27 / 41
<第四章 第5話:腹黒王子の腹の底>
しおりを挟む
<第四章 第5話:腹黒王子の腹の底>
王子は、うんざりしていた。グレースに。
同じクラスになりたい、と駄々をこねたときには、心底、うんざりしたようだ。
王子の心証が一気に悪化したのは、クラスメイト斬首未遂事件と、女性教師殺害未遂事件だ。どちらも、クマートが止めたため、実害は、なかった。
だが、女性教師の報告により、グレースが、教師まで殺そうとしたことが、明らかになった。
王子の頭の中では、クラスメイト斬首未遂事件よりも、女性教師殺害未遂事件のほうが、大きな問題のようだ。
どうやら、クラスメイト斬首未遂事件のほうは、被害者の少年にも、失礼な態度があった、と思い込んでいる。
しかし、いくら失礼でも、だからと言って、平民をその場で殺害していいことには、ならない。
王子である自分だって、失礼な発言をする家臣に対し、いつも我慢しているのだ。
それなのに、グレースは。
そう、考えていた。
一方、女性教師殺害未遂事件のほうは、一方的にグレースが悪いと、考えているようだ。
いや、悪いというより、異常な行為だと、感じている。
そのため、これを期に、王子は、婚約破棄を真剣に考え始めた。
だが、その方法が、わからない。なんとか、もめずに婚約破棄できる方法は、ないか。
そう、思っているようだ。
王子が、マリアンヌに目を留めた。
表情は変わらなかったが、王子が、悪いことを思いついたようだ。
テレパシー能力のおかげで、王子の謀略を読み取ることができた。
サーニャのあいさつと、献上品目録の読み上げが、終わった。
クマートが、王子に話しかけた。
「王子殿下は、マリアンヌさんを、ご存じですか?」
マリアンヌが、すかさず口を開いた。
「王子殿下、あ、あたしは……」
そのときだった。
ぴしゃりと言い放った。グレースが。
「無礼者! 平民の分際で、王子殿下に話しかけるとは!」
思わず、黙ってしまった。マリアンヌが。下を向いて。
「まあ、そう言うな。同じ学園の学生なのだし」
「しかし、王子殿下……」
食い下がろうとしたグレースの言葉を、王子がさえぎった。
「ところで貴公は、彼女とは、どこで知り合いに?」
「はい。マリアンヌさんとは、さきほど、この会場で知り合い、友達になりました」
目をむいた。グレースが。
「友達? 平民と? しょせん準男爵ふぜいは……」
露骨に、嫌な顔をした。王子が。グレースの発言に対して。
「ところで!」
王子が大きな声で、グレースの発言をさえぎった。
「貴公とそなたは、婚約しているのかね?」
そう言いながら、サーニャを見た。
サーニャは、嬉しそうな顔で、またノロケ話を始めた。
正式な婚約はまだだが、サーニャの父は乗り気だ、というところまで話したところで、クマートが、口をはさんだ。
「王子殿下のお時間を、これ以上お取りしては、ほかの行列待ちの方々に、恨まれてしまいます。私どもは、この辺で、失礼させていただきます」
そう言って、サーニャとマリアンヌをうながした。
会場の東の端に、向かった。
「サーニャさんと、マリアンヌさん、ワニ肉料理を食べに行きましょう。もうそろそろ、うちの料理人たちが、作っているはずです」
マリアンヌは、うつむいたまま、押し黙っている。制服の胸のボタンを、右手でいじりながら。
帝国学園の制服は、身分にかかわらず、同じデザインだ。
だが、一目で身分がわかる。
ボタンの素材が、違うからだ。
制服は、軍服をモデルとしたため、男女ともに、詰め襟型だ。女子は、下半身は、ひだ付きのロングスカートだ。
上半身のボタンは、上級貴族は黄金製で、中級貴族は銀製、下級貴族は銅製だ。
そして平民は、青銅製だ。
中下級貴族たちが、よく言うらしい。
「金ボタンは、磨かなくても輝く。銀と銅のボタンは、磨けば輝く。青銅のボタンは、どんなに磨いても、輝かない」
この言葉は、人材についての暗喩だ。
上級貴族は、努力しなくとも、最初から輝かしい人材で、名誉ある地位に就く。
中下級貴族は、努力すれば能力が伸び、輝く人材に成長できる。つまり、名誉ある地位に就くことが、できる。
一方、平民は、どんなに努力をしても、輝く人材には、なれない。高い地位には、つけない。
この帝国の現実を、ほぼ言い当てている。
「マリアンヌさん、グレース様の発言は、気にしないでください。少なくともボクたちは、身分に関係なく、もう友達ですよ」
マリアンヌが、涙ぐんだ。少しばかり。
王子は、うんざりしていた。グレースに。
同じクラスになりたい、と駄々をこねたときには、心底、うんざりしたようだ。
王子の心証が一気に悪化したのは、クラスメイト斬首未遂事件と、女性教師殺害未遂事件だ。どちらも、クマートが止めたため、実害は、なかった。
だが、女性教師の報告により、グレースが、教師まで殺そうとしたことが、明らかになった。
王子の頭の中では、クラスメイト斬首未遂事件よりも、女性教師殺害未遂事件のほうが、大きな問題のようだ。
