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<第三章 第4話>

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  <第三章 第4話>
 床にせる際に、帽子ぼうしが舞い上がった。ツバの幅が広いため、空気抵抗が大きいからだ。
 その帽子に、銃弾があたったように見えたのだろう。
 ヴィクトールが、ニコラウスにびた。
 「悪かったな。だが、まだ美女が二名いるんだろ?」
 床に落ちた帽子を放置したまま、ルビー・クールは匍匐前進ほふくぜんしんで、中央の窓の左側に、移動した。
 立ち上がり、窓の横から顔を半分だけ出して、外を見た。
 小声で指示した。サファイア・レインとパール・スノーに。手振りもまじえて。
 彼女たちは、左右の窓の脇の壁に、背中をつけている。
 無言で二人が、うなずいた。
 小声で、ささやいた。ルビー・クールが。
 「三、二、一、ゼロ」
 窓から、身を乗り出した。三名の少女が。
 発砲した。同時に。二ちょう拳銃で。三名の少女が。
 ルビー・クールが左手で撃った弾丸は、ヴィクトールの拳銃を弾き飛ばした。
 彼の後方にいた下級幹部五名が、倒れた。少女たちの銃撃によって。
 そのうち四名は、即死だった。
 もう一名は、右肩を撃たれた。サファイア・レインが左手で撃った男だ。彼女は三人の中では、最も腕力が弱い。そのため左手の射撃は、命中精度が落ちる。
 だが、その直後、撃ち殺した。負傷した下級幹部を。ルビー・クールが。
 次々に、発砲した。三名の少女たちが。
 六秒から七秒で、全弾撃ち尽くした。三名合計で三十六発を。
 ヴィクトールの部下百名のうち、三分の一以上が死傷した。
 彼らは、呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。銃弾の雨に、さらされているのに。
 起きている事態を、理解できないのだ。
 三名の少女たちは、弾切たまぎれの拳銃をホルスターに戻すと、新しい拳銃を二挺、いた。
 かかった時間は、ルビー・クールは二秒、パール・スノーは三秒、サファイア・レインは三秒半だ。
 続けざまに発砲した。三名の少女たちが。ルビー・クールは、集団の後方を。パール・スノーは前方右側、サファイア・レインは前方左側を、銃撃した。
 ふたたび、全弾撃ち尽くした。六秒から七秒で。
 阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図だ。
 絶叫し、泣き叫んでいた。負傷者も、無傷の者も。激痛と、恐怖で。
 三名の少女たちは、みたび、新しい拳銃二挺を、ホルスターから抜いた。
 銃撃を再開した。全弾、撃ち尽くすまで。
 撃ち尽くした。三十二口径の弾丸を。三名で、総計百八発。
 全滅した。ヴィクトール率いるギャングたちが。三十秒ほどで。
 最も後方の少年二名が、走って逃げ出した。
 パール・スノーが、叫んだ。
 「ルビー! 二名逃げたわよ。あんたの担当エリアでしょ!」
 「わざと逃がしたのよ。死神団のボスを、おびき出すために、ね」
 サファイア・レインとパール・スノーは、壁に背をつけて片膝をついた。弾切れとなった拳銃に、新しい弾丸を装填そうてんし始めた。空薬莢からやっきょうは床には捨てず、ボストンバッグの中に排出した。
 証拠品を、残さないためだ。
 ルビー・クールは、腰の左右のホルスターから、二十二口径十連発リボルバーを抜いて、窓の外に銃口を向けた。
 二十二口径は威力が弱いため、脳か心臓に確実にあてないかぎり、即死させることはできない。
 時間稼ぎを、しなければならない。サファイア・レインとパール・スノーが、三十二口径の弾丸を装填し終わるまで。
 地面に落ちた拳銃を拾った者がいたら、銃撃するつもりだった。
 しかし、その必要は、ないようだ。
 なぜなら、ヴィクトールの部下のうち、わざと逃がした二名を除いた九十八名は、全員、死亡か重傷だったからだ。
 ルビー・クールは、一発も、はずさなかった。全員、頭部を撃ち抜いて射殺した。
 パール・スノーは、胴体の中心を狙って銃撃した。半分ほどは狙いをはずさず、即死させた。残りの半分は、数センチメートルほどズレたため即死しなかったが、重傷だ。重傷者は、そのまま放置すれば、出血多量で死亡する。
 サファイア・レインは、右手の射撃は、誤差が十センチメートル以内だったため、死亡か重傷だ。
 だが、左手の射撃は、誤差が十センチメートルを超えた。そのため、軽傷でんだ者が、半数ほどいた。
 軽傷者に対しては、右手の拳銃で、二発目を撃ち込み、確実に仕留めた。
 それに、彼女が仕留め損なった標的の一部は、ルビー・クールが射殺した。
 絶叫した。ヴィクトールが。
 「なんなんだ、これは!」
 冷ややかに笑った。ルビー・クールが。左右の銃口を、ヴィクトールとニコラウスに向けながら。
 「当然でしょ。人を殺そうとしたら、殺し合いになるのは。それとも、その覚悟もなく、人に向けて発砲したの?」
 怒鳴りまくった。ヴィクトールが。
 「てめえ、ただですむと思うなよ! こんなことしやがって!」
 鼻で笑った。ルビー・クールが。
 ニコラウスと、取り巻きの青年十名は、真っ青な顔で、立ち尽くしている。
 言い放った。冷ややかに。ルビー・クールが。
 「あたしの逆襲の時間は、始まったばかり。極悪非道の所業を続けてきたあなたたちが、地獄を見るのは、これからよ!」

   第四章「ギャングのボス登場で絶体絶命」に続く
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