殺しになったことに。
ツバを吐いた。パール・スノーが。道端に。
「あんた、あたしを襲うように命じただろ。落とし前は、つけてもらうよ」
歩を進めた。足早に。パール・スノーが。ニコラウスに、銃口を向けたまま。
「おまえら、何者だ! ただの女じゃないだろ!」
鼻で笑った。パール・スノーが。
「見れば、わかるだろ。ただの女じゃないことくらい。極上の美少女なんだから」
馬車道の真ん中あたりで、歩を止めた。
死神団が広場に現れてから、馬車は、一台も走っていない。特に、銃声が轟いてからは。
誰も、ギャングとのトラブルに、巻き込まれたくないからだ。
「おまえら、よその町のギャングか? ギャングの女たちか? なんの目的で、この町に……」
大声で怒鳴った。パール・スノーが。
「あたしは誰の女でもねえ! あたしは、あたし自身のものだ!」
撃鉄を起こした。右手の拳銃の。銃口を向けながら。
「待ちなさい!」
鋭く、叫んだ。ルビー・クールが。
振り返らずに、怒鳴った。パール・スノーが。
「止めるな! やらなきゃ、おさまらねえ!」
「ニコラウスは、人質よ。今、その男を殺すと、作戦計画に支障が出るわ」
「じゃあ、一発だけ撃たせろ」
「ダメよ」
「撃たせろよ!」
「あたしが、チーム・リーダーよ。ガンマ班の。あたしの作戦命令には、したがいなさい」
「おさまんねえ! やられたら、やり返すのが当然だろ!」
二秒ほど、沈黙した。ルビー・クールが。
「それなら、二十二口径にしなさい。足の甲なら、二十二口径で撃ってもいいわ。一発だけ」
三十二口径の弾丸ならば、重傷となる。たとえ、足でも。止血しなければ、出血多量で死にかねない。
だが、二十二口径の弾丸ならば、破壊力が小さい。出血量も少ない。止血しなくても、しばらくは、だいじょうぶだろう。
パール・スノーは、不満そうな顔ながら、右手の三十二口径を、ガンベルトの右前のホルスターに収めた。
腰の右横側ホルスターから、二十二口径のリボルバーを抜いた。
「右足と左足、どっちがいい?」
ニコラウスが、叫んだ。血の気の失せた顔で。
「オレ様は、市長の一人息子だぞ!」
「それが、どうした」
「市長は、この町の絶対的権力者だ! オレ様を傷つけたら、パパが黙ってないぞ!」
ツバを吐いた。パール・スノーが。
「クズ野郎が」
その直後、発砲した。
絶叫した。ニコラウスが。
右足の甲を、撃たれたのだ。二十二口径の弾丸で。
転げ回った。広場の石畳の上を。ニコラウスが、泣き叫びながら。
ルビー・クールが、声をかけた。
「パール! 戻って来なさい。敵の拳銃を回収して」
「了解」
ヴィクトールが、口を開いた。青ざめた顔で。
「医者を呼んでくれ。撃たれた右足の感覚が、なくなってきた」
振り返った。パール・スノーが。三階の窓のルビー・クールを。
「どうする? ルビー?」
ルビー・クールが直接、ヴィクトールに呼びかけた。
「自分で止血しなさい。首に巻いているスカーフとかで」
「オレも、大事な人質なんだろ! 医者ぐらい呼べよ! オレが死んだら、オヤジが、てめえらを絶対に許さねえ! 早く殺してくれって懇願するくらいの酷い地獄を見るぞ!」
冷ややかに答えた。ルビー・クールが。
「その程度のケガじゃ、死なないわ。それに、さっき言ったでしょ。地獄を見るのは、あなたたちよ」
ニコラウスの手下十名全員が、走り出した。パール・スノーに向かって。
距離は、約十メートル。最も近い者で。
次の瞬間だった。
洗濯袋を落とした。パール・スノーが。
ほぼ同時に、ガンベルトのホルスターから、三十二口径六連発リボルバーを抜いた。左右同時に。
轟いた。銃声が。続けざまに。
男たち十名全員が、倒れた。
わずか二秒だった。
正面の四名は、パール・スノーが射殺した。左右の三十二口径で。みぞおちを撃ち抜いて。
