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<第三章 第2話>
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<第三章 第2話>
受付の青年が、叫び始めた。
「副支配人! 副支配人!」
そう叫びながら、受付の奥にある事務室に駆け込んだ。
副支配人が現れた。中年の痩せた小男だ。
ルビー・クールが、尋ねた。支配人はどこか、と。
今日は土曜日のため、支配人は十二時に勤務を終え、帰宅したとのことだ。
そこで、副支配人に説明した。事情を。
真っ青になった。副支配人も。
「市長のボンボン、ついに、よその町から来たブルジョアのお嬢様たちにまで、手を出すとは……」
そうつぶやきながら、頭を抱えた。
冷ややかな笑みを湛えながら、ルビー・クールが助言した。
「このホテルのオーナーは市議会議員でしょ。オーナーに電話したら? 市議が、市長に事情を話せば、市長がニコラウスを止めるかもしれないわ。自分の息子なんだから」
「そうだ。電話だ!」
副支配人が、慌てて電話をかけ始めた。事務室に駆け戻って。
受付の青年に頼んで、ボーイなどの従業員を集めてもらった。
彼らに、指示した。銅貨一枚十キャピタ(著者注:日本円で千円相当)を、チップとして渡して。
手分けして、ホテルの一階の戸締まりを、してもらった。
ホテルの二階の部屋は、現在、満室に近いようだ。だが昼間なので、宿泊客は全員、外出中だ。
そのときだった。
リリアが階段から降りてきた。
叫んだ。階段の途中で。真っ青な顔で。
「ルビー様! サファイア様からの伝言です! 敵の集団、接近中!」
「了解。今、行くわ!」
そう答えた。ルビー・クールが。
ククッと、笑った。パール・スノーが。
早足で階段に向かいながら、尋ねた。ルビー・クールが、パール・スノーに。
「楽しそうね。顔がニヤけてるわよ」
「あたしの小学生のときの夢は、士官学校を卒業して、戦場で敵と戦うこと。父のようにね」
「実現不可能な夢ね。帝国士官学校は、女は入学できないから」
「だけど今、敵と戦える。銃撃戦になる」
「良かったわね。夢が叶って。半分未満だけど」
「半分だろ」
怒気を、含んでいた。パール・スノーの口調は。
平然と、答えた。ルビー・クールが。
「半分を、だいぶ下回るわ。マフィアやギャングとの戦いなんて、しょせん銃撃戦だけ。砲弾は飛んでこないわ。実際の戦場より、だいぶ楽よ」
「あんた、戦場は体験したことないだろ」
「そうね。だけど、市街戦は経験しているわよ。帝都大乱のときに、ね」
ルビー・クールとパール・スノーは、三階のスイートルームに戻った。リリアと共に。
リビングルームの窓から監視していたサファイア・レインが、振り返った。
「敵の数は、百一名よ。ニコラウスたち十一名を加えると百十二名よ」
「距離は?」
「大部分は、西側の街道口に、たむろしているわ。十数名が、その周辺で、聞き込みをしているようね」
ルビー・クールも、窓から広場を眺めた。
まるで、浜辺の波が引くようだった。
ギャングの集団が西から現れたため、広場にいた人々が、北、南、東に向かって、足早に移動していた。
誰も、死神団とは、関わり合いたくないのだ。
広場の出店や屋台も、次々に店じまいを始めた。
広場の周囲の店舗も、店じまいを始めた。
十数分間くらいで、広場から人がいなくなった。ニコラウスたちと、死神団以外は。
ルビー・クールが、いくつか指示を出した。
リリアは、ベッドルームへ行き、ベッドの陰に隠れた。窓から離れて。流れ弾に、あたらないように。
リビングルームには、窓が三つある。
中央の窓は、ルビー・クールの担当。右側の窓はパール・スノーで、左側の窓はサファイア・レインの担当だ。
三名とも、窓脇の壁に背中をつけて、身を隠した。
それから、ルビー・クールだけが、窓の前に立った。
窓の高さは、ルビー・クールのヘソの辺りだ。そのため、窓の前に普通に立つと、ガンベルトの一部が見えてしまう。そこで、両足を肩幅の広さに開き、少し膝を曲げて腰を落とし、ガンベルトが見えないようにした。
腋の下のホルスターは、ジャケットの下なので、見えないはずだ。
目立つように、臙脂色の帽子もかぶった。
しばらく窓から眺めていると、ニコラウスの取り巻きたちが、気づいた。ルビー・クールに。
彼らが、一直線に向かってきた。広場を横切って。ルビー・クールのいるホテルに向かって。
小声で、ささやいた。サファイア・レインとパール・スノーに。
「もうすぐ、戦闘開始よ」
受付の青年が、叫び始めた。
「副支配人! 副支配人!」
そう叫びながら、受付の奥にある事務室に駆け込んだ。
副支配人が現れた。中年の痩せた小男だ。
ルビー・クールが、尋ねた。支配人はどこか、と。
今日は土曜日のため、支配人は十二時に勤務を終え、帰宅したとのことだ。
そこで、副支配人に説明した。事情を。
真っ青になった。副支配人も。
「市長のボンボン、ついに、よその町から来たブルジョアのお嬢様たちにまで、手を出すとは……」
そうつぶやきながら、頭を抱えた。
冷ややかな笑みを湛えながら、ルビー・クールが助言した。
「このホテルのオーナーは市議会議員でしょ。オーナーに電話したら? 市議が、市長に事情を話せば、市長がニコラウスを止めるかもしれないわ。自分の息子なんだから」
「そうだ。電話だ!」
副支配人が、慌てて電話をかけ始めた。事務室に駆け戻って。
受付の青年に頼んで、ボーイなどの従業員を集めてもらった。
彼らに、指示した。銅貨一枚十キャピタ(著者注:日本円で千円相当)を、チップとして渡して。
手分けして、ホテルの一階の戸締まりを、してもらった。
ホテルの二階の部屋は、現在、満室に近いようだ。だが昼間なので、宿泊客は全員、外出中だ。
そのときだった。
リリアが階段から降りてきた。
叫んだ。階段の途中で。真っ青な顔で。
「ルビー様! サファイア様からの伝言です! 敵の集団、接近中!」
「了解。今、行くわ!」
そう答えた。ルビー・クールが。
ククッと、笑った。パール・スノーが。
早足で階段に向かいながら、尋ねた。ルビー・クールが、パール・スノーに。
「楽しそうね。顔がニヤけてるわよ」
「あたしの小学生のときの夢は、士官学校を卒業して、戦場で敵と戦うこと。父のようにね」
「実現不可能な夢ね。帝国士官学校は、女は入学できないから」
「だけど今、敵と戦える。銃撃戦になる」
「良かったわね。夢が叶って。半分未満だけど」
「半分だろ」
怒気を、含んでいた。パール・スノーの口調は。
平然と、答えた。ルビー・クールが。
「半分を、だいぶ下回るわ。マフィアやギャングとの戦いなんて、しょせん銃撃戦だけ。砲弾は飛んでこないわ。実際の戦場より、だいぶ楽よ」
「あんた、戦場は体験したことないだろ」
「そうね。だけど、市街戦は経験しているわよ。帝都大乱のときに、ね」
ルビー・クールとパール・スノーは、三階のスイートルームに戻った。リリアと共に。
リビングルームの窓から監視していたサファイア・レインが、振り返った。
「敵の数は、百一名よ。ニコラウスたち十一名を加えると百十二名よ」
「距離は?」
「大部分は、西側の街道口に、たむろしているわ。十数名が、その周辺で、聞き込みをしているようね」
ルビー・クールも、窓から広場を眺めた。
まるで、浜辺の波が引くようだった。
ギャングの集団が西から現れたため、広場にいた人々が、北、南、東に向かって、足早に移動していた。
誰も、死神団とは、関わり合いたくないのだ。
広場の出店や屋台も、次々に店じまいを始めた。
広場の周囲の店舗も、店じまいを始めた。
十数分間くらいで、広場から人がいなくなった。ニコラウスたちと、死神団以外は。
ルビー・クールが、いくつか指示を出した。
リリアは、ベッドルームへ行き、ベッドの陰に隠れた。窓から離れて。流れ弾に、あたらないように。
リビングルームには、窓が三つある。
中央の窓は、ルビー・クールの担当。右側の窓はパール・スノーで、左側の窓はサファイア・レインの担当だ。
三名とも、窓脇の壁に背中をつけて、身を隠した。
それから、ルビー・クールだけが、窓の前に立った。
窓の高さは、ルビー・クールのヘソの辺りだ。そのため、窓の前に普通に立つと、ガンベルトの一部が見えてしまう。そこで、両足を肩幅の広さに開き、少し膝を曲げて腰を落とし、ガンベルトが見えないようにした。
腋の下のホルスターは、ジャケットの下なので、見えないはずだ。
目立つように、臙脂色の帽子もかぶった。
しばらく窓から眺めていると、ニコラウスの取り巻きたちが、気づいた。ルビー・クールに。
彼らが、一直線に向かってきた。広場を横切って。ルビー・クールのいるホテルに向かって。
小声で、ささやいた。サファイア・レインとパール・スノーに。
「もうすぐ、戦闘開始よ」
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