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第五章 腹黒ヒロインの策略 <第1話:腹黒ヒロインの決意>

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  <第五章 第1話:腹黒ヒロインの決意>
 マリアンヌが、意識を取り戻した。
 「動かないで。落ちますよ」
 思わず、しがみついた。マリアンヌが、クマートに。両腕を、彼の首に回して。
 クマートは、マリアンヌを、お姫様抱っこしていた。林の中を、歩きながら。
 数秒の沈黙のあと、マリアンヌが尋ねた。
 「どこへ向かっているのですか?」
 「私の屋敷です。平民寮には、戻れそうにないですから。少なくとも、今夜は」
 マリアンヌは、絶望した。この男も、身体目当てなのか、と。
 「だいじょうぶですよ。私の屋敷にいるのは、私以外は全員、女性です」
 その瞬間、すばやく、考えをめぐらせた。マリアンヌが、頭の中で。
 彼以外全員女性ならば、輪姦されることはない。
 この男、クマート・オスターラント準男爵令息は、お人好しのようだ。
 この男なら、うまく攻略し、たらし込むことが、できるかもしれない。
 うまくやれば、たま輿こし
 辺境の田舎領主の跡継ぎに過ぎないが。王子よりも遥かに、見劣りがする。
 だが、王子の攻略は、もう無理。
 攻略のターゲットを、引き下げなければ。
 しかし、うまくやらないと、ただの愛人で終わってしまう。使い捨ての愛人では、多額の資金を引き出せない。
 なんとか、うまく攻略しなければ……。
 そこまで考えたとき、マリアンヌは叫んだ。心の中で。
 違うわ!
 そうじゃない!
 絶対に、攻略する。
 必ず、攻略を成功させる。
 マリアンヌは、決意した。
 思い出した。帝国学園に入学したときに、誓ったことを。
 いや、誓ったのは、そのときではない。母のもとから、逃げ出したときだ。
 母は、カルト宗教に洗脳された。全財産を寄進して、貧困のどん底に転落した。その上、奴隷として、売り飛ばされそうになった。
 十二歳の時だ。
 そのとき、誓った。
 必ず、大金持ちになる。
 大金持ちになって、奪われた父の財産を、取り戻す。カルト教団から。
 そのためには、カネだけでは、不十分だ。権力も必要だ。
 だから王子が、最適だった。
 王子と結婚できれば、絶大な権力が手に入る。
 王子の権力を使えば、カルト教団に復讐できる。極悪教祖を処刑し、カルト教団を殲滅せんめつすることができる。
 王子が、最適なターゲットだったのに。
 しかし、もう王子は、あきらめるしかない。
 クマートという男は、身分は準男爵の令息のため、上級貴族の中では、最下層だ。権力の及ぶ範囲は、辺境の領地内だけだ。
 よって、権力については、期待できない。
 だが、ドラゴンを倒した男だ。大型魔獣も、何匹も倒したようだ。魔獣のつのは、大金になる。
 この男は、カネを持っている。かなりの大金を。
 そこまで考えたときだった。
 思わず、小さな悲鳴を、あげてしまった。マリアンヌが。
 「どうしました?」
 「うしろに、ゆ、幽霊が……」
 クマートは振り返ることなく、平然と尋ねた。マリアンヌを、お姫様抱っこして歩きながら。
 「どんな幽霊です?」
 「こわい顔をした長い黒髪の女の幽霊で……」
 そこまで言ったときだった。
 「失礼な女ね!」
 するどい女の声だった。
 クマートが、笑いだした。
 「マリアンヌさん、彼女は、私の付き人のアメリアです」
 アメリアが、きつい声で言った。
 「あなた、いつまでクマート様に、お姫様抱っこしてもらっているのよ。自分で歩きなさいよ。二本の足が、あるのだから」
 マリアンヌは、思わず、クマートの首に回した両腕に、力を込めた。
 笑いながら、言った。クマートが。
 「まあ、そう言わずに。マリアンヌさんは、さきほど、気絶するほど、怖い目にあったのですから」
 「あの程度が? あたしが気絶したのは、人生で一度きり。大型魔獣に、両足を食いちぎられたときだけよ」
 アメリアのその言葉に、マリアンヌが即座に疑問をていした。
 「だけど今、あなたは自分の足で歩いているわね。両足を、食いちぎられたのに」
 「ええ。そのとおりよ」
 嫌みたっぷりに、尋ねた。マリアンヌが。
 「どうすれば、失った両足がえるのかしら?」
 自信たっぷりに、答えた。アメリアが。
 「クマート様の、愛のおかげよ」
 さらに、言葉を続けた。アメリアが。
 「あたし、クマート様に溺愛できあいされているのよ」
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