35 / 41
<第五章 第4話:愛人の是非>
しおりを挟む
<第五章 第4話:愛人の是非>
クマートの屋敷に、着いた。
広々としたリビングルームの中央には、五人掛けのロングソファーが四脚、ロの字型に置かれている。
各ソファーの前には、ローテーブルがある。
玄関のほうが南側で、リビングルームの奥側が、北側だ。
ソファーには、数名の黒髪少女が座っていた。
西側のソファーには、南側から順に、エルナ、ベアーナ、ウォルナだ。
南側と北側のソファーには、黒髪少女が一人ずつ、腰かけている。
「おかえり。クマート」
「お帰りなさいませ。クマート様」
「若様、お帰り!」
ソファーに腰かけた少女たちが、口々に声をかけた。
クマートは返事をしつつ、東側のソファーに向かうと、マリアンヌに席を勧めた。
座った。東側のソファーに。北から順に、マリアンヌ、クマート、アメリアだ。
クマートが、声をかけた。
「シーナ先生、帝国大学の授業は、どうでしたか?」
「まあ、まだ始まったばかりだからね。各科目の授業紹介、的な」
突然、大きな声を出した。クマートが。
「シーナ先生、今から飲んでいるんですか! 飲み過ぎは、脳に悪いですよ。今は、十五歳の肉体なんですから」
南側ソファーの黒髪少女シーナは、銀製のグラスを手にしていた。グラスの中身は、赤ワインだ。
「だいじょうぶだ。頭の中は、大人だから」
「記憶は、そうかもしれませんが……」
ふたたび、大きな声を出した。クマートが。
「ニーナさんまで、飲んでるんですか?」
北側ソファーの黒髪少女が、銀製グラスをかかげた。
「少しだけです。まだ、酔っては、いませんわ」
「そういう問題じゃないんですが」
シーナが、ガハハと笑った。
「ケチケチすんな。地下倉庫には、赤ワインの樽が、まだいくつもあったぞ」
「だから、そういう問題じゃ、ないんです。先生の健康を、心配しているんです」
「健康、健康。すごく健康。おまえの黒魔術の秘薬のおかげで。老眼も近眼も、腰痛も五十肩も、もう直った」
ニーナが、口を開いた。
「あらシーナ、あなた五十肩だったの?」
「年取れば、誰でもなるだろ」
「あたしは腰痛と関節痛はあったけれど、五十肩には、なっていなかったわよ」
「なに言ってんだ。若さ自慢か? あたしと同学年のくせに」
ガハハと、また笑った。
キョトンと、していた。マリアンヌは。
シーナとニーナの会話を、理解できないからだろう。
クマートが、紹介した。右手で指し示しながら。
「マリアンヌさん、こちらの女性が、私の母校の校長先生だったシーナ先生で、そちらが、領主城のメイド長だったニーナさんです」
マリアンヌは、状況を理解できなかった。
なぜなら、シーナもニーナも、十五歳前後の少女だからだ。
訝しげな表情で、マリアンヌが尋ねた。
「お若くして、出世されたんですね」
ガハハと大笑いした。シーナが。
クマートが、ニヤつきながら尋ねた。
「シーナ先生とニーナさん、何歳だと思います?」
「おいおい、やめろよ、クマート」
「十五歳くらいに見えますけど、実際には十八歳くらいなのですか?」
ガハハと、また笑った。シーナが。
「五十五歳です」
クマートが答えた。笑いをかみ殺して。
絶句しているマリアンヌを見つめながら、クマートが言葉を続けた。
「シーナ先生とニーナさんには、黒魔術の秘薬、若返りの薬を飲んでもらったんです」
若返りの秘薬は、クマートの血を混ぜたものだ。クマートの血は、ケガ人以外が飲めば、若返りするのではないかと思い、実験してみたのだ。
シーナが、言葉をはさんだ。
「若返りすぎたけどな」
「分量の調整が、難しいですね」
そう答えてから、クマートは、マリアンヌの紹介を始めた。
「シーナ先生、ニーナさん。彼女は、魔法特待生のマリアンヌさんです」
「魔法特待生か。すごい魔法を使うのか? ちょっと見せてくれ」
「それは、別の機会にしましょう。マリアンヌさんは今、疲れているんです。たいへんなことがあって」
「たいへんなことって、なんだ?」
クマートが、説明を始めた。王子の取り巻きに襲われたことや、別の不良貴族たちに、平民寮の前で、待ち伏せされたことなどを。
説明が終わった直後、メイドのメリッサが現れた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。なにか、お飲み物をお出ししましょうか?」
「ハーブティーを。アメリアは、なににする?」
「クマート様と同じものを」
「じゃあ、ハーブティーを三つ。ベアーナたちは、なにを飲んでる?」
「レモネード」
「なんですか、それは?」
マリアンヌのその質問に、アメリアが、すかさず答えた。
「知らないのは、当然ですわ。なぜなら、クマート様が発明した飲み物ですから。クマート様は天才で、次から次に、素晴らしいものを発明するのよ」
クマートが、説明を始めた。少しばかり、照れながら。
「レモネードは、レモン果汁に、蜂蜜を入れて水で薄めたものです」
そう言ってから、メリッサに頼んだ。
「レモネードも、一つ追加で」
その直後だった。
シーナが、口を開いた。
「それで、クマート。その女、マリアンヌを、愛人にするつもりなのか?」
ニーナが、きっぱりと言い切った。
「反対です。その女を、愛人にするのは」
