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第二章 悪徳警官登場で絶体絶命 <第1話>
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<第二章 第1話>
ルビー・クールは、冷ややかに見つめた。二人の制服警官を。
一人は三十歳代で、もう一人は二十歳代くらいだ。身長は、二人とも百六十五センチメートルくらいだ。労働者階級出身者としては、高いほうだ。
三十歳代のほうは中年太りで、二十歳代のほうは、筋肉量が少ない。
つまり、二人とも弱そうだ。
まじめに、逮捕術や警棒術の訓練をしている体つきには、見えない。帝都の警官のほうが、強そうだ。
素っ恍けた。ルビー・クールが。
「あたしが、誰を暴行したって言うのかしら?」
「市長のご子息と、そのご友人たちを、叩きのめしただろ?」
「あたしが? どうやって?」
「その日傘で、だ!」
「日傘で、女が男を失神させることなんて、できるのかしら? そもそも、あなたたちは、目撃していないでしょ。市長の息子が短剣を出して、少女を殺すと脅したときに、あなたたちのことを呼んだのに、あなたたちは背を向けて立ち去った」
一瞬、口ごもった。警官たちが。
三十歳代の警官が、気を取り直し、答えた。
「目撃者がいる」
「どこに?」
ルビー・クールが、そう尋ねたときだった。
群衆の一人が、叫んだ。
「目撃者を出せ! オレは、なにも見てないぞ!」
「そうだ! わたしも、なにも見ていない! ここにいたけど」
次々に、群衆たちが、叫び始めた。「目撃者を出せ」「証人を出せ」と。
動揺した。二名の警察官が。特に、若いほうの警官が。
中年の警官が、突然怒鳴った。警棒を振り上げ、周囲の群衆を威嚇しながら。
「騒乱罪だ! おまえら、黙らんと、全員、騒乱罪で逮捕するぞ!」
その一喝で、思わず、群衆が黙り込んだ。
ニヤリと、笑った。中年警官が。悪そうな笑みだった。
「おい、赤毛の女。おまえは騒乱罪の現行犯だ。だが、よそ者のようだから、今すぐこの町から立ち去るなら、罰金刑で、勘弁してやろう」
無言で見つめた。ルビー・クールが、その警官を。内心、軽蔑しながら。
どうせ、賄賂の要求だろう。
さきほど、新聞売りの少年ポールから、話を聞いた。
見回りの制服警官たちは、この広場で商売をする小商人たちから、カネをむしり取っている。罰金と称して。
もともとこの中央円形広場は、商売禁止のようだ。
だが、罰金という名称の所場代を、毎週、警官に払えば、営業を黙認してもらえる。
とはいえ、むしり取るのは、所場代だけではない。
儲かっている屋台や出店には、言いがかりをつけて、金品を要求している。
たとえば、販売した雑貨が不良品だった、野菜が傷んでいた、果物の中に虫が入っていた、などの言いがかりだ。
被害者から、詐欺の容疑で告訴状が出た。被害者に告訴を取り下げてもらうためには、カネが必要だ。そう言って、稼ぎをむしり取ろうとする。
その被害者に会わせろ。直接賠償する。そう言っても、無視される。
被害者は架空で、実際には、存在しないからだ。
そうしたカネの支払いを拒否して、詐欺罪で逮捕され、留置場にぶち込まれた小商人が、何人も、いるようだ。
もっとも、少額の賄賂で、トラブルを回避できるのなら、それも悪くない。
そう思ったときだった。
中年警官が、ニヤつきながら要求した。
「罰金は、五百キャピタ、いや、千五百キャピタだ」
(著者注:千五百キャピタは、日本円で十五万円相当)
その瞬間だった。
激昂した。パール・スノーが。日傘を振り上げて。
振り下ろした。鋼鉄製の日傘を。中年警官の脳天に。
失神した。その一撃で。中年警官が。
悲鳴をあげた。サファイア・レインが。
「パール! なにやってるのよ! 制服警官に対して!」
ツバを吐きかけた。パール・スノーが。倒れた中年警官に。
眉をしかめながら、ルビー・クールが注意した。
「やめなさいよ、パール。ツバを吐くなんて、下品よ」
悲鳴のような声で叫んだ。サファイア・レインが。
「そっちのほうなの? 制服警官に暴行を加えたのよ! どうすんのよ! このあと!」
「そうだ! そのとおりだ! おまえら、制服警官に暴力を振るって、ただですむと思うのか!」
二十歳代の警官が、そう怒鳴った。
視線を向けた。ルビー・クールが。無表情で。
「あら、どうなるのかしら?」
一瞬、口ごもった。青年の警官が。
だが、気を取り直して、怒鳴りつけた。
「国家反逆罪だ! 国家反逆罪で、死刑だ!」
