絶体絶命ルビー・クールの逆襲<炎の反逆者編>

蛇崩 通

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第一章 見知らぬ土地で絶体絶命 <第1話>

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  <第一章 第1話>
 五月の最初の土曜日。午前十一時過ぎ。地方都市の繁華街。
 雑踏の中で、道に迷っていた。
 黒髪の美少女パール・スノーが、ぼやいた。
 「人混みがひどくて、どっちがどっちか、わからないわ」
 金髪碧眼の美少女サファイア・レインが、小言を言った。
 「パール、あなたが言ったんでしょ。広場を突っ切れば、最短距離だって」
 「まさか、こんなに人が多くて、そのうえ屋台やら出店でみせやらで、方角がわからなくなるとは、思わなかったわ」
 赤毛の美少女ルビー・クールが、振り返って口を開いた。
 「たぶん今いるところが、中央円形広場の真ん中あたり。広場から東に延びる道路の先に、あたしたちが降りた鉄道の駅、広場の北東側に、チェックインしたホテル、広場から西へ延びる道路を行けば、目的地の馬車ターミナルがあるはず」
 そう話しながら、右手のポケットから、方位磁石を取り出した。
 「西側は、向こうよ」
 「方位磁石って、士官学校の野外演習かよ!」
 思わずパール・スノーが、ツッコミを入れた。
 サファイア・レインが、眉をしかめた。
 「今いる場所が、中央円形広場の真ん中とは限らないわ。だから、西に進んでも、馬車ターミナルに、たどり着けるとは限らないわよ。まずは、いったん北側に向かって広場を出てから、環状道路を時計回りに、まわりましょう。それが確実な方法よ」
 「そうね」
 あっさりと、ルビー・クールは同意した。
 「マジかよ。どんだけ歩くんだよ」
 パール・スノーは、不満そうだ。
 そのときだった。
 人混みの中から、叫び声が聞こえた。
 若い女性の声だ。
 「はなして! いやよイヤ! 誰か助けて!」
 「何事かしら?」
 そのサファイア・レインの言葉に、パール・スノーが吐き捨てた。
 「どうせ、痴話げんかだろ」
 「ちょっと、行ってみましょう」
 「ちょっと、ルビー! 余計な事に首を突っ込まない方が……」
 サファイア・レインの制止の言葉を無視し、ルビー・クールは、人混みの中に分け入った。
 「もう、ルビーったら」
 文句を言いながらも、サファイア・レインがあとを追いかけた。さらにそのあとを、パール・スノーが文句を吐きながら、追いかけた。
 人混みを抜けると、広い空間が広がっていた。通行人が、騒ぎを遠巻きに眺めていたからだ。
 騒ぎの中心にいたのは、背の高い金髪の青年だ。身長は百八十センチメートル近くありそうだ。
 彼に腕をつかまれて抵抗しているのは、小柄な金髪の少女だ。身長は百五十センチメートルくらいか。
 青年のほうは、金持ちのようだ。着ている服が、上等だからだ。
 一方、少女は、見るからに粗末な服装だ。だが、布地は丈夫そうで、いかにも農家の娘といった感じだ。
 少女が、必死になって叫んだ。
 「誰か、助けて! お願いよ!」
 だが、誰も助けない。傍観しているか、見て見ぬふりをしている。
 進み出た。ルビー・クールが。左手に持っていた白い日傘を、右手に持ち替えながら。
 その日傘は閉じており、傘が広がらないように、紐のボタンは留めてある。
 「ちょっと、やめなさいよ。彼女、イヤがってるでしょ」
 金髪長身青年が、怒鳴った。視線を向けずに。
 「オレ様に指図さしずしてんじゃねえ! メスブタが! 屠殺とさつするぞ!」
 その直後、振り返った。その青年が。
 ルビー・クールを見た。
 その瞬間、彼は大きく目を見開いた。
 「極上の女!」
 思わず、そう叫んだ。その青年が。
 たしかに、そうだろう。
 ルビー・クールが着ている私服は、帝都の婦人服店で仕立てた。帝都の貴族区や、平民区の高級住宅街では、普通の水準の品質だ。しかし田舎町のここでは、ほかの女性よりも、明らかに上等な服だ。それに服のデザインも、この町の婦人服とは、大きく異なっている。
 ルビー・クールの服装は、上半身は、ハイネックの白い絹製ブラウスの上に、臙脂えんじ色のウールのジャケットを着ている。すでに五月なので、薄手のウールだ。首には、赤い絹製スカーフを巻いている。下半身は、臙脂色のウール製ひだ付きロングスカートだ。
 おまけに、オシャレなツバの広い帽子ぼうしもかぶっている。服に合わせて、帽子も臙脂色だ。
 金髪長身青年が、叫んだ。歓喜の表情で。
 「極上の女が、三人も!」
 サファイア・レインとパール・スノーが、ルビー・クールに追いつき、並び立った。
 彼女たちも、ルビー・クールと同じデザインの服を着、帽子をかぶっている。ただし、色違いだ。サファイア・レインは明るい空色で、パール・スノーは濃紺だ。彼女たちも、右手に、閉じたままの白い日傘を持っている。
 金髪長身青年が、大声で怒鳴った。気味の悪い笑みを浮かべて。
 「おまえら三人とも、今からオレ様の女だ!」
 ルビー・クールは、頭を抱えた。心の中で。
 なんなのか、このバカ男は。そう思いながら。
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