クマートの屋敷に、着いた。
広々としたリビングルームの中央には、五人掛けのロングソファーが四脚、ロの字型に置かれている。
各ソファーの前には、ローテーブルがある。
玄関のほうが南側で、リビングルームの奥側が、北側だ。
ソファーには、数名の黒髪少女が座っていた。
西側のソファーには、南側から順に、エルナ、ベアーナ、ウォルナだ。
南側と北側のソファーには、黒髪少女が一人ずつ、腰かけている。
「おかえり。クマート」
「お帰りなさいませ。クマート様」
「若様、お帰り!」
ソファーに腰かけた少女たちが、口々に声をかけた。
クマートは返事をしつつ、東側のソファーに向かうと、マリアンヌに席を勧めた。
座った。東側のソファーに。北から順に、マリアンヌ、クマート、アメリアだ。
クマートが、声をかけた。
「シーナ先生、帝国大学の授業は、どうでしたか?」
「まあ、まだ始まったばかりだからね。各科目の授業紹介、的な」
突然、大きな声を出した。クマートが。
「シーナ先生、今から飲んでいるんですか! 飲み過ぎは、脳に悪いですよ。今は、十五歳の肉体なんですから」
南側ソファーの黒髪少女シーナは、銀製のグラスを手にしていた。グラスの中身は、赤ワインだ。
「だいじょうぶだ。頭の中は、大人だから」
「記憶は、そうかもしれませんが……」
ふたたび、大きな声を出した。クマートが。
「ニーナさんまで、飲んでるんですか?」
北側ソファーの黒髪少女が、銀製グラスをかかげた。
「少しだけです。まだ、酔っては、いませんわ」
「そういう問題じゃないんですが」
シーナが、ガハハと笑った。
「ケチケチすんな。地下倉庫には、赤ワインの樽が、まだいくつもあったぞ」
「だから、そういう問題じゃ、ないんです。先生の健康を、心配しているんです」
「健康、健康。すごく健康。おまえの黒魔術の秘薬のおかげで。老眼も近眼も、腰痛も五十肩も、もう直った」
ニーナが、口を開いた。
「あらシーナ、あなた五十肩だったの?」
「年取れば、誰でもなるだろ」
「あたしは腰痛と関節痛はあったけれど、五十肩には、なっていなかったわよ」
「なに言ってんだ。若さ自慢か? あたしと同学年のくせに」
ガハハと、また笑った。
キョトンと、していた。マリアンヌは。
シーナとニーナの会話を、理解できないからだろう。
クマートが、紹介した。右手で指し示しながら。
「マリアンヌさん、こちらの女性が、私の母校の校長先生だったシーナ先生で、そちらが、領主城のメイド長だったニーナさんです」
マリアンヌは、状況を理解できなかった。
なぜなら、シーナもニーナも、十五歳前後の少女だからだ。
訝しげな表情で、マリアンヌが尋ねた。
「お若くして、出世されたんですね」
ガハハと大笑いした。シーナが。
クマートが、ニヤつきながら尋ねた。
「シーナ先生とニーナさん、何歳だと思います?」
「おいおい、やめろよ、クマート」
「十五歳くらいに見えますけど、実際には十八歳くらいなのですか?」
ガハハと、また笑った。シーナが。
「五十五歳です」
クマートが答えた。笑いをかみ殺して。
絶句しているマリアンヌを見つめながら、クマートが言葉を続けた。
「シーナ先生とニーナさんには、黒魔術の秘薬、若返りの薬を飲んでもらったんです」
若返りの秘薬は、クマートの血を混ぜたものだ。クマートの血は、ケガ人以外が飲めば、若返りするのではないかと思い、実験してみたのだ。
シーナが、言葉をはさんだ。
「若返りすぎたけどな」
「分量の調整が、難しいですね」
そう答えてから、クマートは、マリアンヌの紹介を始めた。
「シーナ先生、ニーナさん。彼女は、魔法特待生のマリアンヌさんです」
「魔法特待生か。すごい魔法を使うのか? ちょっと見せてくれ」
「それは、別の機会にしましょう。マリアンヌさんは今、疲れているんです。たいへんなことがあって」
「たいへんなことって、なんだ?」
クマートが、説明を始めた。王子の取り巻きに襲われたことや、別の不良貴族たちに、平民寮の前で、待ち伏せされたことなどを。
説明が終わった直後、メイドのメリッサが現れた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。なにか、お飲み物をお出ししましょうか?」
「ハーブティーを。アメリアは、なににする?」
「クマート様と同じものを」
「じゃあ、ハーブティーを三つ。ベアーナたちは、なにを飲んでる?」
「レモネード」
「なんですか、それは?」
マリアンヌのその質問に、アメリアが、すかさず答えた。
「知らないのは、当然ですわ。なぜなら、クマート様が発明した飲み物ですから。クマート様は天才で、次から次に、素晴らしいものを発明するのよ」
クマートが、説明を始めた。少しばかり、照れながら。
「レモネードは、レモン果汁に、蜂蜜を入れて水で薄めたものです」
そう言ってから、メリッサに頼んだ。
「レモネードも、一つ追加で」
その直後だった。
シーナが、口を開いた。
「それで、クマート。その女、マリアンヌを、愛人にするつもりなのか?」
ニーナが、きっぱりと言い切った。
「反対です。その女を、愛人にするのは」
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる