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<第四章 第6話:ヒロイン危機一髪>
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<第四章 第6話:ヒロイン危機一髪>
新入生懇親会は、夜七時に終了した。
その少しあと。体育館の裏手、林の暗闇の中。
アメリアが、甘ったるい声を出してきた。
「クマートさまぁ。こんな人気のないところに呼び出して、なにをなさるおつもりですかぁ。たしかに、屋敷は人が多くて、二人きりに、なかなかなれないですけどぉ」
「静かに。人が来た」
マリアンヌと、四名の男子生徒が来た。体育館の裏に。
体育館裏の壁と、林の間には、十メートルほどの距離がある。その間には、さえぎるものは、なにもない。そのため、林の中は暗いが、体育館裏は、月明かりがさして、けっこう明るい。
マリアンヌが、尋ねた。不審そうな声で。
「本当に、王子殿下が、ここに来るのですか?」
「来るわけないだろ! このバカ女が!」
下級貴族の男子生徒が、あざ笑った。
マリアンヌは、王子が呼んでいると言われ、体育館裏まで、連れ出されたのだ。
別の下級貴族が、笑い飛ばした。
「おいおい。本当に、平民のおまえなんかを、王子殿下が気に留めてたと、思っているのか」
さらに、別の下級貴族が、言い放った。嫌みたっぷりに。
「おまえは、騙されたんだよ。おれ様たちに、な」
四人目の下級貴族が、口を開いた。極悪そうな表情で。
「おまえ、これからどうなるか、わかってんのか?」
四名の不良貴族たちが、マリアンヌの両腕や肩をつかみ、地面に押し倒した。
思わず、マリアンヌが叫んだ。
「いや! やめて!」
「やめるわけ、ないだろ。おまえこそ、抵抗をやめろ。平民は、おとなしく貴族さまに、したがっていればいいんだ」
「痛い! 酷いことしないで!」
不良貴族の一人が、笑いだした。
「ひどいこと、するに決まってるだろ! これからおまえを、輪姦するんだからな」
「いや! 助けて! 誰か!」
その瞬間だった。
クマートが、剣を振り下ろした。鞘に入ったままの長剣を。不良貴族たちの脳天に。次々に。
四名の不良貴族たちは、全員、一撃で失神した。
クマートが、呼びかけた。左手で、マリアンヌの右手をつかんで、引き起こしながら。
「さあ、早く。ここから、離れましょう」
林の暗闇の中に、マリアンヌを連れ込んだ。
彼女が、なにかを言おうとした。
だが、それを止めた。
「静かに。誰かが、来ました」
王子だった。付き人の男女を一名ずつ、引き連れている。
王子が、呼びかけた。失神している不良貴族たちに。
「なにやってるんだ! おまえたち!」
付き人の男子が、不良貴族たちの脇腹を蹴って、意識を取り戻させた。
不良貴族たち四名は、なにが起きたか、覚えていなかった。
「それで、魔法特待生の巨乳平民女は、どこだ?」
王子のその質問に、不良貴族たち四名は、まともに答えられなかった。
「殿下のご命令通り、騙して、ここへ連れて来たのですが……」
もう一人が、弁解を始めた。
「突然、意識を失って……」
別の不良貴族も、口を開いた。
「まだ近くに、いるはずです。今すぐ手分けして探して、殿下のもとに引っ張ってまいります」
「もう、いい」
王子が、そう答えた。不満そうな声だった。
「ですが……」
「役立たずめ」
そう吐き捨てた。王子が。
「殿下、もう一度チャンスを。今度は、うまくやりますから」
「もう、いい。おまえらには、頼まん」
王子は、付き人たちを引き連れ、もと来た道を戻っていった。
四名の不良貴族たちも、肩を落とし、すごすごと、帰って行った。
林の暗闇の中で、マリアンヌが、しゃがみ込んだ。頭を両手で抱えて。
「だいじょうぶですか? マリアンヌさん」
クマートの呼びかけに、マリアンヌはなにも答えず、嗚咽をもらし始めた。
魔法の王冠のテレパシー能力を使って、マリアンヌの思考を読んでみた。
恐ろしい、恐ろしい、なんて恐ろしいの……。
やさしそうに見えたのに。王子が、あんな人だったなんて。
極悪王子に、目をつけられた。