どうやら、クラスメイト斬首未遂事件のほうは、被害者の少年にも、失礼な態度があった、と思い込んでいる。
しかし、いくら失礼でも、だからと言って、平民をその場で殺害していいことには、ならない。
王子である自分だって、失礼な発言をする家臣に対し、いつも我慢しているのだ。
それなのに、グレースは。
そう、考えていた。
一方、女性教師殺害未遂事件のほうは、一方的にグレースが悪いと、考えているようだ。
いや、悪いというより、異常な行為だと、感じている。
そのため、これを期に、王子は、婚約破棄を真剣に考え始めた。
だが、その方法が、わからない。なんとか、もめずに婚約破棄できる方法は、ないか。
そう、思っているようだ。
王子が、マリアンヌに目を留めた。
表情は変わらなかったが、王子が、悪いことを思いついたようだ。
テレパシー能力のおかげで、王子の謀略を読み取ることができた。
サーニャのあいさつと、献上品目録の読み上げが、終わった。
クマートが、王子に話しかけた。
「王子殿下は、マリアンヌさんを、ご存じですか?」
マリアンヌが、すかさず口を開いた。
「王子殿下、あ、あたしは……」
そのときだった。
ぴしゃりと言い放った。グレースが。
「無礼者! 平民の分際で、王子殿下に話しかけるとは!」
思わず、黙ってしまった。マリアンヌが。下を向いて。
「まあ、そう言うな。同じ学園の学生なのだし」
「しかし、王子殿下……」
食い下がろうとしたグレースの言葉を、王子がさえぎった。
「ところで貴公は、彼女とは、どこで知り合いに?」
「はい。マリアンヌさんとは、さきほど、この会場で知り合い、友達になりました」
目をむいた。グレースが。
「友達? 平民と? しょせん準男爵ふぜいは……」
露骨に、嫌な顔をした。王子が。グレースの発言に対して。
「ところで!」
王子が大きな声で、グレースの発言をさえぎった。
「貴公とそなたは、婚約しているのかね?」
そう言いながら、サーニャを見た。
サーニャは、嬉しそうな顔で、またノロケ話を始めた。
正式な婚約はまだだが、サーニャの父は乗り気だ、というところまで話したところで、クマートが、口をはさんだ。
「王子殿下のお時間を、これ以上お取りしては、ほかの行列待ちの方々に、恨まれてしまいます。私どもは、この辺で、失礼させていただきます」
そう言って、サーニャとマリアンヌをうながした。
会場の東の端に、向かった。
「サーニャさんと、マリアンヌさん、ワニ肉料理を食べに行きましょう。もうそろそろ、うちの料理人たちが、作っているはずです」
マリアンヌは、うつむいたまま、押し黙っている。制服の胸のボタンを、右手でいじりながら。
帝国学園の制服は、身分にかかわらず、同じデザインだ。
だが、一目で身分がわかる。
ボタンの素材が、違うからだ。
制服は、軍服をモデルとしたため、男女ともに、詰め襟型だ。女子は、下半身は、ひだ付きのロングスカートだ。
上半身のボタンは、上級貴族は黄金製で、中級貴族は銀製、下級貴族は銅製だ。
そして平民は、青銅製だ。
中下級貴族たちが、よく言うらしい。
「金ボタンは、磨かなくても輝く。銀と銅のボタンは、磨けば輝く。青銅のボタンは、どんなに磨いても、輝かない」
この言葉は、人材についての暗喩だ。
上級貴族は、努力しなくとも、最初から輝かしい人材で、名誉ある地位に就く。
中下級貴族は、努力すれば能力が伸び、輝く人材に成長できる。つまり、名誉ある地位に就くことが、できる。
一方、平民は、どんなに努力をしても、輝く人材には、なれない。高い地位には、つけない。
この帝国の現実を、ほぼ言い当てている。
「マリアンヌさん、グレース様の発言は、気にしないでください。少なくともボクたちは、身分に関係なく、もう友達ですよ」
マリアンヌが、涙ぐんだ。少しばかり。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!
リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。
聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。
「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」
裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。
「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」
あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった!
、、、ただし責任は取っていただきますわよ?
◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。
更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる