絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

文字の大きさ
上 下
7 / 138

第二章 悪徳警官登場で絶体絶命 <第1話>

しおりを挟む
  <第二章 第1話>
 ルビー・クールは、冷ややかに見つめた。二人の制服警官を。
 一人は三十歳代で、もう一人は二十歳代くらいだ。身長は、二人とも百六十五センチメートルくらいだ。労働者階級出身者としては、高いほうだ。
 三十歳代のほうは中年太りで、二十歳代のほうは、筋肉量が少ない。
 つまり、二人とも弱そうだ。
 まじめに、逮捕術や警棒術の訓練をしている体つきには、見えない。帝都の警官のほうが、強そうだ。
 とぼけた。ルビー・クールが。
 「あたしが、誰を暴行したって言うのかしら?」
 「市長のご子息と、そのご友人たちを、叩きのめしただろ?」
 「あたしが? どうやって?」
 「その日傘で、だ!」
 「日傘で、女が男を失神させることなんて、できるのかしら? そもそも、あなたたちは、目撃していないでしょ。市長の息子が短剣を出して、少女を殺すと脅したときに、あなたたちのことを呼んだのに、あなたたちは背を向けて立ち去った」
 一瞬、口ごもった。警官たちが。
 三十歳代の警官が、気を取り直し、答えた。
 「目撃者がいる」
 「どこに?」
 ルビー・クールが、そう尋ねたときだった。
 群衆の一人が、叫んだ。
 「目撃者を出せ! オレは、なにも見てないぞ!」
 「そうだ! わたしも、なにも見ていない! ここにいたけど」
 次々に、群衆たちが、叫び始めた。「目撃者を出せ」「証人を出せ」と。
 動揺した。二名の警察官が。特に、若いほうの警官が。
 中年の警官が、突然怒鳴った。警棒を振り上げ、周囲の群衆を威嚇いかくしながら。
 「騒乱罪だ! おまえら、だまらんと、全員、騒乱罪で逮捕するぞ!」
 その一喝いっかつで、思わず、群衆が黙り込んだ。
 ニヤリと、笑った。中年警官が。わるそうなみだった。
 「おい、赤毛の女。おまえは騒乱罪の現行犯だ。だが、よそ者のようだから、今すぐこの町から立ち去るなら、罰金刑で、勘弁してやろう」
 無言で見つめた。ルビー・クールが、その警官を。内心、軽蔑しながら。
 どうせ、賄賂の要求だろう。
 さきほど、新聞売りの少年ポールから、話を聞いた。
 見回りの制服警官たちは、この広場で商売をする小商人たちから、カネをむしり取っている。罰金と称して。
 もともとこの中央円形広場は、商売禁止のようだ。
 だが、罰金という名称の所場代を、毎週、警官に払えば、営業を黙認してもらえる。
 とはいえ、むしり取るのは、所場代だけではない。
 もうかっている屋台や出店には、言いがかりをつけて、金品を要求している。
 たとえば、販売した雑貨が不良品だった、野菜が傷んでいた、果物の中に虫が入っていた、などの言いがかりだ。
 被害者から、詐欺の容疑で告訴状が出た。被害者に告訴を取り下げてもらうためには、カネが必要だ。そう言って、稼ぎをむしり取ろうとする。
 その被害者に会わせろ。直接賠償する。そう言っても、無視される。
 被害者は架空で、実際には、存在しないからだ。
 そうしたカネの支払いを拒否して、詐欺罪で逮捕され、留置場にぶち込まれた小商人が、何人も、いるようだ。
 もっとも、少額の賄賂で、トラブルを回避できるのなら、それも悪くない。
 そう思ったときだった。
 中年警官が、ニヤつきながら要求した。
 「罰金は、五百キャピタ、いや、千五百キャピタだ」
 (著者注:千五百キャピタは、日本円で十五万円相当)
 その瞬間だった。
 激昂げきこうした。パール・スノーが。日傘を振り上げて。
 振り下ろした。鋼鉄製の日傘を。中年警官の脳天に。
 失神した。その一撃で。中年警官が。
 悲鳴をあげた。サファイア・レインが。
 「パール! なにやってるのよ! 制服警官に対して!」
 ツバをきかけた。パール・スノーが。倒れた中年警官に。
 眉をしかめながら、ルビー・クールが注意した。
 「やめなさいよ、パール。ツバを吐くなんて、下品よ」
 悲鳴のような声で叫んだ。サファイア・レインが。
 「そっちのほうなの? 制服警官に暴行を加えたのよ! どうすんのよ! このあと!」
 「そうだ! そのとおりだ! おまえら、制服警官に暴力を振るって、ただですむと思うのか!」
 二十歳代の警官が、そう怒鳴った。
 視線を向けた。ルビー・クールが。無表情で。
 「あら、どうなるのかしら?」
 一瞬、口ごもった。青年の警官が。
 だが、気を取り直して、怒鳴りつけた。
 「国家反逆罪だ! 国家反逆罪で、死刑だ!」
 ルビー・クールは、頭を抱えた。心の中で。想定外の深刻な罪名を、突きつけられて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...