その両脇の六名は、ルビー・クールが射殺した。三階の窓から。二十二口径の弾丸を、額に撃ち込んで。左右の拳銃で、三発ずつ発砲した。わずか二秒間の間に。
両膝を曲げて腰を低く落としていたパール・スノーが、背筋を伸ばし、直立した。二挺拳銃の銃口を、ニコラウスとヴィクトールに向けて。
絶叫した。ニコラウスが。
「なんだ、これは!」
信じられないのだ。この状況が。一瞬にして、自分の取り巻き十名が、皆殺しになったことに。
ツバを吐いた。パール・スノーが。道端に。
「あんた、あたしを襲うように命じただろ。落とし前は、つけてもらうよ」
歩を進めた。足早に。パール・スノーが。ニコラウスに、銃口を向けたまま。
「おまえら、何者だ! ただの女じゃないだろ!」
鼻で笑った。パール・スノーが。
「見れば、わかるだろ。ただの女じゃないことくらい。極上の美少女なんだから」
馬車道の真ん中あたりで、歩を止めた。
死神団が広場に現れてから、馬車は、一台も走っていない。特に、銃声が轟いてからは。
誰も、ギャングとのトラブルに、巻き込まれたくないからだ。
「おまえら、よその町のギャングか? ギャングの女たちか? なんの目的で、この町に……」
大声で怒鳴った。パール・スノーが。
「あたしは誰の女でもねえ! あたしは、あたし自身のものだ!」
撃鉄を起こした。右手の拳銃の。銃口を向けながら。
「待ちなさい!」
鋭く、叫んだ。ルビー・クールが。
振り返らずに、怒鳴った。パール・スノーが。
「止めるな! やらなきゃ、おさまらねえ!」
「ニコラウスは、人質よ。今、その男を殺すと、作戦計画に支障が出るわ」
「じゃあ、一発だけ撃たせろ」
「ダメよ」
「撃たせろよ!」
「あたしが、チーム・リーダーよ。ガンマ班の。あたしの作戦命令には、したがいなさい」
「おさまんねえ! やられたら、やり返すのが当然だろ!」
二秒ほど、沈黙した。ルビー・クールが。
「それなら、二十二口径にしなさい。足の甲なら、二十二口径で撃ってもいいわ。一発だけ」
三十二口径の弾丸ならば、重傷となる。たとえ、足でも。止血しなければ、出血多量で死にかねない。
だが、二十二口径の弾丸ならば、破壊力が小さい。出血量も少ない。止血しなくても、しばらくは、だいじょうぶだろう。
パール・スノーは、不満そうな顔ながら、右手の三十二口径を、ガンベルトの右前のホルスターに収めた。
腰の右横側ホルスターから、二十二口径のリボルバーを抜いた。
「右足と左足、どっちがいい?」
ニコラウスが、叫んだ。血の気の失せた顔で。
「オレ様は、市長の一人息子だぞ!」
「それが、どうした」
「市長は、この町の絶対的権力者だ! オレ様を傷つけたら、パパが黙ってないぞ!」
ツバを吐いた。パール・スノーが。
「クズ野郎が」
その直後、発砲した。
絶叫した。ニコラウスが。
右足の甲を、撃たれたのだ。二十二口径の弾丸で。
転げ回った。広場の石畳の上を。ニコラウスが、泣き叫びながら。
ルビー・クールが、声をかけた。
「パール! 戻って来なさい。敵の拳銃を回収して」
「了解」
ヴィクトールが、口を開いた。青ざめた顔で。
「医者を呼んでくれ。撃たれた右足の感覚が、なくなってきた」
振り返った。パール・スノーが。三階の窓のルビー・クールを。
「どうする? ルビー?」
ルビー・クールが直接、ヴィクトールに呼びかけた。
「自分で止血しなさい。首に巻いているスカーフとかで」
「オレも、大事な人質なんだろ! 医者ぐらい呼べよ! オレが死んだら、オヤジが、てめえらを絶対に許さねえ! 早く殺してくれって懇願するくらいの酷い地獄を見るぞ!」
冷ややかに答えた。ルビー・クールが。
「その程度のケガじゃ、死なないわ。それに、さっき言ったでしょ。地獄を見るのは、あなたたちよ」
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