あたしの人生は、もう、終わった……。
マリアンヌは、絶望のどん底に、突き落とされた。
新入生懇親会は、夜七時に終了した。
その少しあと。体育館の裏手、林の暗闇の中。
アメリアが、甘ったるい声を出してきた。
「クマートさまぁ。こんな人気のないところに呼び出して、なにをなさるおつもりですかぁ。たしかに、屋敷は人が多くて、二人きりに、なかなかなれないですけどぉ」
「静かに。人が来た」
マリアンヌと、四名の男子生徒が来た。体育館の裏に。
体育館裏の壁と、林の間には、十メートルほどの距離がある。その間には、さえぎるものは、なにもない。そのため、林の中は暗いが、体育館裏は、月明かりがさして、けっこう明るい。
マリアンヌが、尋ねた。不審そうな声で。
「本当に、王子殿下が、ここに来るのですか?」
「来るわけないだろ! このバカ女が!」
下級貴族の男子生徒が、あざ笑った。
マリアンヌは、王子が呼んでいると言われ、体育館裏まで、連れ出されたのだ。
別の下級貴族が、笑い飛ばした。
「おいおい。本当に、平民のおまえなんかを、王子殿下が気に留めてたと、思っているのか」
さらに、別の下級貴族が、言い放った。嫌みたっぷりに。
「おまえは、騙されたんだよ。おれ様たちに、な」
四人目の下級貴族が、口を開いた。極悪そうな表情で。
「おまえ、これからどうなるか、わかってんのか?」
四名の不良貴族たちが、マリアンヌの両腕や肩をつかみ、地面に押し倒した。
思わず、マリアンヌが叫んだ。
「いや! やめて!」
「やめるわけ、ないだろ。おまえこそ、抵抗をやめろ。平民は、おとなしく貴族さまに、したがっていればいいんだ」
「痛い! 酷いことしないで!」
不良貴族の一人が、笑いだした。
「ひどいこと、するに決まってるだろ! これからおまえを、輪姦するんだからな」
「いや! 助けて! 誰か!」
その瞬間だった。
クマートが、剣を振り下ろした。鞘に入ったままの長剣を。不良貴族たちの脳天に。次々に。
四名の不良貴族たちは、全員、一撃で失神した。
クマートが、呼びかけた。左手で、マリアンヌの右手をつかんで、引き起こしながら。
「さあ、早く。ここから、離れましょう」
林の暗闇の中に、マリアンヌを連れ込んだ。
彼女が、なにかを言おうとした。
だが、それを止めた。
「静かに。誰かが、来ました」
王子だった。付き人の男女を一名ずつ、引き連れている。
王子が、呼びかけた。失神している不良貴族たちに。
「なにやってるんだ! おまえたち!」
付き人の男子が、不良貴族たちの脇腹を蹴って、意識を取り戻させた。
不良貴族たち四名は、なにが起きたか、覚えていなかった。
「それで、魔法特待生の巨乳平民女は、どこだ?」
王子のその質問に、不良貴族たち四名は、まともに答えられなかった。
「殿下のご命令通り、騙して、ここへ連れて来たのですが……」
もう一人が、弁解を始めた。
「突然、意識を失って……」
別の不良貴族も、口を開いた。
「まだ近くに、いるはずです。今すぐ手分けして探して、殿下のもとに引っ張ってまいります」
「もう、いい」
王子が、そう答えた。不満そうな声だった。
「ですが……」
「役立たずめ」
そう吐き捨てた。王子が。
「殿下、もう一度チャンスを。今度は、うまくやりますから」
「もう、いい。おまえらには、頼まん」
王子は、付き人たちを引き連れ、もと来た道を戻っていった。
四名の不良貴族たちも、肩を落とし、すごすごと、帰って行った。
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「だいじょうぶですか? マリアンヌさん」
クマートの呼びかけに、マリアンヌはなにも答えず、嗚咽をもらし始めた。
魔法の王冠のテレパシー能力を使って、マリアンヌの思考を読んでみた。
恐ろしい、恐ろしい、なんて恐ろしいの……。
やさしそうに見えたのに。王子が、あんな人だったなんて。
極悪王子に、目をつけられた。
あたしの人生は、もう、終わった……。
マリアンヌは、絶望のどん底に、突き落とされた。
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