ルビー・クールは、頭を抱えた。心の中で。想定外の深刻な罪名を、突きつけられて。
ルビー・クールは、冷ややかに見つめた。二人の制服警官を。
一人は三十歳代で、もう一人は二十歳代くらいだ。身長は、二人とも百六十五センチメートルくらいだ。労働者階級出身者としては、高いほうだ。
三十歳代のほうは中年太りで、二十歳代のほうは、筋肉量が少ない。
つまり、二人とも弱そうだ。
まじめに、逮捕術や警棒術の訓練をしている体つきには、見えない。帝都の警官のほうが、強そうだ。
素っ恍けた。ルビー・クールが。
「あたしが、誰を暴行したって言うのかしら?」
「市長のご子息と、そのご友人たちを、叩きのめしただろ?」
「あたしが? どうやって?」
「その日傘で、だ!」
「日傘で、女が男を失神させることなんて、できるのかしら? そもそも、あなたたちは、目撃していないでしょ。市長の息子が短剣を出して、少女を殺すと脅したときに、あなたたちのことを呼んだのに、あなたたちは背を向けて立ち去った」
一瞬、口ごもった。警官たちが。
三十歳代の警官が、気を取り直し、答えた。
「目撃者がいる」
「どこに?」
ルビー・クールが、そう尋ねたときだった。
群衆の一人が、叫んだ。
「目撃者を出せ! オレは、なにも見てないぞ!」
「そうだ! わたしも、なにも見ていない! ここにいたけど」
次々に、群衆たちが、叫び始めた。「目撃者を出せ」「証人を出せ」と。
動揺した。二名の警察官が。特に、若いほうの警官が。
中年の警官が、突然怒鳴った。警棒を振り上げ、周囲の群衆を威嚇しながら。
「騒乱罪だ! おまえら、黙らんと、全員、騒乱罪で逮捕するぞ!」
その一喝で、思わず、群衆が黙り込んだ。
ニヤリと、笑った。中年警官が。悪そうな笑みだった。
「おい、赤毛の女。おまえは騒乱罪の現行犯だ。だが、よそ者のようだから、今すぐこの町から立ち去るなら、罰金刑で、勘弁してやろう」
無言で見つめた。ルビー・クールが、その警官を。内心、軽蔑しながら。
どうせ、賄賂の要求だろう。
さきほど、新聞売りの少年ポールから、話を聞いた。
見回りの制服警官たちは、この広場で商売をする小商人たちから、カネをむしり取っている。罰金と称して。
もともとこの中央円形広場は、商売禁止のようだ。
だが、罰金という名称の所場代を、毎週、警官に払えば、営業を黙認してもらえる。
とはいえ、むしり取るのは、所場代だけではない。
儲かっている屋台や出店には、言いがかりをつけて、金品を要求している。
たとえば、販売した雑貨が不良品だった、野菜が傷んでいた、果物の中に虫が入っていた、などの言いがかりだ。
被害者から、詐欺の容疑で告訴状が出た。被害者に告訴を取り下げてもらうためには、カネが必要だ。そう言って、稼ぎをむしり取ろうとする。
その被害者に会わせろ。直接賠償する。そう言っても、無視される。
被害者は架空で、実際には、存在しないからだ。
そうしたカネの支払いを拒否して、詐欺罪で逮捕され、留置場にぶち込まれた小商人が、何人も、いるようだ。
もっとも、少額の賄賂で、トラブルを回避できるのなら、それも悪くない。
そう思ったときだった。
中年警官が、ニヤつきながら要求した。
「罰金は、五百キャピタ、いや、千五百キャピタだ」
(著者注:千五百キャピタは、日本円で十五万円相当)
その瞬間だった。
激昂した。パール・スノーが。日傘を振り上げて。
振り下ろした。鋼鉄製の日傘を。中年警官の脳天に。
失神した。その一撃で。中年警官が。
悲鳴をあげた。サファイア・レインが。
「パール! なにやってるのよ! 制服警官に対して!」
ツバを吐きかけた。パール・スノーが。倒れた中年警官に。
眉をしかめながら、ルビー・クールが注意した。
「やめなさいよ、パール。ツバを吐くなんて、下品よ」
悲鳴のような声で叫んだ。サファイア・レインが。
「そっちのほうなの? 制服警官に暴行を加えたのよ! どうすんのよ! このあと!」
「そうだ! そのとおりだ! おまえら、制服警官に暴力を振るって、ただですむと思うのか!」
二十歳代の警官が、そう怒鳴った。
視線を向けた。ルビー・クールが。無表情で。
「あら、どうなるのかしら?」
一瞬、口ごもった。青年の警官が。
だが、気を取り直して、怒鳴りつけた。
「国家反逆罪だ! 国家反逆罪で、死刑だ!」
ルビー・クールは、頭を抱えた。心の中で。想定外の深刻な罪名を、突きつけられて。
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